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ウチの嫁が最強すぎて魔王すらワンパンなんだが  作者: 東条賢悟
第八章 異世界学園と召喚の真実
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第295話 魔王の潜む街

「「………………」」


カエノフィディアもフェーリスも愕然として声も出ない。


突如、告げられた『百獣の魔王』という名。


生粋の殺人鬼である魔族マントダエが忠誠を誓うような魔王が、今になって出現するとは。いったいどこの何者なのか。いつ召喚されたというのか。考えてもキリがないが、疑問は尽きない。


そんな彼女たちにマントダエは、シュラーヴァスティーという国家の魔族事情を語った。


「今、この国近辺に隠れてる魔族は二分してるのさァ!平和を望む、謎の『超魔王』様につくのか、人間を殺す『百獣の魔王』様につくのかなァ!!どうよオメエらァ、デルフィニウム様も討伐されたってことだし、ボクチンと一緒に来ねェか?悪くねェ話だろォ?仲間になるのならァ、今日のことは不問にしてやるぜェ?なァ!?」


楽しそうに彼女たちを勧誘するマントダエだが、フェーリスもカエノフィディアも、それとは対照的に顔が冷ややかである。


「……ウチたち、その『超魔王』様に仕えてるギャオ」


「その名で呼ぶと、アタクシたちが叱られてしまいますけど」


「なーーんだァ……そういうことかァ。どうりで人間を守るとか、ヌルいこと言うわけだァ……」


二人からの回答に、幾分、残念そうに呟いたマントダエ。しかし、それは次第に苛立ちと興奮へと変貌する。


「ならよォ、ボクチンの楽しみを邪魔するオメエらは敵ってことだなァ。満月の夜のボクチンを怒らせたからにはァ、タダで済むと思うなよォ。この日ばかりはァ、誰でもいいから殺したくて殺したくてェーー、我慢できねェんだからよォーー」


殺気立つ彼に警戒し、フェーリスが真面目な顔で構える。


「気をつけるギャオ!!カエノフィディア!満月の夜のマントダエは、半端なく強いギャオ!さっきの刃をいくらでも出せるギャオ!!」


「ええ!!もう油断しないわ!」


フェーリスとカエノフィディアは、マントダエを挟むような位置で戦闘態勢に入っている。合図一つで彼を挟撃できる状態であるが、好戦的なマントダエは、それよりも早く、楽しそうに笑いながら行動を開始した。


「シィィィシシシシシシシシ!!!カエノフィディア!前から思ってたけどよォ!オメエは顔が人間そっくりだよなァ!!オメエならァ、ボクチンの殺人衝動も満たされそうだぜェ!喧嘩売ってくれて、ありがとよォ!!!」


彼の最初の狙いはカエノフィディアだった。

フェーリスを無視して、真っ先に彼女を殺そうとしている。


対するカエノフィディアは怯まずに待ち構えた。


ところが、マントダエは彼女に攻撃する直前で、慌てて横に跳ぶことになった。



ドスドスドス!!



彼の進路に鋭い羽根が連続で飛来し、それを瞬時に避けたため、羽根が地面に突き刺さった。


この攻撃も見たことがあるマントダエは、新たに近くに降り立った気配に向けて、恐る恐る振り返った。そこには、木の枝の上に立った学者風のフクロウ男がいた。


「相変わらずの悪趣味だな。マントダエよ」


「ス、ストリクスのダンナァ!?アンタまで生きてたとはァ!!!」


彼はストリクスが苦手であった。近接戦が得意なマントダエにとって、空からの遠距離攻撃が可能なストリクスは相性が悪い。


「……こいつはァ、さすがにマズいねェ。いくらなんでも『八部衆』3人相手じゃ、ボクチンも分が悪いやァ」


戦況の厳しさを理解したマントダエは、苦々しい顔つきで後退りしはじめた。それを逃がすまいとフェーリスとカエノフィディアはジリジリ追い詰める。


しかし、今は天候が災いした。雨上がりの夜。深く霞がかった街並みは、視界が悪く、数メートル先でもボヤけて見える。


ちょうど雲間から見えていた満月の光が、再び雲に隠れた。


その薄暗くなった瞬間を狙い、マントダエはニヤリと笑った。


「これだけは教えといてやる。『百獣の魔王』様はずっとこの街にいらっしゃるんだぜェ。ここはいいよなァ。気配を感じ取られることがないから、ボクチンみたいのがコソコソしてたって、達人クラスや他の魔族にバレる心配もない。ここは最高の狩り場だァ」


