結成!「樹(いつき)絶対防衛線」と、ダブル取調室
【シーン1:平日午後16時00分、生徒会室(謎の緊急合同会議)】
放課後の生徒会室。
いつもなら静かに事務作業が進む室内に、異様な緊張感が漂っていた。
「……あの、お二人さん? これは一体どういう状況なのかな……?」
パイプ椅子に両手両足を拘束されたかのように(※実際には縛られていないが、雰囲気が完全に取調室)座らされている樹。
その目の前の長机には、腕組みをした夏目涼香と、ポケットに手を突っ込んだ葵が並んで立っていた。
「静かにしなさい、樹くん。今、私たちは非常に重大な危機に直面しているの」
涼香がメガネ(※普段はかけないが雰囲気づくりのダテメガネ)をキリッと指で押し上げる。
「そうだよ、お兄ちゃん! 誤魔化そうとしても無駄なんだからね!」
葵もビシッと樹を指さした。
「いや、誤魔化すも何も……俺、ただ部活の連絡ノートを文芸部の部長に渡してきただけなんだけど……」
「それが問題なのよ!」
涼香がポンと机を叩いた。
「文芸部部長、2年の白鳥先輩……! 彼女は校内でも有名な『文学系清楚美少女』よ。しかも噂によると、新しく執筆する恋愛小説のモデルに、樹くんを指名しようとしているらしいじゃない……!」
「なっ……! お兄ちゃん、そんな鼻の下伸ばしそうな案件引き受けようとしてたの!? 絶対ダメ!!」
葵が両拳を握りしめて樹に詰め寄る。
「いや伸ばしてないし! 断ろうとしてたんだよ!『俺には決まった相手(涼香)がいますので』って言ったら、『じゃあ取材だけでも……』って食い下がられただけで……」
「「甘い!!」」
ふたりの声が完璧なハーモニーで生徒会室に響き渡った。
【シーン2:同刻午後16時20分、生徒会室(「正妻×義妹」同盟の締結)】
樹は深くため息をつき、頭を抱えた。
「頼むから落ち着いてくれ……。そもそも涼香と葵、いつの間にそんなに仲良くなったんだよ?」
「仲良くなんてなってないわ/なってないよ!」
顔を見合わせ、お互いに「ふんっ」と息を吐く二人。
「勘違いしないでよね、お兄ちゃん。私は涼香さんに敗北を認めたわけじゃないんだから! お兄ちゃんの隣は諦めてない!」
葵が腕組みをして主張する。
「ええ、私も葵ちゃんに樹くんを譲るつもりは一ミリもないわ。……けれど」
涼香は琥珀色の瞳を妖しく光らせ、葵と視線を合わせた。
「樹くんは天然で無防備すぎるの。油断していると、白鳥先輩みたいな無自覚な女狐に、あっという間に毒牙にかかられてしまうわ。……それだけは、絶対に阻止しなければならないのよ」
「……うん。その点においては、涼香さんに100%同意せざるを得ないね」
葵が深く頷く。
「お兄ちゃんは昔から優しすぎるから、頼まれると断れないし、無自覚に女子をキュンとさせるようなこと言うし……! 外敵から守るためには、共同戦線を張るしかない!」
「ええ。題して——『樹くん絶対防衛策』。私たちふたりで、樹くんの周りの虫を徹底的に駆除するわ」
「よーし! 結成だね、『樹絶対防衛線』!」
パンッとハイタッチを交わす涼香と葵。
樹は冷や汗を流しながら、その光景を呆然と見つめていた。
「(……なんか、俺の自由がどんどん奪われていってる気がするんだけど……っ!?)」
【シーン3:午後17時30分、下校途中のカフェ(防衛線の初陣と、樹の反撃)】
生徒会室での「取調べ」を終え、3人は一緒に駅前のカフェに立ち寄っていた。
注文したパフェが運ばれてくると、葵がさっそく樹の隣の席を陣取った。
「ほらお兄ちゃん! いちご食べて! あーん!」
「こら、葵ちゃん。樹くんの右側は私の指定席よ。それに『あーん』は私が先にするわ」
涼香がすかさず反対側に割り込み、スプーンにのせた生クリームを樹の口元へ差し出す。
「涼香さんズルい! 私が先に注文したのに!」
「ふふ、恋愛に早い者勝ちなんてないのよ、葵ちゃん。さあ、樹くん……口を開けて?」
左右から迫りくる甘い誘惑。
店内の他の客(特に男子生徒たち)から「なんだあの男……羨ましすぎるだろ……」「修羅場か? 逆ハーレムか?」という殺気立った視線が樹に突き刺さる。
「……はあ。二人とも、いい加減にしてくれ」
樹は意を決して、二人から差し出されたスプーンをそれぞれの手で優しく止めた。
「樹くん……?」
「お兄ちゃん……?」
二人がきょとんとした表情を浮かべる。
樹はふーっと息を吐くと、涼香と葵の目を順番にまっすぐ見つめた。
「心配してくれるのは嬉しいけど……俺を信用してくれよ。俺が涼香以外の女の子に目移りすることなんて絶対にないし、葵を困らせるような軽率な行動もしない。俺はそんなに頼りないか?」
真剣な眼差しでそう言われ、涼香と葵は同時に頬をぽっと赤らめた。
「……っ、そんなことないわ。樹くんが誠実なのは……一番よく知ってるもの」
「うぐっ……お兄ちゃんが急に男見せてくると、調子狂うんだけど……っ」
二人は気まずそうに俯き、スプーンを引っ込めた。
【シーン4:午後18時30分、夕暮れの帰り道(手繋ぎと、これからの三人)】
カフェを出て、夕陽が街を茜色に染める帰り道。
葵が一歩前を歩きながら、クルッと振り返った。
「まあ、今日のところはこれくらいで勘弁してあげる! でもね、お兄ちゃん。文芸部の白鳥先輩からの取材は、絶対に私と涼香さんが同席するからね!」
「えっ、同席するの……?」
「当たり前でしょう」
隣を歩く涼香が、樹の右手へそっと自分の手を重ね、指を絡めた。
「私の彼氏なんですもの。変な虫がつかないように、しっかり見張っておかないとね……♡」
涼香は樹にぴったりと寄り添い、幸せそうに微笑んだ。
葵はその様子を見て少しだけ悔しそうな顔をしたが、すぐにフッと笑って、樹の左側の袖をキュッと掴んだ。
「私も、一番近くで見張ってるからね! お兄ちゃん!」
右腕には涼香の温もりと深い愛、左袖には葵の信頼と変わらない絆。
ドタバタで、少し苦労は絶えないけれど——
修羅場を乗り越えた三人の、新しくも賑やかな日常は、これからもずっと続いていくのだった——!




