過剰愛寵の完全解禁と、逃げ場なき深夜の飼育
◇
「……ん……っ♡」
雨上がりの冷気が嘘のように吹き飛んだ我が家の寝室。
重い遮光カーテンが外界のすべてを遮断し、広々としたベッドの上には、ただ二人分の熱い体温と甘い柑橘系のアロマの香りが充満していた。
「……涼香、苦しいよ……っ」
「ダメです。絶対に離しません……♡」
実家から連れ戻されてから、かれこれ数時間。
涼香は私の体にぴったりと覆いかぶさり、まるで千切れてしまいそうなほどの力で私の首元に腕を回していた。
彼女の濡れたままの琥珀色の瞳は、部屋の薄暗がりの中で妖しく、濃厚な情念を宿して輝いている。
実家でのあの大号泣と本音のぶつかり合いを経て、彼女の中の『遠慮』という概念は完全に崩壊していた。
『理想の妻』を演じることをやめ、己の狂おしいほどの独占欲と過保護な愛寵を、隠すことなく全開にして私へとぶつけてきているのだ。
「もう……どこにも行かせません。私の腕の中から、指一本出すことすら許しませんよ、樹くん……♡」
「行かないよ……どこにも行かないから……っ」
私の髪に指を滑らせ、うっとりと息を吐く涼香。
彼女の柔らかい唇が、私の額、目元、頬、そして首筋へと、まるで自分の所有物であることを刻み込むかのように、何度も何度も落とされていく。
「ふふ……可愛らしい私の旦那様。……ずっと、こうして私の手の中でダメになっていてくださると誓いましたね?」
「あ、ああ……誓ったよ」
「では……約束通り、今夜は朝まで、私にたっぷり飼育されてくださいね♡」
◇
「……さあ、樹くん。まずは汗と雨を流した体へ、水分と栄養の補給です」
ベッドの上に正座した涼香は、ローテーブルから温かいハーブティーと、一口サイズにカットされたフルーツを準備した。
「自分で飲めるから――」
「ダメです」
即座に制される。
涼香は私の背中に回り込むと、私を自分の胸の中にすっぽりと収める形で抱きかかえ、私のあごを細い指先でそっと持ち上げた。
「私の手からしか、何も口にしてはいけません。……ほら、あーんしてください♡」
「っ……あ、あーん……」
差し出されたフォークから甘酸っぱい苺をパクリと口に含む。
さわやかな甘みが口いっぱいに広がるが、それ以上に背中に伝わる涼香の豊かな柔らかさと温もりが、私の思考を狂わせていく。
「偉いですね、樹くん。上手に食べられました♡……次はハーブティーです。熱いですから、私が冷まして差し上げますね」
涼香は自分の唇でふーふーと息を吹きかけ、一口含んで温度を確認してから、私の口元へとカップを運んでくる。
完全に『自立した人間』としての機能を奪われ、彼女の指先一つで生かされているような感覚。
恐ろしいはずなのに、胸の奥から湧き上がるのは狂おしいほどの安らぎと快感だった。
(……ああ、本当にダメになっていく……。涼香の甘い毒に、完全に溶かされていく……)
「……ふふ、顔が真っ赤ですよ、樹くん? 私に甘やかされるのが、そんなに心地よいのですか?」
耳元で囁く涼香の声が、甘く脳を揺さぶる。
「……うん。すごく……気持ちいい……」
「素直でよろしいです♡ ……では、次は最高のご褒美を差し上げます」
◇
涼香はベッドの上に足を崩して座ると、自分の太ももをトントンと叩いた。
「おいでなさい、樹くん。私の膝の上へ」
もう抗う術など私には残っていなかった。
吸い寄せられるように涼香の膝の上に頭を預けると、太ももの極上の柔らかさと体温が、私の後頭部を包み込んだ。
「……んっ、涼香の膝枕……やっぱり最高だ……」
「ふふ、当たり前です。あなたの頭の形も、重さも、心地よいと感じる角度も……すべて私が熟知しているのですから」
涼香の細く柔らかい指先が、私の髪を優しく撫で上げていく。
そして、彼女は小さな木製の耳かきを取り出すと、私の耳元で甘く微笑んだ。
「さあ……力を抜いて、私の体温だけを感じていてください。あなたが眠りにつくまで、ずっとこうして愛でて差し上げます……♡」
カリカリ、と心地よい音が耳腔に響く。
涼香の手の温もり、鼻腔をくすぐる柑橘系の香りと彼女自身の甘い体温。
すれ違いの孤独と不安に苛まれていた心が、彼女の完璧で過剰な愛寵によって、綺麗に満たされていく。
「……涼香」
「はい、何でしょう、樹くん?」
「……二度と、離れないでね」
私が上目遣いに訴えると、涼香の琥珀色の瞳が熱く揺れ、彼女は耳かきを置くと、私を見下ろすように顔を近づけてきた。
「離れるわけがありません……! 私は死ぬまで、あなたを私の手の中で甘やかして、可愛がって、壊れるほど愛し続けるのですから……♡」
重なり合う唇。
今までのどんな口づけよりも深く、重く、逃げ場のない愛の誓い。
「……大好きです、私の可愛い樹くん」
「……俺も、大好きだよ、涼香」
外界の嵐も、キャンパスの噂も、明日の予定すらも、今の二人にはどうでもよかった。
ただお互いを求め合い、過剰な情愛に身を委ねる二人だけの深い夜。
氷山妻の甘美な絶対飼育は、二人の魂を深く絡め合わせながら、どこまでも、どこまでも更けていくのだった――!