言いながら、なんと彼は掌から出していた鎌を投げてきた。彼は肉体の一部を変形させて刃にすることができるだけでなく、それを射出する奥の手まで持っていたのだ。


「「えっ!」」


急な不意打ちに驚いたフェーリスとカエノフィディアは、慌ててそれをツメと短剣で弾いた。そのほんのわずかな隙をつき、マントダエは霧の中に姿を溶け込ませてしまった。


「逃げる気!?」


「あんな技、隠してたニャんて知らなかったギャオ!」


二人は仰天し、慌てて追いかけようと走り出す。しかし、それを間髪入れずストリクスが制止した。


「お待ちなさい!フェーリス殿、カエノフィディア殿!深追いはやめておきましょう。気配を捉えにくいこの地で、霧の中からアヤツの不意打ちを食らえば、おそらく我々でも命はありますまい」


彼の忠告をもっともだと感じた二人は、素直に立ち止まった。



戦いが済んでみれば、現場に残されたのは、ペンタスの顔なし死体と恐怖で震えながら身を縮めているジャスミンである。


ここでカエノフィディアは、ストリクスまでもが現場の来たことで、新居に置き去りのはずの二人を案じた。


「ストリクスさん、シスルさんとプリムラさんは?」


「ご尊父とご母堂に状況をお伝えしたところ、お二人は直ちにこちらに転移され、彼らを保護しておられます。まもなく共に参られるでしょう」



――さて、彼の報告どおり、それから数分後には僕、白金蓮と嫁さんが現場に到着した。


貴族学生たちを助けるために大急ぎで新居を飛び出したフェーリスに代わり、冷静に状況を伝えてくれたのはストリクスであり、深夜に叩き起こされた僕たち夫婦は、慌ただしくアカデミーに転移してきたのだ。


シスルとプリムラは新居で待ってもらっており、ルプスを護衛代わりに残してきている。


昼間と同じように、顔の無い遺体を目撃した嫁さんは、ビックリして僕に抱きついてきた。


「ひゃっ!!!」


「これは……ペンタスか?」


「レン、ユリカ、ごめんギャオ。その人間は助けられなかったギャオ……」


共に驚き、愕然とする僕たち夫婦に、気落ちしたフェーリスが申し訳なさそうに言った。僕は震えながら泣いている嫁さんをギュッと力強く抱きしめつつ、フェーリスに礼を述べた。


「いや……ジャスミンだけでも助けてくれて、本当に感謝する。どうしようもない連中だったけど、死んでほしかったわけじゃない。まさか……こんなムゴい死に方をするなんて……あんまりだ……」


これは僕としても衝撃を拭えない。曲がりなりにも、この日の夕刻までは友人として接してきた相手が、想像を絶する無残な姿で事切れているのだ。これ以上は僕も言葉にならなかった。


ともあれ、今は生存者の方も心配である。


僕は嫁さんを落ち着けつつ、地面に座り込んだままガクガクと震え続けているジャスミンに近づいていった。


「は……は……ヤだ…………ヤだ………」


彼女は未だに虚ろな目でうわ言を呟いている。

なるべく驚かせないよう僕は静かに声を掛けた。


「ジャスミン、大丈夫か?」


「イヤァァーーーーーーッ!!!!」


その途端、彼女はまるで断末魔のような叫び声を上げ、必死に逃げようともがく。しかし、足に力が入らないため、彼女が進んだのは1メートルにも満たず、そこでまたダンゴムシのように縮こまってしまった。


