到着、即エンカウント
「ここです」
「ずいぶん山奥にあるもんだねえ」
ウィズダムに連れられて到着した場所は山深い場所にあるひっそりとした村であった。知っていなければこんな場所に村があるとはとても思わないだろう。逆に言えばこんな場所に来るような者は知っていて来ている者が大半であるということになる。
「悪魔の気配は、あんまりしないねえ」
「息を潜めているのでしょう、変に気取られると困るのかも」
ここでルームの意識が戻った、動きが止まったことで目を回している状態から回復したのだ。
「え、もう着いたの」
「あんたはずっと意識がすっ飛んでいたからねえ。高速移動に慣れないとこれから辛くなるよ?」
「修行します……」
呆れられたことに少しの恥ずかしさを感じながら辺りを見渡す、しかし何か特徴と言えるようなものを見つけることはできなかった。しかし、異常な存在感を放つ存在がいきなり出現したことで空気が一気に変わる。不吉な予感がヒシヒシと感じられる様子は悪魔の気配と呼んで差し支えないだろう。
「来たね、けど。この程度で不意を突けると思っているなら舐められたもんだねえ。空間移動をするのなら、もっと巧妙に隠さないと」
空間がひび割れる前にアンケの腕はその方向に動いていた、そして何かを掴むとそのまま地面に叩きつけた。衝撃が周りの木々を揺らし、叩きつけられたそれは頭からめり込んでしまっている。不吉な予感とは裏腹に非常にコミカルな惨状であった。
「こうなるのさ、魔女舐めんじゃないよ」
「か、かっこいい」
「しゅごひ、これがアンケ様」
馬上で見事な啖呵を切ったアンケの姿は非常に様になっており、ルームでさえも一瞬クラッとくるほどであった。ウィズダムに至っては完全にやられており、とろんと呆けた顔をさらしてしまっている。
「いてて、何すんの!! 驚かそうと思っただけじゃんか!!」
「ああん? 馴れ馴れしいねえ。悪魔風情があたしと対等に話すなんて100年早いよ。礼儀も知らない悪魔に生きる意味はなし、さっさと消えな。BLAZE」
首を地面から引っこ抜いて反論した悪魔風の少年が行った反論に気分を害したらしく、アンケは掌に火の玉のようなものを生み出す。形は小さくともそのうちに秘めたるは獄炎、迂闊に触れれば灰になることすら難しい代物である。
「うわー!!? 待って待って!! 私だよ!! 思い出して!!」
「ああ? 悪魔の知り合いなんて皆忘れたねえ。面倒だからもう良いね」
「ああもう、ANTI」
撃ち出された火の玉と全く同じものがアンケと悪魔の間でぶつかり消え去る。厳密には同じものではなく、同じ威力を持つ逆方向の指向性を持った火の玉である。完全に相殺することのみを目的としたものであった。下手に威力を殺せば封じられた熱が漏れでて周囲に被害が出ること考えると完璧な対応であったと言える。
「対属性じゃなくて、同属性相殺。しかも同種に加えて即発動。極めつけはANTIっていうキーワード、貴様……我が妹の魔法を奪ったな……そんな無駄に高度な無駄魔法を使えるのはアンサしかいない。気が変わった、全力でもって滅殺してやる」
「待ってってば!! お姉ちゃん!! 私なの!! アンサなのよ!!」
「そんな言葉に惑わされると思うか、我が名はもって命ず。MET……」
「こんな場所で隕石召還なんてしたら全部吹き飛んじゃうよ!!? やめて!!」
「これを知っているとは、記憶まで盗んだか!! 尚更許せん、死ぬがいい!! DEAT……」
「死神もだめえ!! 皆連れていくつもりなの!?」
なにやらこじれた空気を感じ取ったルームが正面からアンケに抱きつく、こうすることで少しでも意識をそらすことができればと思っての行動であったが効果は覿面であった。
「へひゃあ!?」
「アンケさん、ちょっと話を聞いてみた方が良いと思うよ?」
「だが、この悪魔は妹の」
「妹さんが悪魔になったんじゃないの?」
「え?」
適当に言った言葉であるが、アンケの頭の中でその言葉が何千・何万も反芻される。妹が悪魔になる、その可能性について検討を始めた。普通はありえない、死んだらそこで終わりである、輪廻転生とかいうものがあるかもしれないが自分の知っているアンサがまた生まれ出でることは絶対にないという結論が出る。出るのだが。
「アンサだものなあ、そんなことがあっても……」
アンケの記憶の中に居るアンサは変態である。それも超弩級の変態である。使う魔法は体系化できるようなものではない、むしろ体系化などしてはならない独創的なものばかり。例をあげるならば、味覚を固定する魔法、紙吹雪を生み出す魔法、魚を山羊に変える魔法など、意味が分からないものばかりであった。もしかすると死後に悪魔となる魔法があってもおかしくはないと思い始めた。
「そうだよお姉ちゃん!! 私だよ!! アンサだよ」
「やっぱ信用できない。死ね」
「あっ」
ルームの制止も空しく、胸元から取り出したダガーの投擲でもって自称アンサの心臓を貫く。しかも魔法が付与されていたらしく刺さった場所が爆発した。完全なる致命傷である。
「もう、酷いなあ。身体のスペアを保存してなきゃ死んでたよ!!」
「あれ? もしや本物か。治癒でも蘇生でもなくスペア交換で身体を治す思考はアンサのそれだねえ」
「そう言ってるでしょさっきから!!」
「1つ聞くよ、飲み水が欲しいと思ったらどうする?」
「え? そんなの簡単だよ。足に根をつけて吸い上げるか排泄物飲むか、一番良いのは自分を死体と一緒にして水を飲む必要を無くすことだね」
「妹よ!!」
「お姉ちゃん!!」
しっかりと抱き合う2人。それを端から見ていたルームは魔女ってすごいなと半ば思考停止しながら思っていた。




