第20話:「止まる刃」
夜の王都は、昼より危うい。
怒りは声を上げるが、
恐怖は刃を持つ。
路地裏。
灰燼の灯の若者が、治癒士を壁に追い詰めている。
「兄は削れた!」
治癒士は震えている。
刃が振り上がる。
間に合う。
銀が走る。
シオン。
距離は十分。
首を落とせる。
最短軌道。
――刃が、沈む。
軌道がわずかに変わる。
閃光。
若者の腕を裂く。
深い。
だが命には届かない。
同時に、若者の短剣がシオンの脇腹を掠める。
血が滲む。
表情は動かない。
若者は崩れる。
武器が石畳を鳴らす。
静寂。
「退け」
低い声。
それだけで人は散る。
誰も死んでいない。
血は、シオンの方が多い。
⸻
少し離れた場所。
カイルは見ていた。
斬れた。
確実に。
だが、斬らなかった。
選んだ。
⸻
宿。
レオンが傷を縫う。
「深いな」
「問題ない」
カイルが言う。
「……届いてたよな」
「届いた」
「なのに」
間。
シオンは視線を上げない。
「斬らずに済んだ」
それだけ。
カイルは何も返さない。
ただ、息を吐く。
理解している。
昨日までなら、斬っていた。
自分がいなくても。
今日は違う。
「……ありがとう」
小さな声。
シオンは答えない。
だが、呼吸がわずかに深くなる。
夜は静かだ。
怪物は吠えない。
だが刃は止まった。
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