新歓のキャンパスと、誇らしき妻の宣言
【一】桜の散歩道と、洗練されたスーツ姿の旦那様
四月上旬、春爛漫の東京大学・本郷キャンパス。
青く澄み渡る空の下、舞い散る桜の絨毯を踏みしめながら、数千人の新入生たちが希望に胸を膨らませて赤門をくぐっていた。
その新入生の群れの中で、際立って周囲の視線を集めている一人の青年の姿があった。
橘樹――。
聖華高校の制服を脱ぎ捨て、新調したネイビーの洗練されたオーダーメイドスーツに身を包んだ彼は、一年前のあどけなさを完全に脱ぎ捨て、引き締まった身のこなしと凛々しい面持ちをたたえていた。
(……ついに、僕もこのキャンパスの学生になったんだ)
胸のポケットには、あの試練の冬を共に乗り越えた『合格のサファイア御守り』。
そして右手の薬指には、春の陽光を受けて美しく煌めく、プラチナのペアリングが嵌められている。
樹が武道館での入学式を終え、本郷キャンパスの安田講堂前で立ち止まっていると――
「樹くん……!」
群衆の視線を一瞬で奪い去る、甘く愛おしい声が響き渡った。
【二】キャンパスの視線を独占する、圧倒的な二人
人ごみを分けて歩み寄ってきたのは、法学部二年生となった夏目涼香だった。
上品な淡いブルーのトレンチコートに、白いブラウスとフレアスカート。
綺麗に整えられた黒髪となびく裾、そして相変わらずの圧倒的な美貌。
周囲の男子新入生や上級生たちが「えっ……あの人、法学部の夏目先輩じゃない!?」「超絶綺麗な人がこっち歩いてくる……!」と息を呑む。
しかし、涼香の琥珀色の瞳には、世界中でただ一人、樹の姿しか映っていなかった。
「樹くん! 入学式、お疲れ様……!」
「涼香……! 講義はもう終わったんですか?」
「ええ。あなたを一番に出迎えたくて、最後のチュートリアルが終わるなり走ってきたのよ」
涼香はクスッと愛おしそうに微笑むと、周囲の数百人の学生たちが注視する前で、一切の躊躇なく樹の右腕を自分の両腕でぎゅっと抱きかかえ、豊満な胸元へと引き寄せた。
「きゃっ……!? 涼香、周りに新入生や先輩方がたくさんいます……!」
「いいじゃない。……私には、あなたしか見えていないんだもの。それにね、今日から私たちは『同じ大学の先輩と後輩』であり……『世界一仲良しな夫婦』なんだもの」
涼香は左手を掲げ、自分の薬指に嵌められたお揃いのプラチナリングを、陽光の下で誇らしげに輝かせた。
【三】新歓サークル勧誘の嵐と、妻の独占宣言
二人は腕を組んだまま、サークル勧誘のテントが立ち並ぶ銀杏並木を歩き始めた。
「君、新入生!? テニスサークル興味ない? 合宿とかすごく楽しいよ!」
「僕たちのバンドサークルに入らない!? 初心者大歓迎だよ!」
爽やかなスーツ姿の樹を見つけた上級生たちが、次々と勧誘のチラシを差し向けてくる。
しかし、その隣にぴったりと密着している涼香の存在に気づいた瞬間、全員が凍りついた。
「っ……!? 夏目先輩……!?」
「ええっ、夏目先輩がなんで新入生の腕に抱きついているの……!?」
涼香は冷ややかな氷山姫の笑みを浮かべると、樹の腕をさらに強く抱きしめ、勧誘の先輩たちに向かって凛とした声で言い放った。
「申し訳ありませんが、この子はどのサークルにも入りませんわ。……彼の放課後の時間は、すべて私のものですから」
「「「ええええええええっ!?!?!?」」」
周囲から悲鳴のようなどよめきが上がった。
「彼……いえ、私の大切な橘樹くんは、私の婚約者であり、法学部の私の助手でもありますの。……余計な勧誘で、彼の貴重な時間を奪わないでいただけますか?」
涼香の絶対的な独占宣言に、勧誘の男たちを一瞬で蹴散らされた。
樹は顔を真っ赤にしながらも、自分をそこまで誇らしく思ってくれる涼香の愛おしさに胸を熱くし、彼女の手をぎゅっと握り返した。
「涼香……ありがとう。僕も、涼香以外のサークルに入るつもりなんて、最初からありませんよ」
「……ふふ、合格よ、樹くん。ご褒美に、キャンパスで一番美味しいカフェに連れて行ってあげるわね」
【四】夕暮れの講義室と、甘いキャンパスライフの開幕
夕方、放課後の誰もいない大講義室。
西日のオレンジ色の光が大きな窓から差し込み、長いデスクと座席を温かく照らしていた。
駒場祭の時、二人が「来年の春、ここで一緒に座ろう」と誓い合った、まさにその場所だった。
最前列のデスクに二人で並んで腰掛けると、涼香は樹の肩に頭を預け、甘い溜息をついた。
「……夢みたいだわ、樹くん。本当に……本当にあなたが私の隣にいるのね」
「夢じゃないですよ、涼香。僕はずっと……ここにいます」
樹は涼香の細い腰を抱き寄せ、彼女の額に優しく唇を落とした。
涼香は琥珀色の瞳を熱く濡らし、樹のネクタイをゆっくりと引き寄せると、二人の距離をゼロにした。
「……ん……ふぁ……っ……樹くん……大好き……っ」
夕暮れの講義室で、何度も角度を変えて交わされる、深くて甘い誓いの接吻。
大学の講義、新居での同棲生活、そして二人で歩む最高の未来――。
誰にも邪魔できない、二人だけの極上のキャンパスラブストーリーが、今ここに堂々と開幕したのだった――!




