図書館の静寂と、二人だけの秘密の授業
【一】新緑のキャンパスと、新妻先輩の家庭教師指導
五月中旬、爽やかな薫風が吹き抜ける東京大学・本郷キャンパス。
新緑の銀杏並木が鮮やかな緑のトンネルを作り、初夏の陽光が心地よく木漏れ日を落としていた。
大学生活が始まって一ヶ月あまり。
高校までの受動的な授業とは異なり、膨大な専門書と判例を読み込む大学の講義に、新入生たちは少しずつ苦戦し始める時期だった。
「……ううん、法学政治学の論述レポート……やっぱり高校までの現代文とは構成の組み方が全然違うな……」
総合図書館の重厚な赤レンガの建物を背に、橘樹はノートパソコンと厚い専門書を抱えて溜息をついていた。
すると、彼の隣でしとやかに歩いていた夏目涼香が、クスクスと愛おしそうに微笑んだ。
「ふふ、悩んでいるわね、樹くん。大学の論述は、独自の主張よりも『客観的な論理構造と判例の引用』が命なのよ。……大丈夫、今日は私がみっちり教えてあげるわ」
涼香は清楚な薄紫色のサマーニットに、白いプリーツスカート姿。
法学部トップの成績を誇る彼女は、法学部の教授陣からも一目置かれる存在だ。
彼女は樹の腕にそっと自分の手を絡めると、琥珀色の瞳を悪戯っぽく細めた。
「私のプライベートレッスンは、予備校のどんな有名講師よりもスパルタで……そして、世界一甘いのよ?」
【二】総合図書館の静寂と、書架の陰でのひそひそ話
重厚な扉を開け、二人が足を踏み入れたのは、数百万冊の蔵書を誇るT大の『総合図書館』。
天井が高く、静寂が支配する閲覧室では、大勢の学生たちが真剣な眼差しで机に向かっていた。
二人は空いている資料検索用の高い書架エリアへと向かった。
ズラリと並ぶ憲法や民法の分厚い専門書。
「ええと……まずは『憲法判断の基準』に関する判例集を探さなくちゃ……」
樹が背伸びをして書架の上の棚へ手を伸ばそうとした、その時――
ふわり。
背後から甘い桃の香りが漂い、涼香の柔らかい体が樹の背中にすっぽりと密着した。
「っ……!? 涼香……っ!?」
「しーっ……声が大きいわ、樹くん。ここは図書館よ?」
涼香は樹の耳元に唇を極限まで近づけ、吐息が直接耳たぶに触れるほどの囁き声で囁いた。
涼香の細い腕が樹の腰に回され、彼女の豊かな胸元が、薄いニット越しに樹の背中に押し当てられる。
「り、涼香……近いです……! 誰かに見られたら……っ」
「いいじゃない。誰も見ていないわ……それに、声を出したら周りの人に迷惑がかかるでしょう? だから……静かにしなさい?」
涼香は樹の耳たぶを、唇でちゅっと小さく甘噛みした。
「ひゃう……っ!?」
樹の全身に甘い電撃が走り、背筋がゾクゾクと震える。
図書館という「絶対に声を落とさなければならない空間」での秘密の触れ合いは、いつもの何倍も心臓を激しく打ち鳴らさせた。
【三】二人きりの研究個室と、机の下の秘密の甘やかし
事前の予約を取っていた、防音設備の整った二人用の『研究個室(プライベート閲覧室)』へ移動した二人。
重厚な木製のドアを閉めた瞬間、外の静寂すらも遮断され、完全な二人きりの密室空間が完成した。
「ふう……ここなら、少しは声を出しても大丈夫ね」
涼香は嬉しそうに微笑むと、隣同士で設置されたキャスター付きの椅子に座り、樹のノートパソコンの画面を覗き込んできた。
「さあ、樹くん。レポートの構成案を見せて頂戴。……ここが法律上の論点とズレているわね。正しくはね――」
一度指導に入ると、涼香の頭脳は驚くほど明晰だった。
難解な判例の意図や、答案作成のコツを、樹の理解度に合わせてスラスラと分かりやすく解説していく。
(やっぱり涼香はすごいな……本当に格好いい……)
樹が感嘆の眼差しでペンを走らせていると――
ふと、デスクの下で、何か柔らかく温かいものが樹の太ももに触れた。
「え……?」
見下ろすと、涼香が脱ぎ捨てたパンプスから覗く、ストッキングに包まれた繊細な足先が、樹の膝や太ももをそっと撫で上げていた。
「涼香……!? ちょ、ちょっと何をしているんですか……っ!?」
「何って……お勉強の合い間の『息抜き』よ」
涼香は真顔でペンを持ち、真面目な顔でレポートの添削を続けながら、デスクの下では妖艶に足先を動かしていた。
「上が真面目でも……下ではあなたに甘えたいの。ダメかしら、私の可愛い後輩くん?」
「ダ、ダメに決まってます……っ! 集中できません……!」
「ふふ、じゃあ……早くレポートを書き終わらせて? そうしたら……もっといい『ご褒美』をあげるわ」
【四】解禁された愛と、放課後の甘い帰り道
涼香の完璧な指導のおかげで、樹のレポート構成案はわずか一時間でプロ顔負けの完璧な出来栄えとなった。
「よし……! 完璧です! これで提出できます!」
「よく頑張ったわね、樹くん」
涼香は優しく微笑むと、ノートパソコンを閉じさせ、樹の膝の上にそのまま乗っかるように抱きついてきた。
「ん……涼香……!?」
「さあ、お勉強はおしまい。……待ちに待ったご褒美の時間よ」
涼香は樹の首元に両腕を回すと、つま先立ちをするように背を伸ばし、樹の唇を自分の唇で塞いだ。
ちゅ……、んっ……。
静かな個室の中に、甘くて深い接吻の音が響く。
涼香は角度を何度も変えながら、樹の髪に指を絡め、彼からの情熱的な抱擁を全身で受け止めた。
「……んふ……っ……樹くんの唇……とっても甘い……」
「涼香……っ、僕も……涼香のことが好きすぎて、おかしくなりそうです……」
「おかしくなってもいいのよ?……だって私は、あなたの奥様なんだから」
指輪が美しく煌めく手で、お互いの手を強く握り締める二人。
図書館を出て、夕暮れの赤門をくぐる帰り道。
涼香は樹の腕にぴったりと寄り添い、幸せそうに頬を緩ませていた。
「ねえ、樹くん。今日の夕飯は……あなたの好物のハンバーグにしてあげる。……その代わり、今夜はベッドの中で、私にいっぱいお返しをしてね?」
「……はい! 喜んで!」
大学という新しい舞台でも、二人の情熱と甘い愛はどこまでも深く、眩しく輝き続けるのだった――!