「可哀想に。まだパニック状態が続いているんだろう……」


彼女の肉体を解析してみたが、幸いなことに怪我は一つも無い。しかし、精神的なダメージは深刻なようである。残念ながら【世界樹の葉(ユグドラシル・リーフ)】は、肉体の物理的な治療をするものであって、精神的な問題には何の力も持たない。こればかりは自然な回復を待つのみだ。


仕方なくジャスミンのことはカエノフィディアに任せ、僕はペンタスの遺体を解析することにした。彼は即死した上に顔面の部分が持ち去られており、手の施しようがないのは明らかだが、今後のために遺体の状況をつぶさに記録したのだ。



さて、現場検証としては、やるべきことは終わったが、事件現場に到着したものとして、社会的な意味での役割はまだ残っている。


騒ぎを聞きつけて走って来た騎士たちに僕は聴取を受けることになった。


「レン殿、また貴殿か」


「ふわぁーーあ……シロガネ卿……今夜も会うことになるとはね……キミは事件によく関わる人だなぁ」


『連邦騎士団』団長ディエラマと『王国騎士団』を従える第二王子ヘンビットが到着したのだ。皆、深夜であるため、若干、眠そうである。また、僕が先に来ていることにも呆れた顔をしていた。


「ヘンビット殿下、今度は確実に魔族の仕業です。カマキリの能力を持った亜人タイプの魔族。こちらのフェーリスが偶然にも駆けつけ、そちらにいるジャスミンを助けました」


まず先に僕が最も重要な犯人の情報を教えた。

これに”殺人鬼魔族”を追っているヘンビットが大喜びで食いつく。


「ほう!ついに目撃情報が手に入ったか!フェーリスというのはキミかね?」


「そうギャオ!」


「……これまた変わった感じの子だな。なにげにかわいいし」


「僕のところで専属で働いているハンターです。未登録なので、ほとんど知れ渡っていませんが、かなり腕が立つんですよ」


とりあえず実際に戦った魔族3人を全員紹介するわけにもいかないので、フェーリスに代表として立ってもらった。これにより、”殺人鬼魔族”の実在が明らかになり、彼らの捜査も進展することだろう。


ただし、魔族がアカデミーにいること自体を疑問視してきたディエラマ騎士団長は、あえて僕を疑いの目で見てくる。


「それは本当に魔族だったのかね?」


「間違いありません。実際に交戦した彼女から、その能力も聞きました。これが証拠です」


僕は、カマキリ魔族が射出したという鎌を2つ渡した。そして、フェーリスから得たマントダエの情報を事細かに報告する。外見的特徴から能力の詳細まで全てを伝えきった上で、最後にこう忠告した。


「どうか遭遇した場合はお気をつけください。おそらく、かつての魔王軍幹部に匹敵するか、それ以上の実力があると思われます」


豊富な情報量に圧倒されたディエラマは、半信半疑の様子であるが、否定しきることもできずに困惑している。


「なんということだ……にわかには信じられん」


その彼を冷ややかな目で見つめ、ヘンビットは軽く嘲笑する。これにて犯人が人間による模倣犯であるという線は消え去ったためだ。


「ふふん。どうやらこれで決まりだな。昼間のエニシダ教授殺害事件も、犯人はその魔族だ。ソートゥース部隊長、コリウス部隊長、まだその魔族が近くに潜んでいるかもしれない。今夜は徹夜で捜索するぞ」


