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砂漠へ

「うん、準備はもうほとんど終わってるからもう行っていいよ。砂漠までは長足で送るけどそこから先は自分の力でやってもらう事になる。できれば聖遺物の1つでも貸してあげたいところだけど君は部外者だからね、送り迎えが限界なんだ」

「分かりました、一刻を争う事態ですから送っていただけるだけで十分です。アンケさんは苗床亭のみんなに僕がしばらく帰らないことを伝えてください。これはみんなには本当に申し訳ないことだし、僕のワガママだから戻って来たら埋め合わせをすると」

「良いのかい? そんなこと言ったら連中がどうなるかは想像がつくだろう? なんなら協力を求めた方が収まりが良いと思うけどねえ。あたしだって手伝うよ」

「これは僕の問題です、だから巻き込むのは違うんです。ヴァンシイを連れて行っちゃうのも本当は止めたいけど、僕から離れられないから」

「……持っていこうと思えば持って行けるけどね」

「本当ですか!?」


 ずるりとヴァンシイが姿を表す、その顔は見ることができなかったが怒りとも悲しみとも思える雰囲気を発していた。


「宿主から離れて、私が生きていけると思う? 私はもうあなたのものよ。そしてあなたは私のもの。でも今回はそのお願いを聞いてあげる。だから、絶対に死んじゃダメよ。戦える力はあっても、あなたは酷くか弱いんだから」

「ありがとうヴァンシイ、戻って来たらまた一緒になろう」

「ふふ、当たり前じゃない」

「話がついたなら分離させるよ、まったく目の前でイチャイチャしくさってからに。PURGE」


 アンケの手がルームの中に差し込まれる、そして何かを掴むと一気に引き抜いた。


「うっ!?」


 黒い塊のようなものはルームの中にあったヴァンシイの核となる部分、本来ならば引き離せないレベルで融合しているものだ。だが、アンケの手にかかればその融合を一時的に離すことが可能である。


「はぁっ……はぁっ……これはこれで久しぶりな感じだ」


 ここでルームの意思を察したロサ・ロサがルームから離れる。


「ロサ・ロサ、ありがとう」


 少しだけ頷くような仕草をするロサ・ロサ。


「埋め合わせはちゃんとするから」


 ヴァンシイとロサ・ロサが離れることでルームの身体に変化が訪れる。【寄生】の共生状態にある存在が居なくなったことでルームの中の容量に空きが生まれた。【寄生】以外のスキル使用が不可能になるほどの圧迫がなくなったのだ。それはつまり、ルーム本来のスキルが使用できるということになる。


「久しぶりに使うけど大丈夫かな、勘を忘れてなければ良いんだけど」


 ルームの手が四角を形作る。


「すぅ……はぁ……【部屋作り】」


 空間を切り取るようにルームの目の前に扉が現われる、景色を写真のように写している扉であるが開いたところで何もない、先の光景が見えるだけである。しかし、【部屋作り】の真骨頂はここからである。


「これくらいかな?」


 ガチリ、鍵がかかるような音がする。それはまさしく扉からした音である。


「ちゃんとできてるかな」


 先ほどまで先には何もなかった筈の扉を開くと、そこは真っ白な空間が広がっていた。これこそが【部屋作り】の力、扉とその先の空間の生成が可能なのである。1度に作れる空間は1つ、大きさの制限もある。しかし、扉の数は2つまで生成可能、維持できる時間は体調にもよるが今までの最長で1月。扉を消すことはできない、そのうえ1度に開く扉は1つである。


「うん、いけそう」


 以前のルームの役割は移動倉庫、もしくは緊急避難所係であった。実は戦闘には加われない非戦闘スキル、というわけでもない。空間の生成と消滅はルームの思いのままであり、そして空間の消滅時に部屋の中にあるものがどこに行くかはルームも分からない。少なくとも2度と同じ空間を作ることはできないことは確実である。一緒に消滅しているのかもしれないし、絶対に出られない牢獄と化すのかもしれない。なんにせよ扉から入れる大きさのものであればルームは即戦闘から離脱させることができるのだ。


「はぁー、面白いスキルだね。それがあったら旅は相当楽だろうねえ」

「ええまあ、便利ではあったと思いますよ。重量に関しては不問ですし、体積以外の制限もほぼないので人の輸送にも使えます」


 1度だけではあるが、盗賊団を一網打尽にするために兵士をぎゅうぎゅうに詰め込んで移動したこともある。その際は領主に是非とも仕えてくれないかと打診されたほどであるが、万が一消えた際を考えるとルームは2度とやりたくないと思っていた。知らない多くの命を掌の上に乗せる感覚は心地よいものではないと感じていたのだ。


「使えますね、じゃあ大丈夫です。送ってください」

「うん、幸運を祈っているよ。これも持っていって」


 アンサが投げたのはガラス玉であった、ただのガラス玉ではなく中に何かが渦巻いている。


「これを砕けばここまでの道が開ける、帰るときにはこれを使って」

「分かりました、ありがとうございます」


 ルームの目の前にひび割れた空間が生成される、その先は砂漠である。


「行ってきます」

「ああ、幸運を祈るよ」


 ルームの足が砂を踏んだ。

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