第十九話:クローズド・ソース・見えない術者の残響
無機質な灰色に囲まれた警察署の取調室。夜まで続いた執拗な事情聴取のドメインからようやく解放された俺たちは、ロビーの片隅で深く椅子に身を沈めていた。
「......お疲れ、みんな。本当に、ひどい目に遭わせてしもて......」
雅さんが親友の手を握りしめながら、申し訳なさそうにログを吐き出す。
俺が疲労の限界を迎えた脳内でため息をついていると、廊下の奥から革靴の硬い音が響き、あの神経質な男がログインしてきた。
「――二人とも、もう帰っていいよ。体調に異常があれば、すぐに病院のログを取りなさい」
現れたのは、姫路の警察を束ねる叔父、源 智規だった。
先の事件でホテルに駆けつけて博雅を本気で心配していた時と同じ、眼鏡の奥の潔癖な瞳。智規さんは博雅の無事な姿を一度だけスキャンして安堵のパケットを隠すと、事務的なトーンで告げた。
「あの地下通路の件だが......県警本部とも通信プロトコルを同期した結果、ホテルの一件と同様、突発的な『自殺』として処理することになった。君たち掃除屋の出番はここまでだ。これ以上、この姫路のシステムを引っかき回さないでもらいたいね」
そう言い残し、智規さんは忙しなく現場の指揮へと戻っていった。
事件はあっけなくクローズ(幕引き)され、俺たちは夜の帳が下りた警察署の外へと放り出される。
「......なぁ、親父。一件落着の割には、なんか通信環境が悪ぃっていうか、電波が詰まってるような感じがすんねんけど」
駅へと向かう道すがら、俺はタバコに五芒星のジッポで火を点けながら、隣を歩く泰臣に地下空洞のログを同期(共有)した。
「地下のあの祭壇、自爆装置まで仕込んであったのにさ。俺たちがログインした時、術者のアクティブログどころか、人の気配すら一人分も残ってへんかった。最初から無人やったんや」
そのパケットを受け取った瞬間、それまで雅さんにデレデレしていた親父の足が、ピタリと止まった。
「......妙だな?」
街灯の明かりの下、泰臣がいつになく怪訝な顔で、顎に手を当てて思考の演算を始めた。
「術者も現場にいない。おまけにハッキングが失敗した時用に、神域ごと全てをデリートする自爆システムまで仕込んである、か......。なぁ晴明、そりゃあ相当入念に、システムから『自分の痕跡』を消去したい相手のやり口だぞ」
親父の「掃除屋」としての冷徹なプロット分析が、夜の冷気となって俺たちの肌を刺す。
「そこまで徹底して正体を隠蔽したがる敵が、この二つの『自殺』だけで本当にログアウトしたと思うか?」
泰臣のその言葉に、俺、道満、そして博雅の三人は、言葉を失って立ち尽くした。
地脈の祭壇は確かに騰蛇の炎で完全消去したはずだ。それなのに、俺たちの胸の奥には、正体の見えない巨大なバグがすぐ目の前の闇に潜んでいるような、なんとも言えない不気味な不安感情が、じわじわとこみ上げてきていた。




