第二十一話:インサイド・レポート・マーク外しのノイズ
ホテルのロビーから、周囲の観測ログを遮断できる泰臣の部屋へと場所を移した俺たち。まずは事の始まりである雅さんの依頼から、お菊井戸でのタイムアタック、そして地下で叩き潰した『地脈の祭壇』のバグデータまで、俺と親父で一通りのログを瀬戸の旦那に同期(説明)した。
「……なるほどな。ハル坊、泰臣。俺の仕入れとる情報と、お前らの叩いたログが綺麗に一致しとるわ」
瀬戸の旦那はソファでタバコの煙をゆっくりと吐き出し、眼鏡の奥の目をギラリと光らせて、武上組の組長である金原からの連絡内容をデコード(開示)し始めた。
「ここ姫路を任せとる武上組の組長・金原ってのはな、昨今の暴対法なんぞクソ喰らえと言わんばかりの、イケイケの武闘派で有名な男なんや。当然、姫路の警察(智規)からのマークもクソ厳しくてな。実は、今日も武上組系列の組に大掛かりな『ガサ入れ』が入るはずやったんや」
瀬戸の旦那の言葉に、横で聞いていた博雅が「……叔父さんの部隊が、武上組を?」と、緊張した面持ちで呟く。
「あぁ。だから金原のところも、警察に見られては困るヤバいデータやら何やらを、必死に隠して防壁を張っとったわけや。ところが、待てど暮らせど警察のガサ入れ部隊が来うへん。それどころか、組の周辺に張り付いとった私服警官のマークまで、不自然に一斉に外されよった」
「……マークを、一斉にデリート(解除)した?」
俺のクエリに、瀬戸の旦那は深く頷き、不敵な笑みを深くした。
「ガサ入れの直前で、警察の全トラフィックが急遽行先を書き換えられた(ルート変更された)んや。不審に思った金原が、警察の内部に潜り込ませとる『スパイ』の回線に直接アクセスして理由を聞いてみたところ……」
旦那はそこで一度言葉を切り、灰皿にタバコを押し付けると、ゆっくりといくつかの『座標(地名)』を口にし始めた。
「ガサ入れ中止の命令を下した姫路のトップ(智規)はな、警察の全戦力を城だけに集めたんやない。手柄山中央公園、相坂トンネル、赤屋根ステーキハウス、菅生ダム、暮坂峠。……それから石切八社主神社、小赤壁展望台、広嶺山のバス屋敷、名古山トンネル、小畑隧道、青山古戦場跡、ジャスコ飾磨店、ホテルホワイトイン。……これらすべてのエリアに、警察の人間を細かく散りばめて、厳重なトラフィック(監視の目)を配置しとるらしいわ」
不気味なほど淡々と、淀みなく並べ立てられる姫路の地名ログ。
それをじっと聞いていた道満が、コートの袖をぎゅっと握りしめたまま、顔を青くして突っ込みを入れた。
「……ちょ、ちょっと待って瀬戸の親分さん。……それ、全部姫路で有名な『心霊スポット』やんか……!」
「――ッ!?」
道満のその指摘が脳内にプログラミングされた瞬間、俺と親父の思考回路は完全に冷え切った。
犯人の痕跡を消すためのあの『自殺の偽装ログ』。それを迅速に処理していた智規さん。それはただ城の事件を隠蔽するためなんかじゃねえ。警察の全リソースを動かして、姫路中の『霊的セクター(地脈の結節点)』を一斉にスキャンし、何かを組織的に探そうとしている、あるいはカモフラージュするための巨大な『誘導』だったんじゃないのか……?
「……やりたかないねー、ホンマによー。城の祭壇だけじゃなくて、姫路の心霊スポット全ドメインに警察をハッキング(配置)させてたなんて、笑えない大規模バグだわ……」
俺は冷や汗が背中を伝うのを感じながら、ポケットの中で五芒星のジッポを強く握りしめていた。




