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やりたかないのに陰陽師四  作者: 辻本 真悟
第三章:白鷺城ハッキングと十二天将タスクキル
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第十三話:白鷺の切腹丸・ディレイド・パケット

「……はぁ。やりたかないねー、ホンマによー。タイムアタックのスタートラインが『腹切丸はらきりまる』とか、どんな悪趣味なブート設定やねん」


 お菊井戸のセクターを離れた俺たちは、観光客の流れから外れ、城内の不気味なスポット――通称『腹切丸』と呼ばれる、薄暗い井戸曲輪いどくるわの影へと滑り込んだ。実際にはここで切腹が行われた記録はないらしいが、漂う霊気の歪みは一級品だ。


 俺は歩きながら、静かに指先で印を組んだ。


「――【太裳タイジョウ:認識阻害】」


 俺の「無色の氣」が太裳の術式を起動し、周囲の空間座標をわずかに書き換える。直後、楽しげに自撮り棒を掲げていた一般観光客たちの視線(観測ログ)から、俺、道満、博雅の三人の存在が完全にステルス(隠蔽)された。


「……消えたな。よし、ここから先が『非公開エリア』のバックドアや」

 博雅が木製の厳重な柵の奥、通常ならアク禁(立ち入り禁止)がかかっている暗い通路を睨みつける。


 一歩、その闇へ足を踏み入れた瞬間、俺の網膜が激しく点滅エラーした。

 歴史ある国宝の木造構造が、まるで劣化したテクスチャのようにドロドロと崩れ落ち、その奥から「真っ黒な回路図」のような光の線が不気味に剥き出しになっていく。


「……城の神域が、現在進行形で上書き(オーバーレイ)されとるわ。気ぃつけや、晴明、博雅。このドメイン、完全に敵のサーバーに同期されかけてる」

 道満がコートの袖から指先を覗かせ、術のノイズを警戒しながら周囲をスキャンする。


「……急ぐぞ。コードの進行度が『1』に達する前に、残りの三人を引きずり戻すんだわ」


 一方その頃。観光客の喧騒が響く、通常の順路メイン・ルート天守閣への階段。


「あ、見て泰臣さん! あそこの柱、なんか変な光の線が見える気がする……!」


 周囲を見回しながら、雅がそう声を上げた。

 普通の人間なら「気のせい」で片付ける微かな地脈の歪みを、彼女ははっきりと捉えている。キャバ嬢としてのテクスチャの高さだけじゃなく、この子、多少の霊感(スキャン能力)を持ち合わせていやがるらしい。


 不安げな彼女の隣で、親父は「お、どれどれ?」とデレデレした声を出しながら、鼻の下を伸ばして彼女の肩を抱き寄せた。


「ホンマやねぇ、雅ちゃん。じゃあ、この泰臣さんがちょっと『おまじない』パッチを当ててあげようじゃないか」


 泰臣は雅に見えない角度で、タバコを挟んだ右手の指先を素早く動かした。

 空間の虚空に、鋭い氣の残光で描かれる『六芒星ヘキサグラム』の呪術コード。


 パシッ、と空間が爆ぜるような微かな音が響く。

 親父が城内のあちこちにわざと刻み込んでいるのは、神域の地脈を一時的にバグらせる「遅延パッチ(綻び)」だった。


「――チッ。上書きの処理速度が、一瞬だけ数ミリ秒落ちたな」


 どこか遠く、城の最深部でハッキングを実行している『内側の敵』が、この不自然なシステム遅延タイムラグに舌打ちしているに違いない。


「……さぁて、雅ちゃん。次はあっちの絶景セクターへログインしに行こうか」


 大物の幽霊にもキャバ嬢にもモテ散らかすクソ親父は、夜の街と変わらない足取りで、敵のアクセスログを最悪な形で引っかき回し、俺たちのための時間を強引に稼ぎ続けていた。

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