表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/13

それでも、進む

 朝、目が覚める。

 いつも通りの部屋。

 何も変わらない。

 起き上がる。

 体は軽い。

 あの重さは、もうない。

 代わりにあるのは、空白だけだ。


 机の上の義手を見る。

 少しだけ視線を止める。

 それから、手に取る。

 装着する。

 接続の感覚が広がる。

 動く。

 問題なく。

 これはもう、戦うためのものではない。

 その必要はない。


「……」

 何のために使うのか。

 考える。

 すぐには出ない。

 でも、それでいい気がした。


 立ち上がる。

 部屋を出る。

 廊下は静かだった。

 足音だけが響く。


 外に出る。

 朝の空気が、少し冷たい。

 息を吸う。

 ちゃんと入る。

 吐く。

 ちゃんと出る。


 通りに出る。

 人がいる。声がある。

 いつもと同じ光景。

 それでも、見え方が違う。

 立ち止まらない。

 気づけば、足は止まっていなかった。

 理由は分からない。

 それでも、進んでいる。

 それでいい。


「よう」

 声がかかる。

 振り返る。

 カイルがいる。

 いつもの顔。

 変わらない。

「……お前か」

「他に誰がいるんだよ」

 軽く言う。

 少しだけ間があく。

 沈黙。

 でも、気まずくはない。

「どこ行くんだ」

「……分からない」

 正直に答える。

 カイルは少しだけ笑う。

「いいじゃん」

 それだけ。

「適当に歩いてりゃ、どっかには着くだろ」

 軽い言葉。

 それでも、どこか納得できた。

「……そうか」

 小さく頷く。


 並んで歩き出す。

 自然に、同じ方向へ。

 しばらく進む。

 通りは賑わっている。

 人の声。笑い声。

 変わらない日常。

 その中にいる。

 ただ、それだけ。


「腹減った」

 カイルが言う。

「何か食うか」

「……ああ」

 屋台の前で足を止める。

 並んだ料理を見る。

 少し考える。

 前なら、迷うことはなかった。

 今は違う。

「……これにする」

 指差したのは、蜜を絡めた焼き菓子だった。

 甘い匂いがする。

 カイルが一瞬だけ目を細める。

「へぇ。意外だな」

「そうか」

「もっと無難なの選ぶかと思ってた」

 軽く言う。

 少しだけ考える。

 それから。

「……つまらないだろ、それは」

 小さく返す。

 カイルが一瞬だけ黙って、それから笑う。

「言うようになったじゃん」

 受け取る。

 温かい。

 一口食べる。

 甘い。

 ちゃんと分かる。


 また歩く。

 人の中を。

 視線はある。

 それでも、止まらない。

 フードもない。

 それでも、大丈夫だった。


「なあ」

 カイルが言う。

「これからどうすんの」

 問い。

 前と同じ。

 でも、違う。

「……分からない」

 答える。

 それでも、続ける。

「探す」

 自然に出た言葉だった。

 カイルは小さく笑う。

「いいじゃん」


 風が吹く。

 空を見上げる。

 何もない。

 広いだけの空。

 それでも、目を逸らさない。


 意味は、まだない。

 理由も、ない。

 でも。

 生きている。

 それだけは、確かだった。


「……なあ」

「なんだ」

「暇ならさ」

 ほんの一瞬だけ、言葉が止まる。

「俺のとこ来るか?」

 義手の方を見る。

「調整、最後まで面倒見るよ」

 軽い調子。

 それでも、どこかだけ違う。

「……そうだな」

 少しだけ考える。

 ほんのわずかに間を置いて、

「行く」

 カイルは満足そうに笑う。

「決まりな」

 軽く言う。

 それで終わり。


 特別なことはない。

 何も完成していない。

 それでも。

 歩く。

 並んで。

 止まらずに。


 意味は、あとからついてくる。


 多分。


 ――それでいい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