ホワイトデーの秘密と、君に贈る絶対の対価
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バレンタインの甘美な夜から一ヶ月。
三月十四日――ホワイトデーの当日は、春の訪れを予感させる柔らかな陽射しが差し込む日曜日となった。
「……樹くん? 朝からどこへ行かれていたのですか?」
二人きりのマンション。昼下がりに私が買い物から帰宅するなり、リビングで待っていた涼香がすかさず駆け寄ってきた。
今日の涼香は、春らしい薄桃色のカーディガンにフレアスカート姿。彼女の琥珀色の瞳は、私がいなかったわずかな時間の寂しさを物語るように潤み、細い両腕が私の腰へと即座に回された。
「……どこにも行かないでくださいと、あれほど言いましたのに。私の手元からあなたが離れると、胸が押し潰されそうになるのです♡」
「ごめんごめん、涼香。でも……今日は絶対に買いに行かないといけないものがあったんだ」
私は抱きついてくる涼香の頭を優しく撫で、テーブルの上へと一冊のレシピノートと、高級感あふれる小箱、そして私が朝からキッチンで密かに準備していた手作りのお菓子を並べた。
「これ……ホワイトデーのお返しだよ。涼香」
「樹くん……?」
涼香が琥珀色の瞳を見開く。
テーブルの上に置かれたのは、私が白鳥先輩や葵に助言をもらいながら、涼香が大学へ行っている隙に何度も試作を重ねた『特製レモンタルト』だった。
涼香が好きな柑橘の香りを閉じ込め、甘さを極限まで控えめにした、彼女のためだけに焼いたタルト。
さらに、小箱の中から取り出したのは――ふたつの小さなプラチナチャームがついた、特製の鍵型ネックレスだった。
「いつも涼香に全部お世話してもらって、ダメ人間にされて……すごく幸せだけど。バレンタインに世界一のチョコをもらったから、俺も涼香を世界一幸せにしたくて」
私は少し照れくささに顔を赤らめながら、涼香の華奢な首元へそっとネックレスをかけてあげた。
「この鍵は……涼香が俺の心を一生閉じ込めておくための鍵だよ。……これからもずっと、俺を涼香の手の中で飼い慣らしてね」
「っ…………!!」
私の言葉とプレゼントに、涼香の息が止まった。
彼女の琥珀色の瞳から、ポロポロと大粒の涙が溢れ出し、彼女の頬を濡らしていく。
「あ……あぁ……樹くん……っ♡」
涼香は耐えきれなくなったように私を抱きしめ、二人でソファの上へと倒れ込んだ。
「手伝いもさせず、指一本動かさせず……私だけのダメ人間へと仕込んできたはずのあなたが……こんな、こんな素晴らしい愛を返してくださるなんて……っ! 私の選択は、私の愛は……間違っていなかったのですね……っ!」
「当たり前だよ、涼香。俺の正妻は、世界で涼香だけなんだから」
重ね合わされる深い口づけ。
薬指のプラチナリングと、首元で輝く鍵のチャームが、午後の光を浴びて綺麗に共鳴していた。
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第十二話――春風のキャンパスと、受け継がれる『伝説の夫婦』
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四月。桜の舞い散るキャンパスは、新入生の歓声と活気に包まれていた。
学年が上がり、2年生となった私たちの日常は、もはや大学全体における『伝説』として君臨していた。
「――見てごらん、新入生の諸君。あれがわが大学の誇る『絶対氷山正妻・夏目先輩』と、その愛寵を受け入れる『幸せな旦那様・樹先輩』だ」
新歓の勧誘運動が繰り広げられる並木道で、上級生が新入生たちに誇らしげに解説している。
その並木道の中央を、私と涼香は歩いていた。
涼香は私の腕を両手でしっかりと抱え込み、自身の豊かで温かい胸元に私の腕をぴったりと押し当てている。二人のお揃いのプラチナリングは、春の木漏れ日を受けて眩しく輝いていた。
「樹くん、新入生の視線が少し鬱陶しいですね。講義室へ入ったら、私の膝の上でゆっくりとお休みになってください♡」
「涼香、新学期初日だから少しは自重して……」
「ダメです。学年が上がろうと、私と樹くんの絆と飼育関係には何の変化もありません。むしろ、これからはさらに進化していきますからね♡」
「――おーい! 樹くん、涼香さん!」
人混みの向こうから、後輩の勧誘を終えた葵と白鳥先輩が手を振って駆け寄ってきた。
「新学期もお二人さん、相変わらずラブラブだね~! 薬指の指輪もピカピカじゃん!」
「ええ、私の『過保護妻の完全飼育記録』もついに新章へ突入よ。二人が卒業して結婚式を挙げるまで、私は特等席で記録し続けるわ!」
白鳥先輩の言葉に、涼香は凛とした表情で頷いた。
「白鳥先輩、卒業式だけでなく、その後の私たちの『永久新婚生活』まで記録してくださいね。私と樹くんの愛は、永遠に終わることがありませんから」
周りの学生たちが苦笑し、葵が大爆笑する中、涼香は私をさらに強く抱きしめてきた。
キャンパスの桜吹雪が舞う中、私たちの甘く誇らしい日常は、誰にも邪魔されることなく続いていく。
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第十三話――二人きりの休日と、過保護な『お買い物デート』
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「さあ、樹くん。今日は我が家の春の模様替えと、新調するペアカップを買いに行きましょう♡」
穏やかな休日の午後。都内の高級ショッピングモールで、私たちは仲良く手を繋いで歩いていた。
もちろん、繋いだ手は彼女のコートのポケットの中で恋人繋ぎのまま固定されている。
