全校朝礼の大波乱! 氷山姫の絶対なる宣誓
【シーン1:午前8時30分、全校朝礼前の体育館(渦巻く疑念と噂)】
体育館は、千人を超える生徒たちの熱気と騒めきで満ちていた。
昨日から全校を駆け巡っている噂——『あの冷徹な夏目副会長が、一年生の樹と付き合っている』『しかも夏目先輩から猛アタックしたらしい』という情報。
当然、大半の生徒たちは半信半疑だった。
「ハハ、あり得ないだろ! あの夏目先輩だぞ? 男を虫ケラを見るような目で見下す『氷山姫』だぞ?」
「どうせ誰かのガセネタだろ。樹ってやつが自分で言いふらしたんじゃないのか?」
男子生徒たちの嫉妬と疑念が混ざり合った視線が、クラスの列の端で身を縮めている樹に突き刺さる。
(……やっぱり、こうなっちゃうよね……。涼香が昨日生徒会室で言ったことも、みんな『美咲さんの見間違い』とか『冗談』だと思ってるんだ……)
樹が胃の痛みに耐えていると、体育館の壇上に生徒会役員たちが姿を現した。
その中心に立つのは、完璧な制服姿で背筋をピンと伸ばした夏目涼香。
凛とした琥珀色の瞳、一切の隙がない立ち姿。まさに誰もが恐れ敬う「絶対不可侵の氷山姫」そのものだった。
「ほら見ろ! いつもの冷酷な夏目先輩じゃないか! 緋聞なんて嘘に決まって——」
男子生徒がそう叫んだ、まさにその時だった。
壇上の涼香の視線が、千人の生徒の中からまっすぐに樹の姿を捉えた。
そして——氷のように冷たいはずの彼女の唇が、まるで春の陽光のように甘く、トロリと柔らかく綻んだのだ。
涼香は樹に向かって、誰にも気づかれないように小さく、愛おしそうに手を振ってみせた。
「「「「え……????」」」」
周囲の男子生徒たちの時が止まった。
【シーン2:午前8時45分、壇上のマイクと、氷山姫の狂気的な宣言】
校長先生の退屈な挨拶が終わり、生徒会からの連絡事項の時間がやってきた。
涼香は優雅な足取りで壇上中央のマイクへと歩み出る。
体育館全体が静まり返り、全員が「副会長の連絡」に耳を傾けようとした。
「……生徒会副会長の夏目涼香です。本日は生徒会からの定期報告……の前に、全校生徒の皆様に非常に重要なご報告があります」
凛とした透き通る声が、スピーカーを通じて体育館の隅々にまで響き渡る。
「現在、校内で私と一年生の樹くんに関する様々な噂が囁かれているようです」
(っ……!? 涼香、まさか全校生徒の前で……!?)
樹の心臓がバックバクと跳ね上がる。美咲をはじめとする生徒会役員たちも青ざめてフリーズしていた。
涼香は一度言葉を切り、琥珀色の瞳で全校生徒をぐるりと見渡した。
その瞳には、一切の迷いも、恥じらいもなかった。あるのは、狂おしいほどの誇りと圧倒的な愛だけだ。
「噂の中には『私がたぶらかされた』『樹くんが嘘をついている』といった事実無根の言説が含まれています。これ以上、私の大切な人に無礼な疑念が向けられることは許しがたい不快感です」
涼香はトントン、と指先でマイクを叩くと、一息つき——
「よって、ここで明確に事実を宣言いたします」
彼女は胸を張り、全校生徒千人に向かって、堂々と、誇らしげに言い放った。
「私、夏目涼香は、一年生の樹くんを心から愛しており、彼と正式にお付き合いをさせていただいております。……いいえ、正確には、私が彼を追いかけ回し、私の部屋で毎日手料理を食べさせ、甘やかし、飼い慣らしている最中です」
「「「「「「「「……は……????????」」」」」」」」
体育館の空気が、完全に消滅した。
千人の生徒、そして教師陣すらも、開いた口が塞がらずに固まっている。
しかし、涼香の「爆撃」はそれだけでは終わらなかった。
【シーン3:全校生徒の面前で! 壇上からの急降下と降伏のキス】
涼香はマイクから離れると、なんと壇上の階段を使わず、そのまま優雅に体育館のフロアへと飛び降りた。
カツン、カツンとローファーの音が静寂の体育館に響く。
全校生徒が息をのんで道をあける中、涼香は迷いのない足取りで、呆然と立ち尽くす樹の元へと歩み寄った。
「り……涼香……っ!? お前、何やって……っ!?」
樹が赤面して混乱する間もなく、涼香はすっと手を伸ばし、樹の制服のネクタイをぐっと自分の方へと引き寄せた。
至近距離で重なり合う視線。
涼香は全校生徒の目の前で、樹の耳元に唇を近づけ、体育館中に聞こえるような甘い囁き声を漏らした。
「言ったでしょう、樹くん? 『全校生徒にあなたが私のものだって刻み込んであげる』って」
「っ……! だからって、朝礼で……っ!」
「ふふ、これで……もう誰も、あなたに手を出すことはできないわ」
涼香は樹の頬を愛おしそうに両手で包み込むと、なんと全校生徒と全教師の目の前で、樹の唇にそっと、深く愛を確かめるような接吻を落とした。
「「「「「「きゃああああああああああああああっっっっ!??!?!?!」」」」」」
体育館が爆発した。
悲鳴、叫び声、拍手、男子生徒たちの絶望の叫びが入り混じり、校舎が揺れるほどの空前の大狂乱が巻き起こった。
「な、夏目先輩が……自分から男子にキスしたぁぁぁぁぁっ!?」
「あの氷山姫が……ベタ惚れじゃないかぁぁぁっ!?」
【シーン4:放課後16時30分、屋上で深まるふたりだけの『飼育契約』】
全校朝礼での前代未聞の事件により、学校中が大騒ぎとなった日の放課後。
騒音から逃れるように、二人は鍵をかけた屋上のフェンス際にいた。
夕暮れの赤オレンジ色の光が、二人の影を長く伸ばしている。
「……もうダメだ……僕、明日から学校歩けないよ……」
ベンチで頭を抱える樹。
そんな樹の隣に、涼香は心底満足そうな、世界一幸せな笑顔を浮かべてちょこんと座り込んだ。
そして、当然のように樹の膝の上に頭を乗せ、見上げるように樹の手を自分の頬へと導いた。
「いいじゃない、樹くん。これでみんな分かったはずよ。……あなたは私だけの『可愛い旦那様』だって」
「涼香のばか……強引すぎるよ……」
「ふふ、ばかでも何でもいいわ。……私、あなたを誰にも渡したくなかったの。……私だけのものにしたかったのよ」
涼香の琥珀色の瞳が、夕日を受けて怪しく、甘く輝く。
彼女は樹の手のひらに愛おしそうにチュッとキスを落とすと、トロンとした表情で囁いた。
「覚悟しなさいね、樹くん? 全校公認になったんだもの……これからは家だけじゃなくて、学校でも……毎日いっぱい甘やかしてあげるんだから」
冷徹な「氷山姫」の完璧な仮面を完全に脱ぎ捨て、全校生徒の前で愛を誓った涼香。
二人の「狂おしいほどの甘々全校飼育生活」は、ここから誰も止めることのできない神話へと突入していくのだった——!




