秋の訪れと、密室の甘いお風呂お世話
◇
「……あ、少し肌寒くなってきたね」
十月の終わり、夜風がベランダの窓を揺らし、すっかり秋深まった冷気が室内へと忍び込んできていた。
リビングのソファでテレビを眺めていた私は、ふと肩をすくめて身を縮めた。
すると次の瞬間――。
「樹くん! 大変です、冷えは万病のもとですよ……!」
バサッと大きな音がして、私の上半身が柔らかく暖かな毛布ですっぽりと包み込まれた。
それだけに留まらず、毛布の上から涼香の身体がぴったりと密着し、私を押し潰さんばかりの勢いで抱きついてくる。
「り、涼香……っ! 毛布だけじゃなくて自分まで被さってきてるんだけど……!?」
「当たり前です。文明の利器(毛布)だけに樹くんの保温を任せるわけにはいきません。私の体温で直接温めて差し上げるのが、妻としての務めですから♡」
琥珀色の瞳を輝かせ、真顔でとんでもない理論を展開する我が妻。
すれ違いを乗り越えて以降、彼女の過保護と独占欲はとどまることを知らず、季節の移り変わりすら彼女の『過剰愛寵』の口実に変わっていた。
「……ですが、お部屋の空気で温めるのには限界がありますね。樹くん、お風呂へ行きましょう」
「えっ、お風呂? うん、温まってくるよ」
そう言って立ち上がろうとした私の手を、涼香は逃がさないようにキュッと強く握りしめた。
「『一人で』とは言っていませんよ? 今夜は私が……一緒に入ってお背中もお身体も全部洗って差し上げます♡」
「え、ええっ!? 一緒に……!? それに洗うって、もう子供じゃないんだから……っ!」
「あら、照れる必要なんてどこにありますか? 私たちは夫婦ですよ? それに……病み上がりの時期から肌寒くなった今こそ、温かいお湯の中でしっかりとスキンシップを取ることが重要なのです」
涼香は私の抗議を心地よいスルーで受け流すと、真っ赤になる私の手を引いて、脱衣所へと迷いなく突き進んでいった。
◇
湯気が立ち込める浴室。
柑橘系の入浴剤が溶け込んだ薄いオレンジ色のお湯が、浴槽から心地よい湯気を立ち上らせていた。
「さあ、樹くん。湯船に入る前に、まずはお身体を綺麗にしましょうね」
小さな椅子に座らされた私の背後に、泡だて器でフワフワの泡を作った涼香が回り込む。
「じ、自分で洗えるから本当に大丈夫だって……っ」
「動いてはダメです。……私に身を委ねていなさい♡」
涼香の柔らかい手のひらが、フワフワの泡とともに私の背中や肩を優しく撫でていく。
滑らかな泡の感触と、彼女の温かい指先。
湯気の中で彼女の柑橘系のアロマと体温が交じり合い、私の思考回路はあっという間にトロトロと溶かされていく。
「……気持ちいいですか、樹くん?」
「うん……すごく、気持ちいい……」
「ふふ、可愛いですね。……こうしてあなたの背中を洗っていると、あなたが本当に私の手の中でしか生きていけない存在になったようで、胸の奥が愛おしさでいっぱいになります……♡」
耳元で囁く涼香の声が、湯気の向こうから甘く響く。
背中を洗い終えると、涼香は私の正面へと回り込み、私の頬や首元を丁寧に泡で包み込んでくれた。
視線をどこにやっていいか分からず、真っ赤になって目を泳がせる私を見て、涼香は蕩けるような甘い笑みを浮かべた。
「……目を開けて、私を見なさい、樹くん」
「無理だよ……恥ずかしすぎるって……っ」
「逃がしませんよ。私の琥珀色の瞳だけを映していれば良いのです」
涼香は私の頬をそっと両手で包み込み、そのまま私の唇に、温かく湿った口づけを重ねてきた。
湯気の中で交わされる、お互いの体温と吐息を確かめ合うような深い口づけ。
「……ん……ふっ♡……大好きですよ、私の愛しい旦那様」
◇
しっかりとお風呂で温まり、身も心もほくほくに解された後。
髪を乾かしてもらい、寝室のベッドへと二人で潜り込むと、涼香は待ってましたとばかりに私を強く抱きしめてきた。
「……ふぅ。今夜もたくさん樹くんを甘やかせて、私は世界一幸せです」
「涼香……本当に俺を甘やかすのが好きなんだね」
「好きという言葉では足りません。……あなたが私の手の中でダメになっていく姿を見ること、それが私の生き甲斐なのですから」
涼香は私の胸に顔をうずめ、足までしっかりと絡めてきた。逃げ場のない、けれど世界で一番温かい拘束。
「……ねえ、樹くん。明日の日曜日も、ずっとお家で私に飼育されていてくれますか?」
「……うん。涼香の側にずっといるよ」
私の答えに、涼香は満足そうに微笑み、私の額にそっと最後の優しく甘い口づけを落とした。
「おやすみなさい、私の可愛い樹くん。夢の中でも……私の手の中で甘えていてくださいね♡」
深まる秋の夜長、二人きりの温かいベッドの中で、過保護な氷山妻の甘美な絶対飼育は、どこまでも幸せに続いていくのだった――!




