決着、全ては宿の主の意のままに
「こんなのぶつかったらどっちも死んじゃうじゃないか。駄目だよこんなの、やり過ぎだ」
閃光が収まった時に立っているのはルームだった、何時の間に割り込んだかは定かではないがヒュープもウォーカーも意識を失って倒れ伏している。1つだけ言えるのは両者の最大攻撃をまともに食らってルームがびくともしていないということである。
「どっちも気絶してるから引き分けだね」
今のルームは明らかにおかしい。何がおかしいか、それはもう1目で分かる。大輪の薔薇が左目に咲き、周囲に鬼火を纏い、蜂の羽を生やしているのだ。見れば髪も少しばかり白金色になっている。
「参ったなー、全部引き分けなんてなー」
棒読みで言い放つルームの目は全力で泳ぎまくっている。そうしているうちに薔薇が散り、鬼火が消え、蜂の羽がなくなった。しかし、この間ロサ・ロサやヨツヤ、スィンと融合しているわけではない。しっかりと苗床亭のメンバーが残ったままである。他の全員が初めて見る姿に呆気にとられているのを良いことにルームは話を進めていく。
「そうだ、これならいっそどっちの要求も通せばいいんじゃないかなー? 勇者部隊の皆はここに来てもよくなるし、何かあったらお願いを聞いてもらうってことで。うんうん、そうしよう!! それがいい!! それでいいよね!!」
強引にも程がある進め方であるが、それを止める者が居なければこれが決定事項となる。しかも魔女が見ている前の契約だ、履行されることは確定と言っていい。
「じゃあ、みんな疲れてると思うから今日は泊まっていってよ」
超高速で締められた事でなんとなく釈然としないまま勇者部隊の皆が従って苗床亭に入っていく。疲れているのは真実であった、それ以上に今のルームの言葉に逆らう気はなんとなく起きなかったのである。
「ぶはぁ……しんどいなぁ」
そしてルームが膝をつく、疲労困憊であることを隠すこともできないほどに消耗していた。
「あんなのやるものじゃないな、ほんと」
ルームの持つ禁忌スキル【寄生】は自分に寄生させるスキルである。誰かに寄生するスキルではない為に、あらゆるものに寄生して支配するという悪逆非道かつ強力無比な行為を行うことはできない。だが、寄生させているということは一部とはいえ身体が寄生させているものになるということである。極短時間であればそれを無理矢理引き出すことも可能なのである。つまり、一瞬であればルームは文字通り苗床亭全員分の戦力を持つことができるということになる。
「がはっ」
その代償は、著しい肉体の傷みである。筋肉が崩壊し、内臓に深刻な被害がある。もともと無いものを使っている反動は凄まじい。
「あなただけの身体じゃないことは知ってるでしょう、治すのにも限界があるのよ」
「ごめん、ヴァンシイ」
肉体に共生しているヴァンシイだけはこの能力のことを正しく理解していた。ルームにも気づけない身体の変質、ダメージを何も言わずに補填していく。もしヴァンシイがいなければ、この能力を3度使用した段階でルームは死ぬだろう。それを吐血程度に済ませているのはひとえにヴァンシイのおかげだと言える。
「ルー、2度とそれやらないで」
「旦那さん。ろうそくを吹き消すような真似をしないでくださいまし」
「そなたの身を削るために余は居るわけではないぞ」
いつになく真剣な表情で苗床亭のメンバーがルームを囲んでいる、スィンは肉体から出る死のフェロモンで、ヨツヤは死相で、ロサ・ロサはこっそり付けている種子からの情報で、ルームの身体のことを理解していた。そしてその共通認識は「この形態になるとルーム著しく死に近づく」ということである。
「はは、一応聞くけど。なんで?」
怒られるだろうということを分かっていた、命を削るようなことをするなと言われていることは分かっていた、それでも聞きたかった、自分が皆に心配されるような存在であるというのを確認したかったのだ。それは傲慢であったかもしれない、それは強欲であったかもしれない、それは嫉妬であったかもしれない、それは暴食であったかもしれない、それは色欲であったかもしれない、それは憤怒であったかもしれない、それは怠惰であったかもしれない、それとも寂しさだったかもしれない。
「僕の身体の心配なら大丈夫、ちゃんと皆のご飯になれるから」
わざと選んだ言葉だった。このタイミングで最も言ってはいけない言葉であることは分かっている。それでも出てしまった。何故かは分からない、試し行動じみたこの発言がなぜ今に、なぜここで、出てしまったのかはルーム自身も分からない。だが、今、ここで、出てしまったのだ。
「違うよ、ルーを心配してるの。ご飯の心配なんてしてないよ」
「旦那さん。偶には甘えても良いんでありんすよ。ここに来るのはほとんどが人外魔境、少しでも弱みを見せたら取って食われるかもしれやせんが。少なくとも私達は旦那さんを甘やかす準備はできてるでありんす」
「余に縋ることも許そう。何を恥じることもないのだ。そなたは余達の大事な存在であることは未来永劫揺らがないのだ」
言葉の1つ1つがルームに浸透していく、そこでルームが張っていたものが切れた。積み重ねてきた何かが一気に襲いかかりルームの意識が切れかかる。
「は、はは、みんな、優しいなあ、これからはもうちょっとだけ、頼ることにするよ……」
それだけ言うとルームもまた倒れ伏した。
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