「「はっ!」」


ヘンビットは『王国騎士団』の精鋭を引き連れ、意気揚々と霧の街中を歩いて行った。


現場に残ったディエラマはしばらく考え込んでいたが、苦し紛れに僕に苦言を呈してきた。


「ところでレン殿、こうも立て続けに事件現場に先着されては、我々としては貴殿を疑わないわけにはいかなくなるが……」


これはまた何というか。ドラマで度々事件に遭遇する名探偵が、刑事からツッコまれるアレだろうか。僕は苦笑しながら尋ね返した。


「それは、騎士としての勘ですか?」


「……いや、ただの疑念だ」


腑に落ちない様子の騎士団長に、僕も何と言えばよいのか考えつかずにいると、ここでようやく元気を取り戻してきた嫁さんが加勢してくれた。


「私たち、シルバープレートハンターだもん!事件はニオイで嗅ぎつけるのよ!」


よくわからない理屈を述べながら僕と腕を組む嫁さん。

これには、いかつい顔の騎士団長も表情を緩めた。


「……元気な奥方だな。今日のところは、そういうことにしておこう」


「ああ、いや、まぁ……」


「では、この遺体は、我々が引き取ろう。このまま道端に放置するわけにもいかないからな」


彼は部下に命じて、顔面を失ったペンタスの遺体を担架のような物で運ばせた。それと共に駐屯地に戻ろうとする。しかし、ここには保護すべき人物がもう一人いるため、僕は彼を呼び止めた。


「あの……彼女はどうしますか?名前はジャスミンと言います。被害者の一人なんですが、怪我はしていません。僕たちも彼女の住所を知らなくて」


「申し訳ないが、我々は自警団ではない。この地に詳しい者に尋ねてもらえるだろうか」


「はぁ……」


それだけ言って『連邦騎士団』は去ってしまった。

僕の横で嫁さんが呆れた顔をしている。


「え、行っちゃったよ。冷たくない?」


「要するに地元警察じゃなくてFBIだって言いたいんだろうな。大統領府直属だからって……被害者の保護くらいしろってんだよ……」


仕方がないので、今のところ身寄りのわからないジャスミンは、僕たちが保護することにした。カエノフィディアが彼女を抱きかかえ、連れ帰った。


夜中に大騒ぎで帰宅した僕たちを心配し、シスルとプリムラも起きてきた。


ジャスミンは無傷ではあるものの、ペンタス死亡時の返り血を浴びた上、失禁したり地面を這いつくばったりして、泥だらけになっているため、女性陣に任せて着替えさせることにした。


ところが、それにも難儀した。パニック状態の彼女が暴れるため、着替えもできないのだ。最終的にはカエノフィディアが『魔眼』を使用し、彼女の動きを封じてから寝巻に着替えさせたという。


次第に疲れ果てた彼女は、子どものように寝入ったそうだ。


「あの人が、あんなになるなんて……」


彼女の介護に参加したプリムラは、昨日までのジャスミンとは別人のように変わっていることに愕然としていた。男装しているダチュラをめぐり、恋敵のようにジャスミンから目を付けられ、イヤガラセを受けてきたプリムラであるが、さすがに憐れすぎて同情せざるを得なかった。



こうして、この15日という日は終わった。


エニシダ殺害事件から始まり、貴族家の学生たちに心からの忠告をすることで仲違いし、シスルとプリムラを新居に迎え入れ、さらには”殺人鬼魔族”が出現するという怒涛の一日となった。


頭と体は疲れ果てていたが、それに反比例するように寝つきの悪い夜だった。これほど悶々とする夜は久方ぶりである。牡丹を挟んで寝ている嫁さんも、いつまでもモゾモゾしていた。二人の間でスヤスヤと寝入っている娘の存在だけが、僕に安心感をくれた。そんな一夜であった。



翌朝、ベナレスの本宅で休んだ僕たちは転移魔法で移動し、ジャスミンの様子を見に来た。


彼女は明け方に目を覚ますと、途端にまたパニックを起こしたという。それが断続的に繰り返されているというのだ。看護にあたっていたカエノフィディアがそう報告してくれた。昨夜の事件が頭から抜けないのだろう。


