街のイルミネーションと、二人だけのクリスマス計画
十二月に突入すると、街の空気は一気に冬の冷たさを帯び、駅前の街路樹には黄金色のイルミネーションが彩られるようになった。
放課後の生徒会室。
期末テストが終わり、冬休みを目前に控えた校内は、どこか浮き足立った雰囲気に包まれていた。
「ふぅ……これで今年の生徒会予算の精算は終わりね」
夏目涼香は最後の書類に目を通すと、小さな溜め息をついてペンを置いた。
部屋にはすでに他の役員の姿はなく、鍵をかけた二人の空間が広がっている。
「お疲れ様です、涼香。温かいミルクティーを淹れましたよ」
「ありがとう、樹くん」
橘樹からマグカップを受け取り、一口含んだ涼香の表情がほっと緩んだ。
涼香は窓の外へと目をやり、白く染まりつつある夕暮れの街を見つめた。
「……ねえ、樹くん」
「はい?」
「あと二週間で……クリスマスね」
涼香の琥珀色の瞳が、どこか照れくさそうに揺れた。
付き合ってから初めて迎える、冬の特別なイベント。
「はい。街もすっかりクリスマスムードですね。……涼香は、何かしたいことありますか?」
「……それを、あなたと相談したかったの」
涼香はマグカップをテーブルに置き、ソファーで隣に座る樹の袖をキュッと引っ張った。
「一般的なカップルなら……遊園地のイルミネーションを見に行ったり、高級なレストランでディナーを食べたりするのでしょうけれど……」
涼香は少し眉をひそめ、困ったように首を傾げた。
「私……人ごみが苦手だし、何より街中だと……あなたと手を繋ぐのも、抱きつくのも、周りの目が気になって満足にできないでしょう?」
「たしかに……どこに行ってもすごい人出でしょうね」
樹が深く頷くと、涼香はフッと満足そうに口元を綻ばせ、樹の顔にぐっと顔を近づけてきた。
「だからね……私、考えたの」
「何をですか?」
「今年のクリスマスは……私のお部屋で『二人きりの秘密のお泊まりパーティ』をするのよ」
自慢げに胸を張る涼香。
その提案に、樹の胸がどきりと高鳴った。
「部屋で……ですか?」
「ええ。部屋全体をクリスマス仕様に飾り付けて、二人で美味しい料理を作って……夜はイルミネーションの代わりに、キャンドルの光だけで過ごすの」
涼香は樹の手に自分の手を重ね、指を絡め合わせながら上目遣いに見つめてきた。
「……誰の目も気にせず、ずっとあなたを独占できるでしょう? これ以上の贅沢なんて、どこにもないわ」
素直すぎる独占欲。
樹は照れくささに包まれながらも、心底愛おしくなって彼女の手を握り返した。
「最高ですね……! 僕も、涼香と二人きりで過ごしたいです」
「ふふ、決まりね! ……じゃあ、今週末はパーティの準備のために、街へ買い物に行きましょう」
二人だけの聖夜に向けた、特別なカウントダウンが始まったのだった。
週末の土曜日。
クリスマス用の買い出しのため、二人は隣町の大型ショッピングモールへとやってきていた。
休日で賑わうモール内。樹はダッフルコート、涼香は白いタートルネックのニットにチェックのスカート、上から上品なキャメル色のコートを羽織っている。
「すごい人ね……。離れないようにしないと」
そう言うや否や、涼香は躊躇うことなく樹の手をぎゅっと握りしめた。
学校の外とはいえ、公の場で堂々と手を繋ぐ涼香の行動に、樹はドギマギしてしまう。
「り、涼香……こんなに大勢人がいるのに、大丈夫ですか?」
「なによ。休日くらい、彼氏と手を繋ぐことの何が悪いの?」
ツンと顎を上げる涼香だったが、繋いだ手にキュッと力を込め、満足そうに樹の隣を歩いた。
インテリアショップに入ると、二人はクリスマスツリーのオーナメントや、テーブルを彩るキャンドル、可愛らしいサンタの置物などを選んでいった。
「あ、樹くん! この小さなツリー、可愛くないかしら?」
「いいですね! 涼香の部屋のテーブルに飾るのにピッタリです」
「ふふ、じゃあこれにするわ。……それから、お料理のメニューだけど」
涼香はメモ帳を取り出し、真剣な眼差しで樹を見つめた。
「ローストチキンと……特製のスープ、それから……手作りのクリスマスケーキを作りたいの」
「ケーキまで手作りですか!? すごいです、涼香」
「ふ、ふん……あなたに『美味しい』って言ってもらうために、クックパッドでレシピを百回くらい読み込んだんだから……覚悟しておきなさいよ?」
樹を喜ばせるために陰で一生懸命努力している彼女の姿が目に浮かび、樹の心が温かい愛おしさで満たされていく。
「楽しみにしてます。ケーキのデコレーションは、二人で一緒にやりましょうね」
「ええ……! 約束よ」
買い物を終え、夕暮れの帰り道。
モールを出ると、駅前の広場が一斉に眩いゴールドの光でライトアップされた。
「わあ……きれい……」
足を止め、イルミネーションを見上げる涼香。
光の粒子が彼女の琥珀色の瞳に反射し、まるで宝石のように輝いていた。
「……きれいです」
樹が呟くと、涼香はイルミネーションから視線を外し、樹の方を振り返った。
「私より……イルミネーションに見とれていたでしょう?」
「違いますよ。……僕が見とれていたのは、涼香です」
「~っ! ぐ……またそういうことを平然と言う……!」
涼香は顔を真っ赤にしてコートの襟に顔をうずめたが、繋いだ手を離そうとはせず、樹の腕へとぴったり抱きついてきた。
寒空の下、交わされる二人の温もり。
「ねえ、樹くん」
「はい?」
「私……今まで、クリスマスなんてただの寒い日だとしか思っていなかった」
涼香は寂しそうに微笑み、それから樹を見上げて愛おしそうに目を細めた。
「でも今年からは……世界で一番大好きな日になりそうよ。……あなたと一緒にいられるから」
「僕もです、涼香。絶対に最高のクリスマスにしましょうね」
「ええ……!」
降り注ぐ光の街の中で、二人はそっと寄り添い合い、二週間後の特別な夜に想いを馳せた。
二人きりの部屋で過ごす、甘く温かい聖なる夜。
その瞬間は、もうすぐそこまで迫っていた。




