妹の追憶と、解き放たれた恋心
【シーン1:午後22時30分、葵の部屋(夜の静寂と、古いアルバム)】
樹のマンションから自分の家に帰宅した葵は、制服のままベッドの上に倒れ込んでいた。
部屋の天井を見つめながら、ぽつりと呟く。
「……お兄ちゃんの馬鹿」
脳裏に焼き付いて離れないのは、あの美しく完璧な「夏目涼香」の姿。
お兄ちゃんの膝の上に乗り、葵の目の前で堂々とキスしてみせたあの瞳——そこにあったのは、単なる彼女としての余裕ではなく、お兄ちゃんを絶対に渡さないという『絶対的な支配と愛』だった。
「勝てるわけないじゃん……あんな綺麗な人……」
葵は起き上がると、クローゼットの奥から一冊の古びたアルバムを取り出した。
ページをめくると、そこに映っていたのは——5歳の頃、泣きじゃくる自分と、その手を優しく握りしめる7歳の樹の姿だった。
【シーン2:回想・5歳の冬(絶望の底で差し伸べられた手)】
事故で突然両親を亡くし、見知らぬ「樹の家」に引き取られたあの冬の日。
幼い葵にとって、世界は一夜にして色を失い、恐怖と絶望に満ちていた。
誰が話しかけても頷かず、ご飯も食べず、部屋の隅でただ膝を抱えて震えていた葵。
そんな葵のもとに、毎日通い詰めてくれたのが樹だった。
『……葵ちゃん、寒くない?』
幼い樹は、自分の宝物だったおもちゃや絵本を葵の前に並べ、一生懸命に笑顔を作っていた。
『僕がね、葵ちゃんのお兄ちゃんになってあげる。だから……もう泣かなくていいんだよ?』
樹が差し出してくれた小さくて温かい手。
その手を握り返した瞬間、葵の中で凍りついていた世界が、温かい涙とともに溶けていったのだ。
(あの日から……私にとってお兄ちゃんは、ただの「お兄ちゃん」じゃなくなったんだ……)
【シーン3:回想・成長と葛藤(血が繋がっていないという「希望」と「呪い」)】
成長するにつれて、葵は自分が「引き取られた養子」であり、樹と血が繋がっていない事実を知る。
周りの友達が「お兄ちゃん鬱陶しい」と言う中で、葵だけは樹を見るたびに胸がキュッと締め付けられるようになっていた。
樹が優しく頭を撫でてくれるたび、自分のためにお弁当を作ってくれるたび、葵の心の中に芽生えていたのは——兄に対する親愛ではなく、ひとりの男の子に対する「恋心」だった。
(血が繋がっていない……それは私にとって、いつか「女の子」としてお兄ちゃんの隣に立てるかもしれないっていう……唯一の光だった)
けれど、兄妹という関係を壊すのが怖くて、その気持ちに「兄控」というラベルを貼って誤魔化し続けてきた。
『お兄ちゃん大好き!』と抱きつくたび、本当は『男として私を見てほしい』と叫びたかったのだ。
【シーン4:午後23時45分、葵の決意(涼香という壁と、覚悟の宣戦布告)】
アルバムを閉じ、葵はギュッと胸元を握り締めた。
「涼香さんは……本当にお兄ちゃんを大切にしてくれてる。お兄ちゃんも……あんなに幸せそうな顔、私には見せてくれたことなかった……」
涼香の手料理を食べ、涼香の膝の上でトロトロに蕩けていた樹の顔。
あれはもう、「妹」がどれだけ甘えても届かない、特別な「恋人」だけに向けられる顔だった。
「悔しいよ……すごく悔しい……っ」
ポロポロと葵の目から涙がこぼれ落ちる。
だが、その瞳の奧には、幼い頃にお兄ちゃんの手を握り返した時と同じ、強い光が宿っていた。
「でも……私だって、お兄ちゃんを愛してきた時間は負けてない……っ!」
血がつながっていない妹——それは、かつて自分を縛っていた鎖であり、今や涼香に挑むための「唯一の武器」。
「諦めないからね……お兄ちゃん。私を『妹』としてじゃなく……『ひとりの女の子』として見せるから!」
葵は涙を拭うと、スマホを取り出し、樹のLINEにメッセージを打ち込んだ。
『お兄ちゃん、今週末……私とふたりだけでデートして!』
妹としての甘えを捨て、ひとりのヒロインとして立ち上がった葵。
樹を巡る恋の波乱は、さらに甘く、激しく加速していくのだった——!




