第二十五話:アウェイクニング・覚悟のリブート
「――安倍君、そういうことなら話は別だ。この件、兵庫県警本部の動きも含めて、こちらの総力で調べられるだけ調べて裏付け(デバッグ)を取る」
スマートフォンのスピーカーの向こうから、保憲の冷徹だが心強い音声ログが響いた。源家の内乱となれば、裏社会の統治システム(生徒会)としても傍観しているわけにはいかない。
「悪いな、会長。そっちの通信プロトコル(調査結果)が届くのを待ってるわ」
『あぁ、続報が入り次第すぐにパケットを投げる。……いらん心配やけど死ぬなよ』
プチッ、と静かな電子音と共に保憲との回線が切断された。
張り詰めた静寂が戻った部屋の中で、瀬戸の旦那が手元のスマートフォンを見つめたまま、眼鏡の奥の瞳を獰猛に細めた。
「ハル坊、泰臣。金原の若い衆からさらに不審なログ(追報)が届いたぞ。……小赤壁と赤屋根の現場な、自殺や他殺体が見つかったっていうのに、姫路署の連中は本庁に無線を飛ばすどころか、死体を隠蔽するようなおかしな動きを見せとるらしいわ」
「……死体が上がってんのに、まだログのロンダリング(隠蔽)を続けてるってことかよ。智規の奴、完全に県警のファイアウォールを潜り抜けて暴走してやがんな」
親父の泰臣がチッと舌打ちをして煙を吐き出す。
街全体を巻き込んだ最悪のハッキングプロセスが現在進行形で走っている。その決定的な証拠を突きつけられた瞬間――。
それまでずっと下を向いてフリーズしていた博雅が、ゆっくりと、だが驚くほど静かに顔を上げた。
ギチ、ギチ、と床が鳴るほどの力で、博雅の両拳が血の気が引くほど強く握りしめられていく。その全身から立ち上るのは、迷いのノイズを完全にデリート(消去)した、まばゆいほどの『黄金の氣』の残光だった。
「……博雅?」
道満が息を呑む。
博雅の瞳の奥には、さっきまでの絶望や困惑のバグは一切残っていなかった。ただ実直に、裏社会の巨頭を守るという絶対的なコアプログラムだけがリブート(起動)している。
「……俺が、あの人を止めたる」
低く、だが部屋のトラフィックの全てを圧殺するような重い声だった。
「智規叔父さんが、源家をどうしたいか知らん……。源家の次期当主として、俺のこの黄金の矢で、叔父さんの暴走ごと全てのバグを撃ち落としたる。……晴明、道満、泰臣さん。俺を、あの人のいる現場まで連れて行ってくれ」
その言葉は、ただの身内の感傷なんかじゃない。平安より続く源家を背負う男としての、本物の『覚悟の宣言』だった。
「……はぁ。やりたかないねー、ホンマによー。お前がそこまでイケメンなパッチ起動させるんやったら、俺がログイン(同行)しないわけにはいかへんやんけ…」
俺はため息をつきながらも、ポケットから五芒星のジッポを抜き出し、カチャリと軽い金属音を響かせた。本当の戦いの座標は、すでにロックされている。




