背後にはお気をつけ
ルームが行動を起こそうとした瞬間である、ファラオ・マミーの足元から砂漠ではあり得ないものが出現した。
「あれって」
どう見てもロサ・ロサの茨である。茨はすぐさまサソリを拘束しファラオ・マミーへと襲いかかる。その茨をこともなげに杖で打ち払うが、茨の攻撃は囮であった。
「やぁああああああああ!!」
いつのまにか上空で高速回転していたスィンがファラオ・マミーの脳天目掛けてカカト落としを炸裂させた。
「スィンまで!?」
連続攻撃はまだ続いていた、カカト落としで少しぐらついた身体を断ち斬るべくヨツヤが大太刀を抜いている。
「郭流・戯れ牡丹」
同じ場所に寸分違わず斬撃を重ねていく、ふらつきながら受けているファラオ・マミーの杖がとうとう斬り落とされた。
「出番だねえ」
「うう……なんで宿主以外の奴にくっつかないといけないのか」
「文句を言うんじゃないよ、魔力を吸い上げな。合体技といこうじゃないか」
「はぁ、一発で終わらせるわ」
「もちろんさ。UNISON・BOMB」
一瞬の発光、そしてすぐさま衝撃波が周囲を襲う。
「うわっ!?」
吹き荒れた風が収まるとそこにはもうサソリのファラオ・マミーの存在せず。ただ爆心地のみがその攻撃の威力を物語っていた。
「何かされる前に一気に倒しちゃった……」
ファラオ・マミーは決して弱い相手ではない。いかに苗床亭のメンバーと言えど圧勝することは難しい。それどころかサシでやりあえば負けることもあり得る相手である。しかし、奇襲で作った一度の隙で殺しきったことで呆気ない幕引きとなった。
「っ!? 巻き込まれてたらまずい!?」
元仲間の方を向くとヒュープがぷかぷかと浮きながらあくびをしている。半透明の壁のようなもので守られていることでダメージは受けていないようだった。そのかわり全員眠らされていたが。
「まっずいなぁ、味が薄い、量もない、さいあくぅ、おやつにもならないよぉ」
酷く不機嫌な顔をして文句を垂れているが、ルームの元仲間に危害が及ばないようにしてくれているようである。ルームがほっと胸をなでおろすタイミングでルームとヒュープの目がばっちりと合う。
「あ、みんなぁ!! 撤退!! バレた!!」
苗床亭メンバーが一瞬だけ身体を強ばらせた後に全速力でこの場から離脱した。理由の分からない仲間の行動に酷く混乱したがルームは今の目的を達成することを優先した。なにより、最速で逃げた苗床亭の面々に追いつくことなどできはしない。万が一、今ここでまたルームが傷つくようなことがあれば倍の速度で戻ってくるだろうが。
「僕のワガママだからって言ったのになあ」
結果として安全に元仲間を助けられることに変わりはないのでなんとなくもやもやしながら歩く、さっきの攻撃の余波でここに近づくアリもいない。すぐに元仲間を部屋へと収納する。本当ならここからファラオ・マミーから逃げるという最大の難関があったのだが、それがスキップされたので非常にスムーズである。
「ま、いっか。後で聞けば」
ガラス玉を足で踏み砕く、するとすぐに空間がひび割れた。
「なんか、あっさりだったな。できれば一言くらい話をしたかったんだけど、ヒュープに眠らされたならそう簡単には起きないだろうし。それに、今更何を話すんだって感じもあるしね」
1握りの安心と1匙のわだかまり、1つまみの後悔が胸の中でぐるぐると混ざっていく、それをすぐに飲み込んでルームは前を向く。そこにはさっき出てきた部屋があった。
「お? 早かったね」
アンサが笑う、嫌らしく笑うその表情はとても魔女らしい。
「僕が行った後に何か言いましたか?」
「なんにも」
「あそこにはファラオ・マミーが居ました。確かに手に負えない相手です、それをあなたは知っていましたね。そして、僕が行った後にアンケさんに伝えた。違いますか?」
「うふふふふふふ……想像力が豊かだねえ。そんな証拠はどこにもない、君はただいつもと同じように仲間に助けられただけの話さ。今も、昔もね」
