全校激震の翌朝と、氷山姫の過保護な威嚇
【シーン1:午前8時00分、登校風景(全校生徒の視線)】
「……ねえ、あれ……本当なの……?」
「夏目先輩が……男子と手を繋いで登校してる……!?」
昇降口へ続く校門前の並木道。
普段なら「近寄りがたい完璧な副会長」として生徒たちが自然と道をあける光景が、今朝は全く違う意味でざわついていた。
涼香は、樹の右手をしっかりと「戀人繫ぎ」で握りしめたまま、堂々と校門をくぐっていた。
「り、涼香……っ! みんなの視線が痛いよ……本当に全校生徒が見てる……!」
樹が顔を真っ赤にして縮こまると、涼香はフッと鼻で笑い、握る手にキュッと力を込めた。
「何を怯えているの、樹くん? 私は言ったはずよ。『もう隠さない』って」
涼香はそのまま立ち止まり、周囲でコソコソと噂話をしている男子生徒たちに、冷徹な琥珀色の瞳で一瞥をくれた。
その瞬間、周囲の空気が凍りつき、男子生徒たちはヒッと息をのんで目を逸らした。
「……私の樹くんに、あまり怪しい視線を向けないでちょうだい。不快だわ」
(……過保護すぎる! 威嚇の圧が凄まじいよ涼香……!)
樹が心の中で叫んでいると、涼香は樹に向き直り、一瞬で瞳を甘くトロけさせて頬を緩めた。
「ほら、行きましょう、樹くん。靴、履き替えてあげるわ」
「自分で履けるから大丈夫だよ!?」
【シーン2:昼休み12時15分、屋上での突撃取材(美咲の困惑)】
昼休み、騒がしい教室を避けて二人が屋上へ避難すると、後を追ってきた生徒会の美咲が扉を勢いよく開けた。
『夏目先輩っ! 樹くんっ! た、大変です! 掲示板もSNSも、二人の噂で持ちきりで……っ!』
美咲が息を切らしながら訴えかける。
しかし、彼女の目に飛び込んできたのは——
ベンチに座る樹の膝の上にすっぽりと収まり、樹の手から「卵焼き」を「あーん」と口で受け取っている涼香の姿だった。
「ん……もぐ……美味しいわ、樹くん。やっぱりあなたの作るお弁当が一番ね」
「涼香、口元にケチャップついてるよ」
「取って? ……ん、ちゅっ……ふふ、ありがとう」
美咲はその場でフリーズした。
『な……夏目先輩……? あの『冷徹の氷山姫』と呼ばれた夏目先輩が……男の人の膝の上で……甘やかされている……!?』
「美咲さん」
涼香はゆっくりと樹の膝から降りると(少し名残惜しそうに)、冷ややかな表情に戻って美咲を見つめた。
「ノックもしないで入ってくるなんて、非常識よ。……それと、噂なら好きにさせなさい。私は樹くんの『妻』として、当然の権利を行使しているだけなのだから」
「つ、妻ぁぁぁぁぁっ!??!?」
美咲の悲鳴が屋上の空に響き渡った。
【シーン3:放課後16時00分、生徒会室での密室飼育】
放課後、生徒会室。
美咲たち他の役員が「空気を読んで」早々に退散したため、室内に残されたのは二人きりだった。
鍵がガチャリと音を立てて閉められる。
「ふぅ……誰もいなくなったわね」
涼香は眼鏡を外すと、待ってましたと言わんばかりに樹の背後から抱きつき、樹の首元に顔をうずめた。
「り、涼香……作業が……」
「ダメよ。今日は一日中、色んな人に見られて……私、すごくストレスが溜まったんだから。……樹くんを私だけのものだって、今すぐ確認させて」
涼香は樹の身体をくるりと自分の方へ向けさせると、そのまま椅子に座る樹の太ももの上に跨がってきた。
至近距離で重なり合う瞳と瞳。
彼女の濡れたような琥珀色の瞳には、昼間の強情な態度とは裏腹な、寂しがり屋で甘いたっぷりの愛が溢れていた。
「……ねえ、樹くん。学校でみんなに『私の旦那様』って言えて……私、すごく嬉しかったの」
「涼香……」
「だから……放課後は、私をいっぱい甘やかして? あなたの『可愛い奥さん』にして……?」
涼香が甘くねだるように唇を重ねてくる。
全校公認となった二人の関係は、隠す必要がなくなったことで、より一層激しく、甘く、深みへと堕ちていくのだった——。




