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熱狂の学園祭本番と、公開『愛の監獄』

◇

十月中旬。秋晴れの空の下、大学構内は数ヶ月かけて準備を進めてきた秋の学園祭(文化祭)の当日を迎え、朝からけたたましいほどの活気と華やかな喧騒に包まれていた。

「――わあ、すごい人だね、涼香!」

メインストリートに並ぶ数々の模擬店から漂う香ばしい匂いと、行き交う学生たちの楽しげな笑い声が響く中、私は隣を歩く涼香の姿に思わず目を奪われていた。

今日の涼香は、文学部と法学部が合同で出店している和風喫茶のスタッフとして、特製のシックな和柄エプロンに身を包んでいた。普段のクールな『氷山美女』の気高さに加え、どこか大和撫子を思わせるしっとりとした艶やかさが、周囲の視線を一瞬で釘付けにしている。

だが――その圧倒的な美貌の持ち主である本人は、一歩たりとも私から離れる気がなかった。

「樹くん、人混みが多いですから、絶対に私の袖を離さないでくださいね。……はぐれたら、何をするか分かりません」

「はぐれるわけないだろ、ずっと手を繋いでるんだから……」

私たちは恋人繋ぎをさらに固く結び、互いの体温が溶け合うほどの密着度で歩いていた。

すれ違う男子学生たちが「おい、あれ法学部の夏目さんじゃね……?」「隣の男の人、いつも一緒にいる奴だよな」「マジかよ、あんな美人にガッチリ腕組まれてるぞ……羨ましすぎるだろ!」とヒソヒソと羨望と絶望の入り混じった声を漏らすが、涼香はそんな周囲の視線など路傍の石を眺めるかのように完全に無視し、ただ私だけにうっとりとトロケた瞳を向けていた。

「ふふ……今日の樹くん、いつも増して格別にお顔が良いですね。……私の選んでくれたシャツがよく似合っています」

「ありがとう、涼香のおかげだよ」

昨日、何時間もかけて彼女がコーディネートしてくれた私服を着てきたのだ。褒められると少し気恥ずかしいが、彼女の機嫌がこれ以上ないほど最高潮に達しているのが分かるので、私の胸の奥も甘い満足感で満たされていた。

◇

私たちが所属する文学部の模擬店――和風喫茶『月下香(げっかこう)』の教室に到着すると、そこではすでに葵と白鳥先輩が忙しそうに動き回っていた。

「あ! お兄ちゃん! 涼香さん! こっちこっち、めちゃくちゃ混んできたよ!」

メイド風の装飾をアレンジした和風エプロン姿の葵が、大きなトレイを片手にひょっこり顔を出す。

その隣では、白鳥先輩がレジカウンターの横でノートパソコンを叩きながら、ニヤニヤとした不敵な笑みを浮かべていた。

「お疲れ様、樹くん、涼香さん。……ふふ、最高のデータが取れているわ。『過保護な氷山妻による人間牢獄・学園祭特設ステージ版』の執筆が進んで仕方がないわね」

「白鳥先輩、相変わらず不穏なタイトルで小説の構想を練らないでください……」

私が苦笑すると、涼香はフンと誇らしげに鼻を鳴らして胸を張った。

「文学的な表現としては不適切ですが、意味合いとしては間違っていません。私は樹くんを一生、私の愛の牢獄に閉じ込めて飼い慣らすのですから」

「涼香さん、それ本気で言ってるから怖いって!」と葵がツッコミを入れる。

「冗談半分、本気は五分です。……さて、私たちのシフト時間ですね。樹くん、席へ参りましょう」

◇

喫茶店の店内は大盛況で、空席はほとんどなかった。

私たちはフロアの一番奥にある、窓際の特等席(もちろん涼香が事前に『重要人物・樹くんの専用席』として死守・確保していた席)へと腰を下ろした。

「いらっしゃいませ……あ、夏目先輩!」

注文を取りに来たのは、文学部の後輩だった。彼女が私にニコッと満面の笑みを向けた、その瞬間――。

――ピキッ、と空気が凍りついた。

涼香の琥珀色の瞳がスッと細められ、背後から目に見えそうなほどの冷たい殺気が立ち上る。

「……何か、注文はお決まりですか?(低音)」

「ひっ……! な、夏目先輩……! ええと、い、イチゴパフェと、ブレンドコーヒーを一つずつですね……っ! か、かしこまりましたーっ!」

後輩は恐怖のあまり半泣きになりながら、猛ダッシュで厨房へと逃げ込んでいった。

「り、涼香……! 後輩が怯えてただろ! 普通に注文を取らせてあげてよ!」

「ダメです。私の樹くんに必要以上にキラキラした笑顔を向ける必要などありません。注文だけを淡々と処理させれば十分です」

不機嫌そうに頬を膨らませる涼香。

だが、その直後に彼女の表情がパッと華やぎ、私へと向き直った。

「ですが、樹くん。注文したイチゴパフェが来たら、最初の一口は私が『あーん』して差し上げますね。これだけは譲れません」

「えっ、店内でそれやるの……!? 周りのお客さん全員こっち見てるよ!?」

「見させておけば良いのです。これが私たちの『日常』ですから」

数分後、運ばれてきた巨大なイチゴパフェを前に、涼香はスプーンに真っ赤な苺とたっぷりの生クリームをすくい上げ、「さあ、お口を開けてください、樹くん♡」と甘い微笑みを浮かべて私の口元へと迫ってきた。

