完全なるダメ人間化と、密室の休日絶対愛寵
◇
日曜日の朝。
遮光カーテンを透過した柔らかな秋の日差しが、部屋全体を淡い黄金色に染めていた。
「……ん……っ」
目を覚ました私が最初に感じたのは、全身を包み込む圧倒的な温もりと、身体を一切動かすことのできない心地よい拘束感だった。
私の右腕は涼香の頭の下で腕枕となっており、私の体の上には彼女の右脚がどっしりと乗せられている。彼女の細い腕は私の胴体を抱きかかえるようにして固定され、胸元からは規則正しい甘い息遣いが伝わってきた。
「……涼香、朝だよ……」
そっと声をかけると、涼香の琥珀色の瞳がうっすらと開き、私を見つめた。
どこか夢見心地な、蕩けるような笑みが彼女の美しい唇に浮かぶ。
「……おはようございます、私の可愛い樹くん。……ふふ、今朝も私の腕の中から逃げ出さずにいてくれて、嬉しいです♡」
「逃げ出すなんて無理だよ……こんなにガッチリ固められてたら、指一本動かせないって」
「動かす必要などありません。今日という一日は……樹くんがベッドやソファから一歩も出ず、ただ私に甘やかされるためだけに存在する『完全飼育の日』なのですから」
涼香は私の首元にすりすりと頬を寄せると、甘い吐息を吹きかけながら、私の頬や額に幾度も優しく口づけを落とした。
「さあ……起き上がる必要はありませんよ。朝食も、お召し替えも、すべて私がお世話して差し上げます♡」
◇
こうして、私の『完全ダメ人間化』の一日が幕を開けた。
パジャマのボタンを外され、新しいルームウェアへと着替えさせられるのもすべて涼香の手によって行われた。私が少しでも自分で腕を通そうとすると、彼女はうるうると瞳を潤ませて「私のお世話が不満なのですか……?」と訴えてくるため、私は完全に抵抗を諦めるしかなかった。
「はい、樹くん。今朝の特製スープとフレンチトーストです」
リビングのソファに連れていかれた私は、涼香の膝の上にすっぽりと収まる形で座らされていた。
彼女はフレンチトーストを一口サイズにカットすると、フォークで掬って「ふー、ふー」と丁寧に息を吹きかけ、私の口元へと運んでくる。
「あーんしてください♡」
「……あ、あーん」
パクリと口に含むと、卵とミルクの甘みがじゅわっと口いっぱいに広がった。
「……美味しい、涼香。すごく柔らかくて甘いよ」
「ふふ♡ 樹くんの舌を私の味覚で満たしていく瞬間が、一番の幸せです。……さあ、次はスープですよ。お口を開けてくださいね」
一口食べるたびに、涼香は私の頭を優しく撫で上げ、耳元で甘い褒め言葉を囁いてくる。
自力で食事を取るという人間の基本的な営みすら奪われ、彼女の指先一つで生かされているような感覚。
かつてなら恥ずかしさで悶絶していたはずのこのシチュエーションが、今では胸の奥を激しい快感と安心感で満たしていく。
(……ああ、本当にダメになっていく……。涼香なしじゃ、生きていけない体にされていくんだ……)
◇
昼下がり。
お昼ご飯(涼香のお手製特製オムライス)を『あーん』で食べ終えた後も、私たちはソファから一度も立ち上がっていなかった。
テレビでは静かな映画が流れていたが、私の意識はもっぱら、私の頭を膝の上に乗せて髪を撫で続けてくれる涼香の太ももの感触に向いていた。
「……樹くん、耳かきをしましょうか?」
「……うん」
もはや言葉数すら少なくなっていた私は、素直に首を縦に振った。
涼香は小さな木製の耳かきを取り出すと、私の頭を自分の太ももの中央へと優しく固定した。
カリ、カリ……と、心地よい音が耳腔に響き渡る。
彼女の指先の温もり、鼻腔をくすぐる柑橘系のアロマと彼女自身の甘い体温。
「……ふふ、本当に心地よさそうですね、樹くん。……ねえ、樹くん?」
「……なぁに、涼香……?」
「私は昔、自分が重すぎる愛であなたを縛り付け、自由を奪っているのではないかと恐れていました。……ですが、今のあなたを見ていると、分かります」
涼香は耳かきをそっと置くと、私を見下ろすように顔を近づけてきた。
彼女の琥珀色の瞳には、底なしの情愛と、甘い執着が満ち溢れている。
「あなたは……私の手の中でダメになっていくことを、心から望んでくれているのですね♡」
「……っ……そうだよ。……涼香の過保護じゃなきゃ、俺はもうダメなんだ……」
私が上目遣いに本音を漏らすと、涼香の顔に世界で一番美しい雪解けの笑みが咲き誇った。
「……っ! 愛しい私の旦那様……♡」
涼香は身を乗り出し、私の唇を自身の唇で深く覆い隠した。
甘い舌先が口内に割り込み、互いの体温と吐息が混ざり合っていく。
逃げ場のない、けれど世界で一番温かく深い愛寵の鎖。
「一生……私だけのダメ人間でいてくださいね♡」
「ああ……ずっと、涼香の手の中にいるよ」
休日の静かな部屋の中で、二人の甘く過保護な飼育生活は、どこまでも深々と、永遠のように続いていくのだった――!




