↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
43/59

ふたりだけの初夜と、解禁された甘い温もり

四月一日、春風が桜の花びらを優しく運ぶ、佳き日。

T大の入学式を翌日に控えたこの日、橘樹たちばな いつき夏目涼香なつめ すずかの新しい城――ふたりだけの新居に、すべての荷物と家具が運び込まれた。


段ボール箱がすっきりと片付き、新しい家具の香りと春の日差しが満ちるリビング。


「……ふぅ! これで荷解きは完璧ね!」


涼香はエプロンの裾を軽く整え、満足そうに胸を張った。

私服の薄桃色のニットの上に、先日新宿で買った淡い花柄の新婚エプロンを身につけた姿は、どこからどう見ても可憐な『新妻』そのものだった。


「涼香、お疲れ様です。……それにしても、そのエプロン姿……本当に似合っていて可愛すぎます」


樹が素直に感嘆の声を上げると、涼香の琥珀色の瞳が嬉しそうに緩み、 cheeks がぽっと櫻色に染まった。


「ふふ、ありがとう。……さあ、今夜はふたりの『同居初日』のお祝いよ。私とあなたで、とびっきり美味しいお夕飯を作りましょう?」


「はい! 喜んで手伝います、僕の奥さん」


ふたりで並んで立つ、真新しいシステムキッチン。

野菜を刻む涼香の隣で、樹が出汁を割り、フライパンを振る。

腕が触れ合うほどの距離で、お互いの息遣いを感じながら料理を作る時間――それだけで、ふたりの胸には溢れんばかりの幸福感が満ちていた。


テーブルに並べられたのは、ふたりの大好物である特製ハンバーグと、彩り鮮やかなサラダ、そして溫かいお味噌汁。


「「いただきます」」


手を合わせ、一口食べた涼香の表情がパッと華やいだ。


「……美味しい……! 樹くんのお味噌汁は、やっぱり世界一お腹と心に染み渡るわ……」


「涼香の作ったハンバーグもジューシーで最高ですよ。……こうしてふたりで並んで『いただきます』って言えるの、本当に夢みたいですね」


「夢じゃないわよ、樹くん」


涼香はテーブル越しに樹の手をそっと握りしめ、愛おしそうに目を細めた。


「これからは毎日、朝も夜も……こうしてあなたとご飯を食べるの。……私、世界で一番幸せな女の子だわ」


夕食を終え、ふたりで仲良くお皿を洗い、お風呂を済ませると、時刻は夜の十時を回っていた。


照明を少し落とした、静かな寝室。

部屋の中央に鎮座するのは、ふたりで選んだ大きなダブルベッド。


お風呂上がりの甘い石鹸の香りを漂わせ、しっとりと濡れた黒髪を肩に流した涼香が、浴衣風のルームウェア姿でベッドの縁に腰掛けていた。


樹が部屋に入ってくると、涼香はそっと布団を捲り、上目遣いで樹を見つめた。


「……樹くん。おいで?」


樹の心臓が、どくんと大きく跳ね上がった。


「り、涼香……本当に、同じベッドで寝るんですね……?」


「当たり前じゃない。……何をいまさら照れているの? 私たちは今日から『一緒に暮らす』のよ?」


涼香は樹の手をギュッと引っ張り、ベッドの中へと引き入れた。

ふたりの身体が柔らかいマットレスに沈み込み、一枚の掛け布団の中で、ふたりの体温が密着する。


ふわりと香る涼香の甘い体香と、肌から伝わってくる熱。

樹が緊張で身を固くしていると、涼香は逃がさないと言わんばかりに樹の胸元へすり寄り、彼の首元に両腕を回してきた。


「……ん……温かい……。樹くんの胸の音……すごく大きく鳴っているわ」


「そ、それは……涼香が可愛すぎて、心臓が持ちそうにないからです……っ」


樹が正直に白状すると、涼香は嬉しそうにクスッと笑い、樹の首元に顔を深く埋めた。


「……ふふ、かわいい旦那様。……ねえ、樹くん」


「はい、涼香」


「受験が終わるまで……そして今日まで、私ね、ずっと我慢していたの」


涼香はゆっくりと顔を上げると、熱く潤んだ琥珀色の瞳で樹の瞳をまっすぐに見つめた。


「あなたに思い切り甘えたかった。あなたの抱擁も、あなたの口づけも……全部、私だけのものにしたかった。……もう、誰にも遠慮なんてしないわ」


涼香はそっと背伸びをし、樹の唇に自分の唇を重ねた。


一度、二度、三度――。

甘く、深く、愛を確かめ合うような繰り返される口づけ。


かつて冷徹で孤独だった『氷山姫』は完全に溶け去り、そこにあるのは大好きな彼からの愛を求めて全身で甘える、愛おしい『最愛の恋人』の姿。


「……樹くん。私を抱きしめて……あなたの腕の中で、朝まで離さないで……」


「……はい、涼香。一生……どこにも行きません。ずっと抱きしめています」


樹は力強く腕に力を込め、彼女の華奢な身体を包み込むように強く、深く抱きしめ返した。


ベランダの向こう、東京の夜空には静かに春の星々が輝いている。

過酷な試練と冬を乗り越え、ついに辿り着いた二人だけの甘く輝かしい城。


二人の純愛は、明日から始まる「二人きりの同居新生活」という最高の春の中で、どこまでも甘く、永遠に輝き続けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。