周囲の学生たちから「うわっ、あいつまたあーんされてるぞ……!」「羨ましい通り越して神々しいわ……」「あんな美人に甘やかされるとか前世でどんな徳を積んだんだよ……」という羨望と絶叫の混じったざわめきが起きる。

私は恥ずかしさで耳まで真っ赤になりながらも、観念して大きく口を開けた。

「……あ、あーん……」

「お上手です、樹くん♡ ……美味しいですか?」

「……うん、すごく甘くて美味しいよ……」

私がモグモグと味わうと、涼香は満足そうに目を細め、自分の口元にも同じパフェを運んだ。

お互いの甘い空間が、学園祭の喧騒を完全に遮断しているかのように、私たちの周囲だけがまるで別世界のように甘美な空気に包まれていく。

◇

午後三時。

学園祭のメインイベントである「仮装・カップルコンテスト」の時間がやってきた。

「――さあ、続いてのエントリーナンバー五番は……法学部の氷山美女と、その愛され旦那様ペアだーーっ!!」

特設ステージの司会者の大声と、会場を埋め尽くす生徒たちの割れんばかりの歓声。

――実はこれ、葵と白鳥先輩が「お兄ちゃんたちの絆を全学部に知らしめてあげる!」と言って、勝手に私たちの名前をエントリー応募箱にブチ込んでいたのだ。

「ちょっ、いつの間にエントリーされてるのこれ!?」

「ふふ……驚きましたね、樹くん。ですが、逃げる必要はありません」

舞台袖に引っ張られ、スポットライトが当たるステージの中央へと連れ出された私たち。

数え切れないほどの視線が注がれる中、涼香は一歩も怯むことなく、むしろ嬉しそうに私の腕をギュッと抱きしめ、ステージの真ん中で凛と佇んだ。

「いいですか、樹くん。今から全校生徒の前で、私たちが『絶対に引き裂けない夫婦』であることを証明しますよ」

「証明って、何を……っ!?」

戸惑う私の前に、司会者がマイクを向けた。

「さあ、夏目ペア! カップルコンテスト恒例のイベントです! お互いに一番好きなところを叫んでからの、ラブラブハグ&公開キスをお願いしまーす!!」

会場が一層大きく盛り上がり、「おおーーっ!」「やれーっ!」と野次と拍手が飛び交う。

顔から火が出るほど恥ずかしがり、その場で固まる私。

対照的に、涼香の琥珀色の瞳は熱く、深く、そして圧倒的な独占欲に濡れていた。

彼女はマイクをひったくるように受け取ると、全校生徒が見守るステージの上で、澄み切った、けれど誰の耳にもハッキリと届く美しい声で言い放った。

「――私の夫、樹くんは世界で一番可愛くて、私の過保護な愛を全身で受け止めてくれる世界一の愛しい人です!」

「り、涼香それマイクで全校生徒に言ってるからぁぁっ!?」

「そして!」

涼香はクルリと私に向き直り、私の両腕を自分の首に回させ、逃げ場を完全に封じ込めた。

「私は樹くんを一生、私の手の中で、誰にも渡さず、甘やかして飼い慣らし続けます! 愛しています、樹くん……っ!」

「っ……! 俺も……俺も涼香なしじゃ生きられないよ……っ!!」

羞恥心も、周囲の視線も、野次も、すべてがどうでもよくなった。

私は思い切り彼女の背中に手を回し、その細くしなやかな身体を強く引き寄せた。

そして、数百人の視線が集まるステージの真ん中で、私たちは互いの唇を深く重ね合わせた。

「んっ……ふ……っ♡」

甘く熱い舌が絡み合い、お互いの体温と吐息が混ざり合う。

フラッシュの嵐と、会場を割るほどの絶叫と拍手の渦の中、私たちは時間を忘れて激しく口づけを交わした。

誰もが嫉妬し、誰もが羨む、絶対的で狂おしい愛の証明。

学園祭の特設ステージは、完全に私たちの『愛の独占空間』へと変わっていた。

「……ふふ、見せつけてやりましたね、樹くん。……もう、誰も私たちを引き離すことなどできませんよ♡」

唇を離した涼香は、これ以上ないほど美しく、トロケるような幸福の笑みを浮かべて私の胸に顔をすり寄せた。

秋の澄み渡る青空の下、私たちの甘く過保護な新婚生活は、誰にも否定できない永遠の絆となって、さらに深く、熱く、織り重なっていくのだった――!

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