第二十二話:ディープ・スキャン・地脈のパラレル演算
「……しかもな、泰臣。金原のスパイが警察のメインサーバーから命がけで引きずり出してきたログは、それだけやないぞ」
瀬戸の旦那は、道満の突っ込みに不敵な笑みを崩さないまま、さらに深いダークウェブの奥底からパケットを取り出すように声を低くした。
「あの二つの『自殺』としてスピード処理された男らの遺体な。……警察の内部データの奥の奥をハックしてみたら、どちらの遺体も喉元を裂かれる前に、ある『同じ薬物』を強制的に体内に注入されとった形跡が残っとったらしいわ」
「……同じ、薬物?」
俺のクエリに、瀬戸の旦那は眼鏡の奥の目を冷酷に光らせて頷く。
「あぁ。通常のポリグラフ(嘘発見器)や毒物鑑定を完全にすり抜けるよう、姫路署の最新ラボで極秘に開発されとった試作段階の『神経麻痺パッチ』や。つまりな、あの二人は自殺したんやない。警察の身内しか持ち出せへん特殊なリソースを使って、生きたまま魂をスクレイピング(抽出)するための『素材』にされとった可能性が極めて高いってわけよ」
「――ッ!!」
その不気味なログ(情報)が開示された瞬間、博雅が「そんな……叔父さんが、本当に……っ」と絶望を孕んだ声を漏らし、部屋のトラフィックが一気に凍りついた。
だが、その最悪なピースが揃った瞬間。
それまで黙って腕を組んでいた親父の泰臣が、フッ、と不敵に口角を上げたんだ。街灯の影に隠れた「掃除屋」としての演算回路が、違和感の正体を掴みかけたような顔だった。
「……なるほどな。智規の奴、城の祭壇だけやなくて街全体の地脈を使って、もっととんでもないことを企んどるな」
泰臣はポケットから新しいタバコを抜き出し、俺が差し出したジッポの五芒星の炎で火を点けながら、冷徹な声で推測のコードを口にし始めた。
「なぁ、旦那。あの城の地下にあった祭壇が、ハッキングの本体じゃなくて、単なる『マスターサーバー(中継機)』だったとしたらどうだ?」
「……ほう。城を本拠地に見せかけたカモフラージュ、っちゅうわけか」
「あぁ。智規の奴、警察の戦力をこれだけ細かく街中の心霊スポットに散りばめとる。ってことは、城の地下で女の子二人の魂を削りながら、同時にその全エリアの地脈ノイズをプロキシ(中継機)にして、別の何かを並行演算させてたんじゃねえのか……」
親父の冷徹なプロット分析を聞きながら、俺も脳内のリソースを回して推測を重ねる。
「……もしそれが本当なら、城の祭壇に誰もいなくて自爆システムが仕込んであった理由も繋がるわ。城をデバッグ(破壊)されても、街中に散りばめた他の回路が生きてれば、ハッキングのプロセス自体は止まらへん。……智規さん、俺たちが城を叩くことすら、最初から計算に入れてカモフラージュに使ってた可能性すらあるで」
解決したと思っていた事件の裏で、さらに巨大な回路図が街全体に張り巡らされているかもしれないという不気味な推測。
正体の見えない智規の「本当の狙い」を前に、俺たちの胸の奥には、なんとも言えない底知れない不安感情がじわじわとこみ上げてきていた。




