公認初の週末! 完璧な彼女の破滅的な甘やかし
【シーン1:金曜日の夜19時30分、樹の部屋の前(スーツケースと、覚悟の訪問)】
ピンポーン——。
樹がアパートの玄関のドアを開けると、そこには大きめのキャリーケースを引いた涼香が立っていた。
私服は、落ち着いたベージュのニットワンピ。
普段の制服姿とは違う、少し大人びたしっとりとした雰囲気が漂っている。
「こんばんは、樹くん。……約束通り、来ちゃったわ」
「涼香……っ! 本当にキャリーケースまで持って来たの……!?」
「ええ。お父様には『旦那様のお家で週末の嫁修業をしてくる』って言ったら、笑顔で送り出されたわ」
「なんて報告してるの……!?」
涼香はくすくすと嬉しそうに笑うと、靴を脱いで自ら部屋へと上がり込んだ。
慣れた手つきでキャリーケースを壁際に置くと、くるりと振り返り、樹に向かって両手を広げてみせた。
「さあ……お家に入ったのだから、まずは『ただいまのキス』と『おかえりの抱擁』をして戴戴戴戴?」
「っ……! 涼香、急にどうしたの……っ!?」
「どうしたの、じゃないわ。学校では周りの目があったけれど……ここには二人しかいないのよ? 我慢なんて、もう一秒もしないんだから」
涼香は樹の胸に自分から飛び込むと、ぎゅっと強烈な力で抱きついてきた。
ニット越しに伝わる温かい体温と、彼女特有の甘いホワイトムスクの香り。
涼香は樹の首筋に顔を埋め、深々と息を吸い込むと、トロンとした瞳で樹を見上げた。
「……んっ……やっぱり、樹くんの匂い……一番落ち着くわ。……これで今夜はぐっすり眠れそう」
【シーン2:20時45分、キッチンでの『後ろからの拘束』とエプロン姿】
樹が夕食の準備をするため、キッチンで包丁を握っていた時のこと。
トントン、と野菜を刻む音に混じって、後ろから忍び寄る気配。
次の瞬間、樹の腰に涼香の細い両腕がしっかりと巻きつけられた。
「り、涼香……っ!? 包丁使ってるから危ないよ……っ!」
「ダメ。離れないわ。……私、樹くんがご飯作ってる後ろ姿を見るのが大好きなの」
涼香は樹の背中に頬を擦り寄せ、スリスリと甘えるように頭を動かす。
樹のシャツを着せた「彼シャツ」状態ではないものの、薄手のニット越しに伝わる彼女の柔らかい感触に、樹の指先が狂いそうになる。
「ねえ、樹くん。お口開けて?」
「え……?」
振り返ると、涼香の手には小さくカットされたプチトマトが握られていた。
「あーん」
「っ……自分でお皿から食べるよ……っ」
「だーめ。私が食べさせてあげたいの。……ほら、あーん」
抗えるはずもなく、樹が口を開けると、涼香は満足そうにトマトを樹の口に放り込んだ。
そして、自分の指先に残った汁を、樹の目の前でチュッと自らの唇で舐めとってみせたのだ。
「ふふ、美味しい? ……私からの『愛情込めて』よ」
上目遣いで妖しく微笑む涼香の姿に、樹の心臓は破裂しそうなほどの高鳴りを打っていた。
【シーン3:22時00分、お風呂上がりの膝枕と、完全なる甘やかし(ダメ人間製造)】
二人でお風呂を済ませ(※涼香が一緒に入ろうと猛追してきたのを樹が死に物狂いで阻止した)、リビングのソファーで寛ぐ時間。
乾かしたばかりの髪から甘い香りを漂わせた涼香は、当然のように樹の膝の上に頭を乗せ、ソファーに横たわった。
「樹くん……頭、撫でて?」
「……うん」
樹が涼香の柔らかくサラサラとした黒髪に指を通すと、涼香は猫のように目を細め、うっとりと吐息を漏らした。
「ああ……幸せ……。私、この瞬間のために生きてるのかもしれないわ」
「涼香……学校でのあの『冷酷な副会長』の姿、誰も今の涼香を見たら信じないだろうね」
「いいのよ。学校の私なんてただの仮面。本当の私は……樹くんだけにしか見せない、あなただけの涼香なんだから」
涼香は樹の手を自分の頬へと導き、愛おしそうに擦り寄せた。
「ねえ、樹くん。明日は土曜日……どこにも行かないで、一日中ベッドで私に甘やかされていて?」
「え……でも、課題もやらないと……」
「課題なんて私が全部教えてあげるわ。……だから明日は、私だけに飼い慣らされていなさい?」
【シーン4:深夜23時30分、ベッドの中での密着と、永遠の愛の誓い】
電気を消したベッドの中。
布団の中でも、涼香は樹の胸元にしっかりと抱きついて離れなかった。
暗闇の中、ふたりの吐息が近距離で重なり合う。
「樹くん……」
「なに、涼香?」
「私ね……全校朝礼でみんなに言ったこと、何ひとつ後悔していないわ」
涼香の手が、布団の中で樹の手を探し、指と指を深く絡め合わせる「恋人繋ぎ」の形を作った。
「あなたと堂々と手を繋いで、あなたを私の『旦那様』って呼べて……私、いま人生で一番幸せなの。……だから、これからもずっと……私の隣にいてね?」
「……うん。僕も、涼香の隣にいられて嬉しいよ。……おやすみ、涼香」
「ふふ、おやすみなさい……私の可愛い樹くん」
涼香は樹の唇にそっと、優しくおやすみのキスを落とすと、樹の胸に顔を埋めて幸せそうに息を整え始めた。
完璧な「氷山姫」の仮面を完全に脱ぎ捨てた涼香との、甘く、深すぎる週末の夜は、靜かに更けていくのだった——。




