第二十四話:インサイド・レイジ・下剋上のプロトコル
「……ちょっと、これどうなってんねん! 城の祭壇は叩き潰したはずやろ!? なんで他の心霊スポットで同時に人が死んでんねん!」
金原からの最悪なアラートを聞いた瞬間、道満がコートの袖を振り回しながら、完全にパニックを起こしたログを吐き出した。部屋の空気が急速に加熱していく。
「落ち着け、道満。回線を熱くすんな。……今ここで俺たちが処理落ちしたら、敵の思うツボだわ」
俺は脳内の演算回路を必死に冷ましながら道満を宥めたが、その隣に立つ博雅のステータスはさらに深刻だった。自分の身内であり、本気で自分を心配してくれていたはずの叔父・智規。その男がこの凄惨な同時多発エラーの裏にいるという現実に、思考の同期(理解)が完全に追いつかず、ただ呆然と立ち尽くしている。
その凍りついたトラフィックのただ中で。
ソファに深く腰掛けた瀬戸の旦那が、灰皿にタバコをトントンと叩きつけながら、低く掠れた音声ログを漏らした。
「……フッ、昔から下剋上や内乱っちゅうのは、決まって『身内』から始まるもんやからな」
その旦那のパケットに、隣にいた親父の泰臣が「違いねぇや」と短く同意を返す。泰臣はいつになく真剣な、どこか冷徹なデバッガーの目をして、夜の窓の外へと視線を投げていた。
「……おい、親父、瀬戸の旦那。それどういう意味やねん? 智規さんの狙いは、姫路の地脈をハックすることじゃないんか?」
俺のクエリに、泰臣は咥えタバコのまま、どこか遠い目をして思考の演算結果を開示し始めた。
「なぁ晴明。よく考えてみろ。智規の奴、ヤクザ(武上組)のマークまで外して、警察の全戦力を私物化しちまってる。こんな常軌を逸した行動、表の県警本部に少しでも漏れたら、奴のキャリアは一発で永久デリート(免職)だぞ」
泰臣の言葉を引き継ぐように、瀬戸の旦那が冷酷な笑みを浮かべて指を組む。
「そうや。そんな破滅のリスクを背負ってまで、警察の全リソースを突っ込んで街全体の地脈をハックしようとしとる。……それだけのリターンがある利権なんてな、表の警察組織の出世なんかじゃねえ。源家の頂点――現・当主である博臣を失脚させての『源家の破滅』か、あるいは自分がトップに君臨するための『当主交代』。それぐらいの特大の権力しか、釣り合いが取れへんのや」
「――ッ!!」
二人の裏社会の住人が導き出した冷徹なソースコードに、俺の背筋に最悪なエラーノイズが走り抜けた。
智規はただの狂ったハッカーなんかじゃない。源家という巨大なシステムを内側から食い破るため、姫路の街全体と一般人の命をただの使い捨ての踏み台として利用し、完璧な下剋上のシステムを構築していたんだ。
「……やりたかないねー、ホンマによー。地脈のデバッグだと思って潜ったら、まさか源家の血みどろの内紛ログに強制ログインさせられてたなんて、笑えないドメインだわ……」
俺は隣で拳を血がにじむほど強く握りしめている博雅の横顔を見つめながら、これから始まる本当の泥沼の戦いに、暗い戦慄を隠せずにいた。