食器売り場に到着すると、涼香は目移りすることなく、淡いブルーとピンクの優美なペアマグカップを手に取った。
「見てください、樹くん。こちらのカップ、私たちの指輪のデザインとよく似ています。……これなら、毎朝のお茶のお世話の際にも、より深く二人の愛を感じられますね」
「うん、すごく綺麗なカップだね。それにしよう、涼香」
会計を済ませようとお財布を出そうとすると、涼香がすかさず私の手を止めた。
「ダメです。樹くんに支払いをさせるわけには行きません。我が家の財政管理も、お買い物のお会計も、すべて私が責任を持って執り行います」
「でも、たまには俺が……」
「樹くんは『愛されること』だけに集中してください♡」
店員さんが「まぁ……本当にご夫婦仲が良いのですね」と微笑ましく見守る中、涼香は満足そうにクレジットカードを差し出した。
買い物を終え、モールのカフェで休憩をとる。
注文した甘いパフェが運ばれてくると、涼香は迷いなくスプーンを取り、イチゴと生クリームをたっぷり掬って私の口元へ運んできた。
「はい、樹くん。あーん……♡」
「あ、あーん……」
周りのカップルたちが「うわ、あの綺麗な女の人、旦那さんに一口ずつ食べさせてる……」「めちゃくちゃ甘やかしてるなぁ」とヒソヒソと囁き合うが、涼香の琥珀色の瞳には私しか映っていない。
「ふふ♡ 美味しいですか、樹くん?」
「うん……涼香と一緒に食べるパフェは、世界一美味しいよ」
私が微笑むと、涼香の顔に世界で一番甘い笑みが咲き誇ったのだった。
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第十四話――雨の日のしずくと、ベッドの中の『絶対安全地帯』
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五月。梅雨の走りとなる雨が、マンションの窓を優しく叩く静かな午後。
外は冷たい雨が降り続いていたが、二人きりの寝室は、羽毛布団の温もりと涼香の甘い柑橘系のアロマで満たされていた。
「……樹くん、寒くはありませんか?」
薄暗い部屋の中、涼香は羽毛布団の中で私を強く抱き寄せていた。
私の頭は彼女の柔らかい胸元に埋め込まれ、彼女の細い手足が私を逃がさぬようにぴったりと絡みついている。
「大丈夫だよ、涼香。涼香がずっと抱きしめてくれてるから、すごく温かいよ」
「……ふふ。雨の日は、お外に出る必要がなくて最高ですね。こうして一日中、お布団の中であなたを抱きしめていられますから……」
涼香は私の髪に優しく指を滑らせ、うっとりとした表情で私の頬に口づけを落とした。
「ねえ、樹くん。かつての私は……自分のこの重すぎる愛が、あなたを苦しめるのではないかと怖くてたまりませんでした」
「涼香……」
「ですが……今の私は、世界で一番幸せです。あなたを甘やかすことで私が満たされ、私に甘やかされることであなたが幸せになってくださる……。これ以上の奇跡が、この世にあるでしょうか」
言葉の一つひとつに込められた、重厚でどこまでも深い愛寵。
私は彼女の腰に手を回し、彼女の抱擁の中に深く身を沈めた。
「俺も……涼香の手に飼い慣らされて、本当によかったと思ってるよ。涼香のお世話じゃなきゃ、俺はもうダメなんだ」
「……っ! 愛しています、樹くん……っ♡」
雨音が響く静かな部屋で、私たちは重なり合う体温を確かめ合うように、何度も深い口づけを交わした。
外の世界がどれほど冷たくとも、この腕の中こそが、私にとっての永遠の『絶対安全地帯』だった。
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第十五話――夏祭りの浴衣姿と、夜空に咲く大輪の誓い
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七月。夏祭りの季節がやってきた。
夜空を彩る大輪の花火大会。川沿いの土手は、大勢の浴衣姿の祭り客で賑わっていた。
「……樹くん、人混みで離れてしまわないよう、もっと私に捕まっていてくださいね」
涼香の声に振り向くと、そこには息を呑むほど美しい『和風の氷山美女』が立っていた。
濃紺の生地に白い百合の花が描かれたしなやかな浴衣。綺麗にアップにされたうなじと、揺れるカンザシ。普段の美しさに凛とした色気が加わり、周りの男性客たちが思わず振り返って見惚れている。
だが、涼香の手は私の手と、浴衣の袖の中で固く恋人繋ぎに結ばれていた。
「涼香、今日の浴衣……すごく綺麗だよ。見とれちゃうな」
「……っ! 樹くんにそう言っていただけるなら、着付けの苦労もすべて報われます……♡」
涼香は嬉しさに頬を染めると、露店で買ったりんご飴を取り出し、私に一口齧らせてくれた。
やがて、ドドーン――!! という重低音とともに、夜空いっぱいに巨大な大輪の花火が咲き誇った。
赤、青、金色の光が、私たちの顔と、薬指で光る一対のプラチナリングを色鮮やかに照らし出す。
花火の光の中で、涼香は私の顔を見つめていた。
「樹くん。何年経っても……花火がどれほど美しくとも、私の瞳に映るのはあなただけです」
「涼香……」
「来年も、十年後も、五十年後も……ずっとこうして、私と一緒に花火を見てくださいますね?」
「うん。ずっと涼香の隣で、涼香の手を握ってるよ」
夜空に咲く光の下、私たちは静かに唇を重ね合わせた。
花火の歓声に包まれながら交わす口づけは、夏の夜の熱気よりも甘く、熱く、二人の胸に刻まれていくのだった。
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