バレンタインの甘美な夜と、ホワイトデーの秘めやかな誓い
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特大のフォンダンショコラを二人で堪能し、リビングのソファで幾度も深い口づけを重ねた後。
窓の外はすっかり濃密な群青色の夜に包まれ、冷たい冬の北風がマンションのガラス窓を時に小さく揺らしていた。
だが、部屋の中の空気は、エアコンの温もりと二人の体温、そして部屋の隅々にまで染み渡ったカカオと柑橘系アロマの甘い香りによって、まるで熱気を帯びた密室のようにトロリと重く満たされていた。
「……ふぅ。樹くん、お口の周りも、お腹の中も……すっかり私の愛で満たされましたね♡」
私の膝の上に横向きに座ったまま、涼香は私の首筋にすりすりと自分の頬を寄せていた。
彼女の指先は、私の右手の薬指に嵌められたプラチナリングを、まるで愛おしい宝物を慈しむかのように優しく、幾度も撫で擦っている。
「涼香、バレンタインのチョコ……本当にごちそうさま。すごく美味しかったし、嬉しかったよ」
「お礼など不要です、私の愛しい旦那様。……ですが、私の『バレンタインのお世話』は、まだ半分も終わっていませんよ?」
「え……? まだ半分……?」
私が首をかしげると、涼香は琥珀色の瞳を蕩けるような熱情で潤ませ、怪しくも可憐な笑みを浮かべた。
「当たり前ではありませんか。甘いものを召し上がった後は、お風呂で温まり、お身体の隅々まで洗われて清められ……そしてベッドの中で、私の腕に抱かれながら朝まで私を満足させていただく……そこまでが、我が家の『バレンタインの正妻行事』なのですから♡」
「お風呂もベッドもやっぱりセットなの……!?」
「何を選択肢があるような言い方をしているのですか? 拒否権など最初から存在しません」
涼香は私の手首をキュッと掴むと、しなやかな動作で立ち上がり、私を引っ張るようにして脱衣所へと導いていった。
◇
湯気が立ち込める、広々とした浴室。
檜の入浴剤がほのかに香る温かい湯船の縁に腰掛けさせられた私は、今夜も涼香の手による完璧で過保護なお世話を受けていた。
柔らかな泡で背中を丁寧に流され、髪を優しく洗われ、指先一本に至るまで彼女の手によって洗われていく。
「ふふ……本当に樹くんのお肌は、いつ触れても白くて柔らかくて、私の手の中に吸い付くようです……」
「涼香、自分で洗えるよって言っても……聞いてくれないよね」
「当然です。樹くんのお肌の温度も、体調も、どこが気持ちいいかも……すべて私の手で把握していなければ気が済みませんから♡」
洗髪と身体洗いが終わると、二人で肩まで温かい湯船へと浸かる。
湯船の中でも、涼香は後ろから私を逃がさぬようにぴったりと抱きしめ、私の胸元に自分の小さなあごを乗せてきた。
「……はぁ。樹くんの体温と温泉の熱……本当に心地よいです」
「涼香の体温も……すごく温かいよ」
「……ふふ、当たり前です。私の体温はすべて、あなたを包み込み、幸せなダメ人間へと溶かすためにあるのですから」
ゆらゆらと立ち上る白く温かい湯気の中、薬指のプラチナリング同士が水中で触れ合い、小さく甲高い音を奏でる。
言葉を超えた絶対的な信頼と、狂おしいほどの独占愛。
冬の夜の静けさの中で、二人の絆は湯温とともにどこまでも深く溶け合っていくのだった。
◇
お風呂上がり、バスタオルで身体を拭かれ、肌触りの良いパジャマを着せてもらった後。
二人で潜り込んだベッドの中は、どこまでも温かく、甘い香りに満ちていた。
「……樹くん。こちらへ……もっと私の腕の中へ入ってきてください」
涼香は羽毛布団の中で私を強く抱き寄せ、私の頭を自身の豊かで柔らかい胸元へと導いた。
彼女の規則正しい心臓の鼓動と、甘い柑橘アロマの体温が、私の全身を優しく包み込んでいく。
「……涼香?」
「なぁに、私のかわいい樹くん……?」
私は彼女の胸元に顔をうずめたまま、少しだけ声を潜めて言った。
「……今日、すごく嬉しかった。涼香が俺のために、あんなにすごいチョコを作ってくれて……毎日俺のことを、世界で一番大切にしてくれて……」
「樹くん……」
「だから……来月のホワイトデーは、俺に任せてほしいんだ。俺から涼香に、特別なサプライズをプレゼントしたい」
私の言葉を聞いた瞬間、涼香の身体がピクッと強張った。
彼女は驚いたように目を見開き、それから愛おしさに耐えかねたように、ボロボロと大きな涙の粒を琥珀色の瞳からこぼし落とした。
「……っ! 樹くん……っ♡ あなたという人は……どこまで私を愛し、狂わせれば気が済むのですか……っ!」
「涼香……っ!?」
「手伝いもさせず、指一本動かさせず……ダメ人間へと飼い慣らしているはずのあなたが、私のために……私へのお返しを考えてくださるなんて……っ! 私、嬉しすぎて心臓が止まってしまいそうです……っ♡」
涼香は我慢の限界を迎えたように上から私に覆いかぶさり、私の唇へと幾度も熱く、濃厚な口づけを重ねてきた。
「んっ……ふ……っ♡……愛しています、樹くん……っ! ホワイトデーなど待てません……今夜は……今夜は朝まで、私を満足させていただけるまで絶対に眠らせて差し上げませんからね♡」
「涼香……っ! ん……俺も……愛してるよ……っ!」
暗闇の寝室で、重ね合わされる深い吐息と情愛。
薬指に嵌められた指輪の光が、二人の愛の誓いを暗闇の中で密やかに照らし出していた。
バレンタインの甘美な夜が更けていき、ホワイトデーという新たな約束に向けて――。
二人の絶対に解けない『愛の飼育』の日常は、さらに深く、どこまでも甘美な未来へと足踏み出していくのだった――!




