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やりたかないのに陰陽師四  作者: 辻本 真悟
第三章:白鷺城ハッキングと十二天将タスクキル
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第十二話:白鷺のハッキング

「……あれはね、城の最深部にある、通常の設定じゃアクセスできない『国内産の古い禁忌(地脈)』を強引に上書きしてこじ開けようとしているノイズさ」


 俺のクエリに対し、お菊さんは井戸の縁に腰掛けたまま、ケラケラとした笑いを消して淡々とログを吐き出した。その瞳の奥には、何百年もこのドメインを見守ってきた古参のバグらしい、冷徹な光がレンダリングされている。


「……古い禁忌、ね。やっぱり、ただの心霊スポットの噂じゃ済まんよなー」


 俺が昨夜の死体から見つけた、あの『9-9-9-1』と書かれた汚れたメモをお菊さんに提示すると、彼女の顔が一瞬だけ曇った。


「笑えないねぇ、あんた。その数列はね、城の防壁を強制解読するためのハッキングの進行度ステータスを示すエラーコードだよ。……このハッキングを成立させるには、地脈の中継機プロキシとして、生きた人間の生体データ……つまり魂を贄にする必要があるのさ。全部で四人分、ね」


 その言葉に、横にいた道満が「四人……ッ」と息を呑んだ。

 ホテルの隣室(六一〇号室)で、すでに一人が抜けデリートにされていた。ということは、雅さんの親友を含む残りの三人の生存者も、今この瞬間、城のどこかで現在進行形で魂をスクレイピング(抽出)されている最中ということだ。


「コードの進行度が最後の『1』に達した時、城の神域は完全に掠奪されて、残りの三人のログも完全に消去デリートされちまう。……急いだ方がいいよ、若いの。敵は、観光客の観測ログからは隔離された『非公開エリア』の奥に潜んでる」


「――タイムアタックか。……そっちのデバッグは晴明、お前らに任せた。俺は表側から揺さぶりをかけて、敵のアクセスログを引っかき回してみるわ」


 それまで黙ってタバコの煙を吐き出していた親父が、不敵に笑って雅さんの肩を抱き寄せた。踵を返し、人混みの方へと悠然と歩き出すその背中に向かって、井戸の上のレジェンド幽霊が幽かに息を漏らす。


「……やれやれ、変わらないねぇ……」


 ぽつりと、寂しそうに、だけど愛おしそうに呟かれたお菊さんの声。

 俺はそのログを網膜の隅で観測しながら、心底呆れて深いため息をついた。


 人間であるキャバ嬢の雅さんをデレデレにさせ、日本三大怪談に数えられる大物の幽霊(お菊さん)にまで何十年もそんな熱い未練(残響)を残させている。おまけに家に帰れば、日本中を敵に回した大妖怪(九尾の狐)が妻として待っている。


 ……なぁ、あんたならどう思う?

 人間にも妖にも、果ては歴史上の幽霊にまで全方位でモテ散らかすクソ親父。あの年齢でまだそんな「全ドメイン対応型」のタラシパッチを維持してんの、マジで意味が分からねーよ。


「……やりたかないねー、ホンマによー。親父のバグったモテ属性に引いてる暇すらねー時間制限イベントかよ……。行くぞ、博雅、道満。これ以上、誰の命もバグの素材にはさせねーんだわ」


 俺は「無色の氣」を両足の術式へと流し込み、お菊さんが指差した白鷺城の闇の奥、非公開エリアへと一歩を踏み出した。

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