砂の上の城、砂上と言えど堅牢なれば
「これかぁ……」
ルームの目の前には巨大な建造物、それは人の作る城ではない。砂を分泌物で固めて掘り進め、そして積み上げていく。そうしてできた格子状の物体。それはまさしく砦とも言える規模の巣であった。アンサが言うにはサソリ魔物の討伐との事だったが、サソリがこのようなものを作りあげるわけはない。これはアリの仕業であるとルームは見当をつけた。
「この規模のアリとなると相当まずいことになってるね、捕まったとしても逆にすぐ殺されるってこともないだろうけど」
統率ができていなければここまでの大きさの巣はできない、統率がとれているということは知能の高い個体がいるということである。人間の捕虜を最も有効に使う方法は殺害ではないことにも当然気づいている可能性があるのだ。
「え、待って。アリじゃない」
目の前の巣の一部が突如として破壊される、そこから見えるのはサソリの尾。大きさも異常だが、本数もまた異常である。少なくとも8本の尾が同時に巣から突きだしていた。アリの巣の中にサソリ型の特徴を持った何かがいることは確実である。
「マンティコア、オリオン・スコーピオン、アンタレス、どれかかもしれないし。どれとも違うかもしれない」
いずれもがサソリの特徴を持つ魔物の名である、地下図書館の蔵書に書いてあったものであるが一瞬の観察で分かるほどルームの観察眼は磨かれてはいなかった。だが、はっきりとしたことが1つある。
「悠長に構えて居られなくなった。あれは知能よりも本能の方が強い感じがする、容赦なく殺しにくる」
砂を踏みしめて跳躍しようとするがヴァンシイのいない今は思った通りに跳ぶことはできなかった。すぐさま考え方を切り替えて今使えるスキルを使用する。
「移動するときはこうだね」
空間を切り取って生成される扉、それを蹴って巣の砦へと向かう。砂の上を走るよりも随分早くたどり着くことができた。
「ここに居るんだろうけど、どこに居るかは分からない。それに、サソリと正面から戦うのは避けたいよね。でも時間もない、まずは動くしかないか」
ルームにとって入り口というものは必要ない、正面に壁があるのならそこを扉にしてしまえば良い。空間を作らなければそれはただの扉なのだからそのまま通ることができる。もしも話ではあるが、ルームが本気で盗賊稼業に手を染めたなら止めることができる者はあまりいない。
「救援を求めたってことはどこかで隠れてるか、もしくは戦闘を長引かせて持久戦を行ってるかのどっちかかな」
ルームの頭の中で2つの選択肢が出現する。1つ目はこのまま闇雲に探し回って運良く見つけるのを祈る。もう1つはあえてサソリの方へと向かって戦闘をしているかどうかを確かめるというものである。決断はすぐだった。
「見つからないようにサソリの方行こうか」
まず分かりやすい方から潰すという方針だった。しかし、ここは元々アリの砦である。侵入者に対する反応は当然迎撃となる。
「うわっ!? びっくりした!? 上も下も横も関係なしか」
どこかの横穴から出てきたのであろう大人ほどのサイズのアリが音もなく忍び寄っていた。間一髪で噛みつき攻撃を躱す。そのままアリの足場を扉に変え、白い部屋へと送り込んだ。
「消えて」
扉を閉めて空間を消す。アリを数秒で処理したことにルーム自身も驚く。以前はここまで素早い対応などできなかったのである。今までヴァンシイと共生状態、苗床亭での生活・依頼の繰り返し等で思った以上に鍛えられていたのだった。
「はは、思ったよりやるじゃん僕」
そう言った矢先に四方八方からアリが湧き出して来る、戦闘行為を行う前に仲間を呼んでいたのだろう。囲まれてしまった状況でもルームは冷静だった。
「この分だったらできるかな」
ルームがアリを消すために必要な手順は3つ、まず扉と空間を作る、そしてアリをその中にたたき込む、最後に消す。これを繰り替えす必要がある。だが、扉の大きさは可変である。
「まとめていっちゃおう」
ルームの周囲が全て扉と化す、厳密にはルームの立っている一点を除いて扉となる。一気に開くことで大量のアリを部屋に送り込むことに成功した。
「はい終わり」
そして、空間が消える。このような使い方をルームは今まで考えたこともなかった。扉の形や位置の固定概念が邪魔をしていたのだが、人間離れした存在や人外との触れあいによって常識のタガが緩みまくった結果として可能になった芸当だ。
「さてと、こっちだね」
サソリの尾が見えた方向に向かったまっすぐに進んでいく、壁も通路も関係ない。扉にしてしまえば開くのだ。
「そうだ、こういう形にしたら良いんじゃないかな?」
扉の形が変わり、襖のような戸となる。一気に両断するような形でサソリまでの最短ルートが開いた。ここまでで【部屋作り】のスキル練度が馬鹿げたスピードで上がっていることにルームは気づいていない。次々と派生能力を開花させているのだが、できそうだと思ったらできた程度にしか認識していなかった。
「さあ行くぞ」
謎のサソリとの邂逅まで、あと数歩。金属どうしがぶつかるような音が聞こえてきている。
「打ち合ってるのかな? それならまだ戦闘中みたいだね」
だが、その先の光景は予想していたものではなかった。
「え?」
正面にいるのは巨大なサソリの化物ではあった、だが、それはただの乗り物であった。その上に乗っている人型が問題だったのだ。
「なんで、こんなところに」
包帯と黄金の装身具、そして権威を示す王杖、傍らには荘厳な棺。
「ファラオ級のマミーなんて個人で相手にするものじゃない、国家戦力で潰す相手じゃないか」
マミーとはアンデッドの一種であるが、生前の身分によってその強さが大きく変わる。平民程度ならただの雑魚だが最上級のマミーであるファラオともなるとそれはもう国家規模の戦力が必要になる。少なくとも個人で相手取ることはできない化物である。
「くそ、早くしないと」
ファラオの正面には戦闘態勢のかつての仲間、既にボロボロであり立っているのもやっとであった。
「考えろ、見つかったら逃げられない。上手く注意をそらさないと」
ルームの頭が全力で回転し、ファラオから逃げおおせる方法を探し出す。
「いけるか……いや、やるしかない」




