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残ったもの

「魔王が討伐された」

 その一言で終わった。

 それ以上の説明はなかった。

「……そうか」

 それだけ返す。


 使いの男は何も言わずに去る。

 扉が閉まる。

 静かになる。

 何も変わらない。

 ただ――もう必要ないという事実だけが残る。


「聞いたか」

 カイルが入ってくる。

「……ああ」

「終わったな」

 軽く言う。

「……終わった」

 繰り返す。

 言葉は軽い。

 現実の方が、重い。


「何もしていないな」

 ぽつりと漏れる。

 自分でも違うと分かっている。

 それでも、そうとしか言えなかった。

「してるだろ」

 カイルは即答する。

「全部やってきただろ」

「結果がない」

 短く返す。

「……私がやったことは、何も残っていない」

 カイルは少しだけ黙る。


 それから、小さく息を吐いた。

「残ってるだろ」

 あっさり言う。

「……何がだ」

 視線を向ける。

 カイルは少しだけ首を傾けた。

「覚えてねぇのか」

 その言葉に、わずかに引っかかる。

「……何をだ」

「前に言っただろ」

 一歩、近づく。

「会ったことあるって」

 そこで、時間が止まる。


「……森で」

 その言葉で、断片が繋がる。

 木々。魔物。倒れていた人影。

 助けて、それで終わった、ただの一つの出来事。

「……あの時の」

 口が、勝手に動く。

 カイルは少しだけ笑った。

「やっとか」

 軽く言う。

 それだけなのに。

 胸の奥が、わずかに揺れる。


「……覚えていなかった」

 静かに言う。

 事実として。

 カイルは肩をすくめる。

「だろうな」

「お前にとっては、そんなもんだ」

 否定しない。

 できない。

「……だが」

 言葉が続く。

 止まらない。

「それで、何が残った」

 本当に分からない。

 カイルは少しだけ考えて、それから言う。

 間があった。

「俺だよ」

 あっさりと。

「……」

 言葉が出ない。

「助けられて、生きて」

「それで今、ここにいる」

 自分の胸を軽く叩く。

「それで十分だろ」

 軽い言い方。

 でも、軽くない。


「……私は」

 声がかすれる。

「覚えてすらいない」

「関係ねぇよ」

 即答だった。

「こっちは覚えてる」

 それだけ。

 それだけで、成立しているみたいに。

「……」

 何も言えない。

 否定もできない。

 肯定もできない。

 ただ、何かが少しずつずれていく。

「残ってるだろ」

 カイルが繰り返す。

「ちゃんと」


 その言葉が、胸の奥に落ちる。

 重くもなく、軽くもなく。

 ただ、そこにある。

 何もないと思っていた場所に。


「……そうか」

 小さく呟く。

 初めて、違う意味で。

 完全に空っぽではない。

 ――そう思った。

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