夜の密話と、明かされる妹の秘密
【シーン1:午後21時30分、マンションの玄関】
「うぅ……今日は負けたけど、お兄ちゃんを完全に取られたわけじゃないんだからね! またすぐ遊びに来るんだから!」
捨て台詞を残し、プンプンと頬を膨らませて駅へと向かう葵の背中を見送り、樹は小さく息を吐いた。
バタン、と重い玄関のドアが閉まる。
「ふぅ……なんとか無事に終わってよかった……。涼香、今日は葵に優しくしてくれてありがとう——うわっ!?」
樹が振り返った瞬間、背後から猛スピードで涼香が飛びつき、樹の首に両腕を回してきつく抱きしめてきた。
制服を脱ぎ、樹の大きめのパーカーを着た涼香の体が、微かに震えている。
「り、涼香……っ!?」
「……ふぅ……やっと……二人きりになれたわ……」
涼香は樹の胸元に顔を深く埋め、すーはーと樹の匂いを深く吸い込んだ。
「私……頑張ったでしょう……? 葵ちゃんの前で『余裕のあるお姉様』を演じて……本当は、嫉妬で狂いそうだったのよ……っ」
涼香は潤んだ琥珀色の瞳で樹を見上げ、甘い熱を帯びた声で囁いた。
「私を甘やかして……充電して頂戴、樹くん……っ」
【シーン2:22時30分、ベッドの中での『甘えタイム』と唐突な告白】
部屋の明かりを落としたベッドの中。
涼香は樹のパーカーの袖をギュッと握り締め、樹の胸元に体をぴったりとすり寄せていた。
樹は涼香のさらさらの黒髪を優しく撫でながら、ふと思い立ったように口を開いた。
「ねえ、涼香……今日、葵が僕にすごく粘着してただろ?」
「ええ……正直、妹以上の距離感でヒヤヒヤしたわ。血がつながっているとはいえ、少し嫉妬してしまったけれど……」
「……実はね、涼香」
樹は少し遠い目をしながら、涼香の手を強く握り返した。
「僕と葵……血が繋がっていないんだ」
「……え……?」
涼香の動きがピタリと止まった。
【シーン3:23時15分、明かされる葵の複雑な身世(身世の真実)】
「僕が7歳の頃、両親が事故で親を亡くした葵を養子として引き取ったんだ。……葵が5歳の時のことだよ」
樹は静かに葵の過去を語り始めた。
「幼かった葵は親を失ったショックで、最初の数ヶ月は誰とも話さず、食事も喉を通らない状態だった。そんな葵が初めて心を開いて、手をつないでくれたのが……僕だったんだ」
「……そんな悲しい過去が……」
「葵にとって僕は、ただの『お兄ちゃん』じゃなくて、恐怖と孤独から救ってくれた『唯一の依存先』だったんだと思う。だから葵は昔から僕に対して、普通の妹以上の執着を見せることがあって……」
樹の言葉を聞きながら、涼香の胸に切なさと、そして新たな『理解』が広がっていった。
(だから葵ちゃんは……あんなに必死な目で、樹くんを私から奪い返そうとしていたのね……)
血の繋がりがないからこそ、葵が抱く「お兄ちゃん」への想いは、単なる兄妹愛を超えた「ひとりの異性としての好意」を含んでいるのかもしれない——涼香はそう直感した。
【シーン4:深夜00時00分、深まる愛と『正妻』としての覚悟】
身世の真実を知り、少ししんみりとした空気を払拭するように、涼香は樹の胸元にぎゅっと顔を埋めた。
「……教えてくれてありがとう、樹くん」
「涼香……?」
「葵ちゃんの過去を知って、ますます葵ちゃんを大切にしてあげたくなったわ。……だけどね?」
涼香は樹の体の上に少しだけ乗り上げ、暗闇の中で瞳をキランと怪しく光らせた。
「血が繋がっていないと分かった以上……ライバルとしての警戒度は、これまでの十倍に引き上げるわ」
「えっ……ライバル!?」
「当たり前でしょう? 幼馴染で、血の繋がらない妹で、あなたに命を救われたヒロイン……属性が盛りだくさんすぎるわ。……でも」
涼香は樹の唇にそっと自分の唇を重ね、甘く、けれど強い誓いのキスを落とした。
「あなたの過去も、葵ちゃんの存在も……全部含めて、私があなたを世界一幸せにしてあげる。……だから樹くん、覚悟してね?」
「涼香……うん、よろしくね、僕の完璧な彼女さん」
葵の身世という新たな波乱の種を抱えつつも、二人の絆はより深く、より甘く結ばれていくのだった——。




