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やりたかないのに陰陽師四  作者: 辻本 真悟
第五章:相坂トンネル大乱戦と最強の留守番パッチ
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第二十九話:バックドア・リブート・コレクターの触手

「で、アホくさかったから下剋上って感じか? あのなぁ、智規ちゃん。先代の源家の当主は見抜いとったんやぞ。お前の内にある、その黒ーい感情ノイズになぁ」


 泰臣はタバコの煙を静かに吐き出しながら、智規を真っ向から見据えた。その声には、いつものからかうようなパケットは一切載っていない。古くからの「住人」としての、重い過去ログの開示だった。


「俺たち三人もな、お前のことは気にしとったんや。お前の兄貴の博臣ひろおみなんかはな、『俺より弟の智規が源家を継ぐべきや』って、ずっと周りに言うてたしなぁ」


 泰臣のその言葉に、暗闇の奥で眼鏡を光らせていた智規の表情が、一瞬だけピクリと硬直フリーズした。泰臣はさらに続けて語る。


「そんな中、博臣が結婚して、博雅が生まれてきて……。生まれたての博雅が、あの純度100%の『黄金の氣』を纏っとるのを見て、先代が博臣に正式に当主の座を譲ったんや。……俺と雁助がんすけはな、一応お前の行動バグには気を付けてた。せやけど、お前は博雅を見た瞬間に、今までの俺たちへの嫉妬や羨望が入り混じったドス黒い感情を綺麗に忘れたかのように、博雅をそれはもう可愛がってたやんけ。……せやのに、何で今更こんな事をしでかした? 反抗期にはちーと遅すぎんか、智規ちゃん」


 車の後部座席でホールドされていた博雅が、泰臣の言葉を聞いてハッと息を呑む。

 智規さんは静かに、かつて抱いていた実の甥への情をデコード(再生)するように、視線を落とした。


「そうですねぇ……。確かに博雅が生まれた時は、心から嬉しかった。その気持ちに、嘘はありません。本当に、初めて自分の手で抱いた時は、天使かと思いましたよ……」


 智規さんはそこで一度言葉を切り、今度はゆっくりと顔を上げて、その眼鏡の奥の瞳を完全に狂気の赤色エラーカラーへと染め上げた。


「このまま穏やかに、平和な時が過ぎていくと本気で思っていましたよ。――あの、酒井さかい しゅんが死ぬまではね……!」


「――ッ!?」


 智規の口からいきなり吐き出された【酒呑童子シュテンドウジ】の人間名ログに、車内にいた俺、道満、そして博雅は強烈な電気ショックを受けたように息を呑んだ。


「あの、酒呑童子というチート級の化け物が世界からいなくなったことでね、これまで闇の深層に潜伏していた色々な術士たちが一斉に動き出したんですよ。その内の一つに、『コレクター』と名乗る集団が居てね。神戸でヴァンパイア事件を起こした後、この姫路に潜伏しているという情報を掴んだ。私は姫路署のトップとして、最初は取り押さえるつもりで奴らに接触したよ。……最初はね」


 智規さんは自嘲するようにケラケラと笑い、自分の首元(喉のライン)を指先でなぞった。


「だが、奴らの使う『薬物』を強引に飲まされた瞬間に……脳の奥底で完全に封印されていたはずの、貴方たちへの醜い嫉妬や憎悪、羨望が、最悪な形で強制リブート(リフレッシュ)されてしまった……! だから私は、この忌々しい兵庫県警のシステムを失墜させ、歴代県警の要職を独占してきた源家ごと、全てをこの世からデリート(消去)しようと考えたんだよ……!」


 智規の口から語られた、あまりにも歪で悲痛なバグの全貌。

 酒呑童子ロスという世界線の変動が、巡り巡って、かつて博雅を天使と呼んだ優しい叔父の精神システムを完全にハッキングし、最悪の怪物へと書き換えてしまっていたんだ。

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