初雪の予感と、ふたりだけのクリスマス準備
十二月の澄んだ空気と、ふたりで運ぶ大きなツリー
十二月中旬、冬の冷たさが心地よく肌を刺す東京・本郷。
街はすっかりクリスマス一色に染まり、夕暮れになると街頭のイルミネーションが華やかにきらめいていた。
本郷の新居マンションのメインリビングでは、温かい暖房の風とともに、甘い焼き立てのアップルパイの香りが漂っていた。
「……よし! 樹くん、もう少し右よ! ううん、やっぱり少し左……うん、完璧!」
リビングの中央で大きなダンボールから取り出されたのは、二人の身長を軽く超える180センチの立派なモミの木のクリスマスツリーだった。
橘樹は、セーターの袖をまくり上げながらツリーの土台を固定し、汗を軽く拭った。
「ふう……! かなり大きいですね! でも、この広いリビングにはピッタリです!」
「ええ! あなたと一緒に暮らす初めてのクリスマスだもの。ずっと前から、こんな風に二人で大きなツリーを飾り付けるのが夢だったのよ」
隣で嬉しそうに胸を躍らせていたのは、モコモコの白いオーバーサイズセーターにショートパンツを合わせた夏目涼香だった。
部屋着姿の彼女は、普段の「東大の氷山姫」としての凛とした佇まいとは打って変わり、樹の前でしか見せない無邪気で可愛らしい笑顔を咲かせていた。
ハシゴの上のハプニングと、愛おしい抱擁
二人は色とりどりのオーナメント球や、ゴールドのチェーン、そしてキラキラと光るLEDイルミネーションのコードを手に取り、楽しそうにツリーへ飾り付けを始めた。
「樹くん、見て! このサファイア色のオーナメント……あの受験の時にあなたがくれたお守りと同じ色なの」
「本当だ……! 綺麗ですね、涼香。じゃあ、これは一番目立つ真ん中に飾りましょう」
二人は思い出を語り合いながら、一つ一つ丁寧に飾りを重ねていく。
やがて、残るはツリーの最上部に飾る『大きな黄金の星』だけとなった。
「てっぺんの星は……私が飾るわね!」
涼香は小さなステップハシゴを持ってくると、すばしっこく足をかけて上り始めた。
しかし、背伸びをしてツリーの先端に手を伸ばしたその時――
「きゃっ……!?」
バランスを崩したハシゴがガタリと揺れ、涼香の体が宙に浮いた。
「涼香……っ! 危険です!」
瞬時に反応した樹は、迷わずハシゴの下へ飛び込み、両腕を大きく広げて落ちてくる涼香の体を受け止めた。
どさっ。
リビングの柔らかいラグマットの上に二人は倒れ込んだ。
樹がしっかりと涼香の腰と頭を抱きかかえていたため、涼香にはかすり傷一つなかった。
「っ……く……! 涼香、大丈夫ですか!? ケガはありませんか!?」
「あ……ええ……。樹くんが受け止めてくれたから……全然平気よ……」
重なる体温と、世界一贅沢なプレゼント
樹の上にすっぽりと重なる形で倒れ込んだ涼香。
至近距離で重なり合う視線。
涼香のモコモコのセーター越しに伝わる温かい体温と、トクン、トクンと激しく打つお互いの心臓の音だけが、静かな部屋に響き渡っていた。
「……よかった……。涼香に何かあったら、僕はどうにかなってしまうところでした……」
樹は安堵の溜息をつきながら、抱きしめた涼香の背中に回した腕にギュッと力を込めた。
そんな樹の真摯で深い愛に触れ、涼香の琥珀色の瞳がとろけるような甘い熱を帯びていく。
彼女は樹の胸元に頬をすり寄せると、上目遣いで樹の唇をじっと見つめた。
「……ごめんなさい、樹くん。心配させてしまって……」
「いいえ……無事で本当によかったです」
「ふふ……でもね、樹くん。こんな風にあなたに強く抱きしめられると……胸が苦しいくらい幸せになっちゃうの」
涼香はそう囁くと、細い指先で樹のネクタイの緩んだ襟元をそっと撫で上げた。
「ねえ、樹くん。クリスマスプレゼント……何が欲しいか、もう決めたかしら?」
「え? プレゼントですか? ううん……涼香と一緒に居られるだけで、僕はこれ以上何も要りませんよ」
「……だめよ。私はね、もう決めているの」
涼香はそっと背伸びをして、樹の耳元に吐息がかかるほどの距離で甘く囁いた。
「私へのプレゼントは……今年のクリスマスも、来年も、その先もずっと……私を『妻』として誰よりも愛してくれる、あなた自身よ。……他のものは、何もいらないわ」
「涼香……っ!」
点灯するイルミネーションと、甘い接吻
樹の胸が高鳴り、もう我慢できなくなった彼は、涼香の細い腰を引き寄せると、そのまま二人の唇を深く重ね合わせた。
「……ん……ふぁ……っ……樹くん……」
吐息が漏れ、何度も角度を変えながら交わされる深くて甘い口づけ。
指輪が美しく嵌められた二人の手がしっかりと固く結ばれる。
ふと、倒れた拍子に樹の足がコンセントのスイッチに触れ――
カチッ。
部屋の照明が消え、ツリー全体に巻き付けられた数百個のLEDイルミネーションが一斉に点灯した。
シャンパンゴールドとサファイアブルーの美しい光が、暗くなったリビングを幻想的に照らし出す。
光の粒が、重なり合う二人のシルエットと、うっとりと瞳を閉じる涼香の美しい横顔を優しく包み込んだ。
「……きれい……樹くん……」
「ええ……すごく綺麗です、涼香」
「ふふ、でも……私を一番キュンとさせるのは、このイルミネーションよりも……あなたの愛おしい瞳よ」
涼香は樹の首に両腕を回し、再び甘い唇を寄せてきた。
外では、今年最初の初雪がチラチラと舞い降り始めていた。
二人きりの温かい新居で、夫婦として迎える初めての聖夜は、どこまでも甘く、特別な輝きを放ちながら深まっていくのだった――!




