水族館デートと、耳元の束縛(モニタリング)
【シーン1:土曜日午前10時00分、水族館のエントランス(葵の勝負服と耳元の蜂起)】
週末の陽光が降り注ぐ、アクアランド水族館の入場ゲート前。
「お兄ちゃんーーーーっ!」
人ごみの中から手を振って駆け寄ってきたのは、白のオフショルダーニットにミニスカートという、普段の制服姿からは想像もつかないほど女の子らしい「勝負私服」に身を包んだ葵だった。
「ふふ、どうお兄ちゃん? 今日の私……ちゃんと『女の子』に見える……?」
くるりと一回転してみせる葵。チラリと覗く白くしなやかな太ももとデコルテに、樹は思わず目を逸らした。
「あ、葵……すごく似合ってるけど、ちょっと寒くないか……?」
「えへへ、お兄ちゃんに見せるために頑張っちゃったんだもん!」
葵は嬉しそうに微笑むと、樹の腕へとすっと手を伸ばしてきた——その瞬間。
『——樹くん。聞こえるかしら?』
樹の右耳に仕込まれた超小型インカムから、氷のように冷たく、けれど恐ろしいほど甘い涼香の声が響いた。
『葵ちゃんが腕を組もうとしてきたら、自然に避けるのよ。……それから、そのオフショルダーの肩を直視しないこと。私というものがありながら、他の女子の肌を見るなんて許さないわ……?』
樹が冷や汗を流しながら振り返ると、50メートルほど離れた大樹の影に、深めの鴨舌帽と大きなサングラス、トレンチコートで身を包んだ「怪しすぎる美女」が、雙眼鏡を構えてこちらを睨みつけていた。
(り、涼香……変装が目立ちすぎてるよ……っ!)
【シーン2:午前11時15分、巨大大水槽前(暗闇の密着と耳元の叫び)】
暗闇に青い光が揺らめく、巨大な大水槽のエリア。
頭上を巨大なエイやサメが泳ぎ去り、幻想的な雰囲気が広がっていた。
「わあ……お兄ちゃん、綺麗だね……!」
葵は樹の隣にぴったりと寄り添うと、暗がりを利用して、樹のジャケットの裾をギュッと握り締めた。
「ねえ、お兄ちゃん……覚えてる? 昔、お父さんたちとここに来た時、私、大きなサメが怖くてずっとお兄ちゃんにしがみついてたんだよ?」
「ああ……覚えてるよ。葵が泣き出しちゃって、大変だったな」
「うん。あの時、お兄ちゃんが『僕が守ってあげるから』って手を握ってくれたの……すごく嬉しかった」
葵は上目遣いで樹を見つめ、トロンとした瞳で囁いた。
「私ね……今でも、お兄ちゃんに守られたいよ……。妹としてじゃなくて……お兄ちゃんの『特別な女の子』として……」
葵の顔が、樹の胸元へとゆっくり近づいてくる。
その時——
『——樹くんっ!!!!』
インカムから鼓膜が破れそうなほどの涼香の悲鳴と叫びが響いた。
『だーめ! ダメダメダメ! それ以上近づいちゃダメぇぇぇっ! 樹くん、今すぐ後方に3歩退避して! 私の嫉妬ゲージが限界突破して、今すぐそこへ飛び込んで葵ちゃんからあなたを奪い取りたくなっちゃうから……っ!』
「うわっ……!?」
樹は涼香の悲鳴に押されるように、思わず後ろへ跳び退いた。
「えっ……? お兄ちゃん……?」
葵は呆然と手を取り残され、樹は耳を押さえながら滝のような汗をかいていた。
(涼香……! 声が大きいってば……っ!)
【シーン3:午後12時30分、イルカショーのスタンド(正妻の限界と割り込み)】
お昼時、満員のイルカショースタンド。
葵と樹は中央の席に座り、水しぶきを上げるイルカたちを眺めていた。
「お兄ちゃん、はい『あーん』!」
葵がチュロスを一口サイズにちぎり、樹の口元へと差し出してきた。
「えっ、葵……自分で食べられるよ……っ」
「だーめ! 今日は私とのデートなんだから、お兄ちゃんは私の甘えを受け止めてくれなきゃ嫌!」
葵が強引にチュロスを押し付けようとした、その時——。
「そこまでよ」
バサッ、とトレンチコートを翻し、サングラスを外した涼香が、二人の間のわずかな隙間に割り込むようにドカリと座り込んだ。
「「ええええええええっ!?」」
樹と葵の悲鳴が重なる。
「す、涼香さん!? なんでここに……!?」
葵が目を丸くすると、涼香は乱れた息を整えながら、樹の腕を抱きかかえ、自分の豊満な胸元へと強く押し当てた。
「もう我慢の限界よ……! 遠くから見ているだけのつもりだったけれど……樹くんに『あーん』していいのは、世界で私一人だけなんだから……っ!」
涼香は琥珀色の瞳にうっすらと涙を浮かべ、樹の胸に顔を擦り寄せた。
「樹くん……浮気者……! 私をほったらかしにして、こんなに甘い雰囲気にするなんて……っ! 私に『充電』しなさい……今すぐ……っ!」
「涼香……っ!?」
水族館のど真ん中で、変装を脱ぎ捨てて樹に抱きつく「完璧な彼女」夏目涼香。
葵の宣戦布告によって始まったデートは、正妻の耐えきれない嫉妬によって、激しい三角関係の直接対決へと突入するのだった——!