ルームの眉がひそめられる、今は良い。確かにずっと助けられている。助けられ続けて今のルームがある。しかし、昔とはなんだと頭のなかで繰り返される。昔、仲間に助けられたことも確かにある。だが、最終的には決別したはずなのだ。
「折角だから教えてあげるよ、第3隊唯一の戦死者君」
「せん、し、しゃ? 僕は現にこうして生きています」
「違う、違う、違うんだよルーム君。君は救われたのさ、まあ稚拙ではあったけどね。禁忌スキル持ちが隊に出たときに取れる行動は2つ。1つ目は上に報告する、2つ目は隠す。上に報告したならまあ分かるだろう? 処分されるか実験体さ。じゃあ隠したらどうなる? 下手すれば隊が全部まとめて反逆扱いで殺されるのさ。君の隊に居た神官はスキルの鑑定ができたからね、君が気づく前に【寄生】が芽生えたのを知っていたのだろうね」
「な、何を言って」
ルームが想像もしていなかった情報が次々と押し寄せる、情報の処理を頭が拒んでいる。目の前の魔女が何を言っているのか理解することができない。だが、嘘だと断ずることもまたできない。なぜなら目の前の存在は教戒の幹部、情報を握っていてもおかしくないのだ。
「何って、真実さ。続きを言うとね、追放して装備を壊して君は死んだことにされた。でも君の元仲間は君がそこら辺で死んでいるとは思っていなかったみたいだよ。君の【部屋作り】と君自身を相当信頼していたのだろうねえ。私が少しカマをかけたら必死で隠そうとするんだ、戯れに君に手出しされないように便宜を図ると提案したら大層喜んでね。私の直属部隊にさせてもらったんだ」
「え、あ、は?」
「便宜を図ると言っても、情報を共有してこの禁忌スキル持ちはコントロール下にあるから手出し無用。危険もなければ能も無い。捨て置けと言ってあるだけだけどね。案の定君は目立たないようにしてくれてたし、苗床亭もまあ許容範囲内だから良いんだ」
「なんで、今それを僕に言うんですか」
「え? お礼だけど。お姉ちゃんとまた会わせてくれたし、それにそろそろ個人的に動かせる兵隊がもう少し欲しいと思ってね」
「っ!? 従えと言うつもりですか」
「言わないよ、定期的に依頼をするから受けてくれたら嬉しいなって思っただけだよ。後言っておくと、第3隊がどこに行くかは私のさじ加減だってことも覚えておいて欲しいな」
「……分かり、ました」
今のルームの内面は吹き荒れる激情を抑えるので精一杯だった、少しでも早くこの場所から居なくなりたかった。
「うん、それじゃあ第3隊をここに置いていって欲しいな。治療とかそういうのはやっておくからさ、帰って良いよ」
勝ち誇った顔でアンサが空間にひびを作る、行き先は苗床亭のようだった。言われたとおり元仲間を部屋から出した後。ルームはもう一度アンサの方を見た。そして、その背後を見て少しだけ笑った。
「なにか面白い事でも」
「後ろを見た方が良いかもしれません」
「後ろ? 何も……な……い……」
さっきまでは、確かにアンサはルームの優位に立っていた。完全にルームを手玉に取って勝利者として振る舞っていた。そう、さっきまでは。
「な、なんで居るの? お姉ちゃん」
「んー? 空間移動ってのは気づかれないようにやるもんだと教えようかと思ってね。それ以前に、ここの会話ってあたしに筒抜けなんだけど盗聴されてるのは気づかなかったかい?」
「あ、ははは」
アンサの顔にダラダラと汗が垂れる。思いっきり悪どい交渉をしている場面を、絶対に見られてはいけない姉に見られたことで頭の中が真っ白になっていた。
「懲りないねえ、で? 続けな」
「え、えっと。これから、よろしくお願いしますルームさん!! 対等な!! 協力関係として!!」
「いや、とことんアンケさんに弱いですね」
「だってお姉ちゃん大好きなんだもん……!! 嫌われたくないんだもん!!」
「ふふ、あたしも好きだよアンサ。悪役はほどほどにね、お姉ちゃんとの約束さ。その代わりに暇だったらウチに来ても良いし、あたしだってたまには顔を見せるさ」
「やったー!!」
さっきまでの魔女らしさはどこへやら、今は幼い子どものように喜びを爆発させていた。その後、本当にアンサはアンケの店に顔を見せるようになったのだった。




