第十六話:白鷺のデフラグ・同時同期のクエリ
太陰の解き放った五芒星の暴風が、地下空洞の闇を狂ったように引き裂く。ドクドクと脈動していた黒い回路図――ハッキング・パケットを突風が物理的に引きちぎり、敵の演算処理を強引に遮断していく。
「――ガガガ、ガッ……!」
どこか最深部のドメインでこのシステムを操作している『内側の敵』の、苛立ちのノイズが空間の歪みとなって伝わってきた。
「晴明、敵の同期処理が一瞬だけ乱れたわ! 今のうちに檻のハッキングを始めるで!」
「おう、道満! 右側は任せた。左側は俺が【一縷終焉】のトリガーごと書き換える!」
道満がコートの袖を翻し、右側の檻――雅さんの親友の女性が捕らえられている結界へとログインし、緻密な呪術コードを流し込み始める。俺も左側の檻へ走り寄り、「無色の氣」を極限まで練り上げて、友達の女の子を閉じ込める檻の防壁へと両手を突き立てた。
だがその時、祭壇のコアが真っ赤に発光し、俺たちのアクセスを拒絶する強力な防衛システム(セキュリティ・ウイルス)をレンダリングしやがった。
黒い泥のようなノイズの塊が、おびただしい数の刃となって、俺と道満の無防備な背中へと一斉に射出される。
「――当たるかよッ!!」
俺たちの前に滑り込んできたのは、黄金の氣の本領を発揮した博雅だ。
博雅が虚空に両手を構えると、その実直で苛烈な氣が凄まじい密度で凝縮され、まばゆい光を放つ一本の『弓』へとレンダリングされた。さらに弦を引き絞ると同時に、黄金の氣の『矢』が番えられる。
――ヒュ、パァンッ!!
放たれた氣の矢は、空間の黒い刃を正面から次々とブチ抜き、爆音と共にノイズを跡形もなく霧散させていく。間髪入れずに二の矢、三の矢が番えられ、敵の防衛プログラムを驚異的な速度で精密にスキャン(狙撃)して叩き潰していく。
「晴明、道満! 敵の術者が放つこのガードプログラムは、俺の矢が全部ここで撃ち落としたる! お前らは一パケットの狂いもなく、その女の子たちのログを引きずり戻せ!」
「博雅……! 助かる、そのまま数秒キープ(維持)してくれ!」
背中を博雅の弓に預け、俺と道満の視界(網膜)には、二人の女性の魂のリソースが削られていく最悪の進行度バーが映し出されていた。
二人同時に救わなければ、どちらか片方でも【一縷終焉】によってデリートされた瞬間に、すべてが『終焉』を迎える。
道満の術式と、俺の「無色の氣」。一ビットのズレも許されない、究極の同時同期が始まった。
「……合わせるで、晴明!」
「おう、カウントダウンをゼロで同期しろ……! ――リブート(起動)!!」




