講義室前の修羅場と、氷山妻の絶対的な正妻宣言
休日の朝、葵と白鳥先輩による突撃取材(?)という大騒ぎを乗り越え、再びやってきた大学の平日。
大講義室前の広々としたホールは、次の授業を待つ多くの学生たちで賑わっていた。
「ねえねえ、あそこ見なよ……!」
「法学部の『氷山美女』、夏目さんじゃない……? 今日も相変わらず神々しいな……」
「でも、隣にいる男誰だ? なんであんなに距離近く歩いてんだ……?」
周りの学生たちから注がれる、羨望と疑惑が混ざり合った視線。
私は居心地の悪さに身を縮めていたが、私の右腕をしっかりと抱きしめている涼香は、どこ吹く風といった様子で涼しげな顔をしていた。
だが――その平和な空気は、一人の華やかな女子学生によって破られることになる。
「あ! 樹くん! やっぱり樹くんだよね!?」
通りかかったのは、同じ文学部のクラスメイト・結衣だった。
明るい栗色の髪を揺らし、無防備な笑顔で私の方へ駆け寄ってくる。
「昨日提出したレポートの件だけど、ちょっと教えてほしいところがあって――って、え?」
結衣が私に近づいた瞬間。
――カチャン。
涼香が抱きしめていた私の腕に、さらにギュッと力を込めた。
同時に、周囲の温度が物理的に五度ほど下がったような錯覚に襲われる。
「……失礼ですが、どちら様でしょうか?」
琥珀色の瞳から放たれる、息をのむほど美しく、そして一瞬で相手を射殺しそうな冷徹なオーラ。
かつて高校時代、全校生徒をひれ伏せさせた『氷山副会長』の完全復活だった。
「ひっ……!? あ、あの、同じ文学部の結衣って言います……樹くんとはクラスメイトで……」
「『樹くん』、ですか。……随分と馴々しい呼び方ですね」
涼香は氷のように冷たい微笑を浮かべると、結衣の目の前で、私の首元に自分の顔を優しく寄せた。
そして、ホールにいる全員に聞こえるような、明確で愛おしい声で宣告した。
「申し訳ありませんが、樹くんは私の『夫』であり、私の人生のすべてです。授業の質問なら他の学生にしてください。この人に近づいていいのは――私だけですので」
『ええええええええっ!? 夫!?』
『あの氷山美女、結婚してんのかよ!?』
『しかも相手、あの普通の男かよーーーっ!?』
ホールのあちこちから悲鳴と歓声が上がる!
結衣は「す、すいませんでしたぁっ!」と顔を真っ赤にして逃げ出していった。
◇
「……り、涼香……っ! ここ大学のホールだよ!? みんな見てたよ……!?」
「関係ありません。……だって、樹くんがあんなに可愛らしく無防備だから、変な虫がつくのです」
結衣がいなくなると、涼香の氷山モードは一瞬で溶け去り、トロンとした甘い瞳へと変わった。
彼女は私の頬に、チュッと小さなキスを落とす。
「ふふ……これで大学中の人たちが知りましたね。樹くんは、私だけのダメ人間さんだって♡」
――そこへ。
「あーっ! お兄ちゃん! 涼香さん! またホールでド派手に放閃してるーっ!」
「ふふふ、見事な主権主張ね。今日の大学新聞のトップニュースは『氷山姫の正妻宣言』で決まりだわ」
物陰から現れた葵と白鳥先輩が、パシャパシャとカメラを構えながらニヤニヤと笑っていた。
全校生徒の前での正妻宣言。
大学生活はまだ始まったばかりだというのに、涼香の過保護で甘すぎる飼育日常は、すでに大学全体を巻き込んで大爆発を起こしていた――!
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【作者から読者の皆様へ大切なお願い】
第129話(大学ホールでの極上修羅場&正妻宣言!)をお読みいただきありがとうございました!
氷山モードの冷徹な牽制と、直後の甘々キス&正妻宣言ギャップを楽しんでいただけましたでしょうか……!
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