第十八話:ホワイトアウト・ログ・未完のポリグラフ
地下空洞の崩落ノイズを背に、俺たちはぐったりとした二人の女性(雅の親友とその友達)を抱え、薄暗い『腹切丸』のバックドアから、一般観光客の行き交う地上へと滑り込んだ。
「……あ、晴明! 博雅! こっちや!」
天守閣への順路の途中で、表側の地脈を引っかき回して時間を稼いでくれていた親父と、不安げな表情の雅さんが俺たちの姿をスキャン(発見)して駆け寄ってきた。
「……嘘、二人とも生きてる……っ! 良かった……本当に良かった……!」
雅さんは涙を流して崩れ落ち、無事に意識を取り戻し始めた親友の体をきゅっと抱きしめた。その瞬間、彼女たちの命のステータスログが完全に正常値へと書き換わるのを、俺と道満は網膜の隅で確認して、ようやく安堵のパケットを吐き出した。
だが、安息の時間は一瞬でシャットダウンされる。
「……親父。タイムアタックは成功したけど、地下の通路に……四人のうちの二人目の男の遺体があったわ。ホテルの一人目と一ビットの狂いもない、同じ自殺の偽装ログや」
俺の報告に、泰臣はそれまでのデレデレした表情を消し、いつもの「掃除屋」の冷徹な目に戻って短く顎を引いた。
「……そうか。分かった。博雅、今すぐ警察へ緊急コールしろ。地下の『非公開エリア』に二人目の男の遺体があるとな」
博雅が「……分かった」と、硬い表情でスマートフォンを操作し、警察の通信プロトコルへと接続を始める。
その直後、遠くの『お菊井戸』のセクターから、かすかな氣の残響が届いた。
井戸の縁で、相変わらずケラケラと笑いながら、だけどどこか誇らしげに俺たちを見つめている大物幽霊――お菊さんの姿が、俺の全スキャンに引っかかる。
(……ホンマサンキューな、お菊さん。またね――)
俺は心の中でそうクエリを投げ、軽く手を振ってレジェンドとの接続を一時的にログアウト(切断)した。
一時間後、白鷺城の周辺は再びパトランプの赤色灯で塗りつぶされ、俺たち一行は警察車両へと詰め込まれた。
「……はぁ。やりたかないねー、ホンマに。夜まで事情聴取の無限ループ確定かよ。俺のライフログ、完全にエラー吐いとるわ」
警察署の取調室へと強制ログインさせられる直前、俺はポケットの中で五芒星のジッポを弄りながら、深くため息をついた。地下の祭壇は叩き潰した。しかし、ホテルの一人目と、この城の二人目……。この最悪な自殺偽装のパッチを当てた犯人の正体は、いまだに分厚い霧の奥に隠蔽されたままだ。




