箱根の朝と、朝湯の甘い和睦
◇
「……ん……っ♡」
柔らかな朝の光が、障子を透かして畳のお部屋を黄金色に優しく染めていた。
ふんわりとした上質な羽毛布団の温もりの中で目を覚ますと、私の視界を埋め尽くしていたのは、琥珀色の髪を美しく散らせて私の胸元にすっぽりと収まっている涼香の姿だった。
彼女の細い腕と脚は、夜が明けてもなお私を逃がさぬようにぴったりと絡みついており、規則正しい甘い寝息が私の首元をくすぐっている。
「……涼香、朝だよ。……もう起きてる?」
そっと声をかけながら、彼女の華奢な背中を撫でてあげる。
すると、涼香の琥珀色の瞳が薄っすらと開き、彼女は満足そうに「ふふっ……♡」と喉を鳴らして私の胸に顔をうずめてきた。
「……おはようございます、私の可愛い樹くん。……夢の中でも私の手の中にいてくれて、本当に幸せな夜でした」
「おはよう、涼香。……すごく良く眠れたね。でも、そろそろ起きないと朝食の時間になっちゃうよ?」
「朝食ですか? 大丈夫です。樹くんが起き上がれないとおっしゃるなら、私が朝食をこのお布団まで運んで、一口ずつお口に放り込んで差し上げますから♡」
「それは部屋着のままダメ人間になりすぎるからダメ!!」
朝一番からの過保護全開な甘やかしに苦笑しつつ、私は彼女の頬を優しく包み込んだ。
「……ほら、朝のお風呂、一緒に行こう? 客室の露天風呂、せっかくだから朝の空気のなかで入りたいな」
私の言葉に、涼香の琥珀色の瞳がぱっと輝きを増した。
「まあ……っ! 朝風呂のお誘いですか! 素晴らしい提案です、樹くん。さあ、私がお召し替えとお風呂のお世話、すべて執り行いますね♡」
◇
朝の澄み切った空気が満ちる、客室の露天風呂。
湯船からは白い湯気がゆらゆらと立ち上り、朝日を浴びた庭園の紅葉が光を浴びてキラキラと輝いていた。
「……はぁぁ、すごく気持ちいい……」
温かい源泉に肩まで浸かると、身体の芯から旅の疲れが解けていくのが分かった。
すると、私の背後から静かに湯波が立ち、涼香のしなやかな腕が私の胸元へと回されてきた。
「……樹くん。朝の光の中で見るあなたの横顔、本当に綺麗です……」
彼女は後ろから私の身体にぴったりと密着し、私の肩に小さなあごを乗せてきた。
湯気の中で交じり合う、彼女特製の柑橘アロマと温泉のほのかな硫黄の香り。
「……涼香、湯船の中でそんなに密着したら温まりすぎちゃうよ?」
「いいのです。私の体温と温泉の熱で、樹くんの心も身体もトロトロに溶かして差し上げるのが私の幸せなのですから」
耳元で囁かれる甘い吐息。
涼香は湯船の中で私の手を優しく握りしめ、自分の指を一本ずつ絡めて恋人繋ぎにしてきた。
「……ねえ、樹くん。箱根から帰ったら……大学の講義も、お家での生活も、もっともっと私に甘えてくれますか?」
「……うん。もう逃げたりしないよ。涼香の膝の上も、涼香の手の中も、全部俺の『一番落ち着く場所』なんだから」
私が上目遣いに本音を告げると、涼香の顔に花が咲くような満面の笑みが広がった。
「……っ! 愛しい私の旦那様……♡」
朝日が差し込む露天風呂で、私たちは互いの唇を重ね合わせた。
湯気と紅葉の光に包まれながら交わす朝の口づけは、どこまでも温かく、そして深く心に染み渡っていくのだった。
◇
「さあ、樹くん! 旅のしめくくり、極上の温泉朝食ですよ♡」
お風呂から上がり、お部屋の座卓に並べられたのは、炊きたてのピカピカのご飯に、あつあつの出汁焼き卵、香ばしいアジの干物、具だくさんの味噌汁。
もちろん、私の隣には涼香がピタリと隙間なく腰を下ろしていた。
「ほら、お口を開けてください。あーん……♡」
「……あ、あーん」
涼香が丁寧にほぐしてくれた干物の身を口に含むと、香ばしい旨味がジュワッと広がる。
「美味しい……! 焼き加減が最高だよ、涼香」
「ふふ♡ 良い子ですね、樹くん。さあ、次はお出汁たっぷりの卵焼きですよ。あーん……♡」
一口食べるたびに頭を撫でられ、口元を拭われ、どこまでも甘やかされていく。
箱根の静かな離れ宿で、過保護な氷山妻の甘美な絶対愛寵は、これからも終わることなく続いていくのだった――!