「これは……可哀想に。”PTSD”かもしれない……」


僕が呟いた言葉に嫁さんが反応した。


「え……それって何だっけ?」


「”心的外傷後ストレス障害”。過度のトラウマを抱えたことで、その時の恐怖を何度も追体験してしまうんだ」


後ろで心配そうに聞いていたシャクヤが、目を丸くして、この話に乗ってきた。


「わたくしどもは、このような症状の方を拝見しますと、”気が狂った”、あるいは、”悪霊に憑りつかれた”などと表現致しますが」


「ああ、昔の人は、そうだったんだね。こういうのは精神的疾患であって、怪奇現象じゃない。ゆっくり療養すれば治るかもしれない病気の一つなんだよ」


そう説明し、彼女や他の面々を安心させた。


とはいえ、それだけの恐怖体験をジャスミンはしたのだ。不憫すぎるのは確かである。



連続殺人事件から一夜明け、街の様相も変わった。


被害者のペンタスは伯爵家の四男であり、大神官エニシダに引き続き、彼が殺害されたことでアカデミー内も不穏な空気になっていた。


ただし、これを受けて、『連邦騎士団』と『王国騎士団』による警備体制が強化されることになったため、それをもって各講義は通常どおり行われることとなった。その代わり夜間の外出は原則として禁止する旨が通達された。


以上のことを、牡丹を連れた嫁さんとダチュラに確認してきてもらった。


また、その途中、嫁さんはバジルとマーガレットを見かけたという。ジャスミンの自宅を知らないため、彼女はそれを聞こうと彼らに声を掛けた。


「あっ!バジルくん!ジャスミンちゃんが大変なの!」


「来るんじゃない!人殺し!!!」


「……は?」


「キミたちのせいでボクたちは雨宿りすることになって、夜中にペンタスは殺されたんだ!彼が死んだのはキミたちが原因だ!エボニーも恐怖で家から出られなくなった!もうボクたちに関わるんじゃない!」


「え……ちょっと!」


取り付く島もなく、バジルとマーガレットは足早に去って行ったそうだ。他の3人とは違い、この2人は運良く魔族に遭遇することはなかったが、そのためにかえって僕たちを逆恨みしているのだった。



さて、大神官エニシダの講義は完全に終了し、僕たちは午前中に受ける講義が何も無い。ちなみに講師本人も殺害されてしまったため、単位がどう扱われるのかは不明だそうだ。


この日は、そうして情報収集しているうちに正午になった。しかし、午後の授業を受ける気にもなれない。今の僕は考えるべきこととやるべきことが山積みである。


”殺人鬼魔族”であるマントダエへの対応策も喫緊の課題であり、その他にも”大賢者”捜索やローズへの求婚勝負という当初の目的もある。そして、さらなる大きな問題として、『百獣の魔王』の暗躍と『超魔王』の噂が流れているという予想外の事態にも何らかの対処をしなければならない。


探知系能力やレーダー機能を阻害されたこの地で、それらを進めるためには、やはり協力者が必要不可欠に思えた。


ちょうどそう考えた時である。早速、その人物から着信が来た。


『白金くん、夕べは大変だったみたいね。貴族家の学生が魔族に襲われたって……』


「うん……」


僕は桜澤撫子に、前日夕刻以降の経緯を語った。被害者の一人が、僕たちと敵対した貴族家の学生の一人であったことも伝えると、悲しげな顔で同情してくれた。


『そうだったんだ……それはショックね……』


「桜澤さん、ちょうど君に聞きたかったんだ。『百獣の魔王』について、何か知ってるか?」


『ごめんなさい。それは私も初耳』


「このアカデミーには、勇者がいるって聞いてるけど?」


『そうね。でも、彼の討伐対象は別の魔王なの。……うーーん。これは長くなりそうね。よかったら、こっちに来ない?』


「え、今どこ?」


『ヤグルマギさんの研究室よ。白金くん、研究室に入りたいって言ってたでしょ。どうかな?私が助手を務めてる、この研究室に来てみない?』


桜澤撫子からの意外な誘いに僕は驚いた。これは渡りに船である。今までアカデミーにおける研究発表の拠点を探し続けてきた僕は、二つ返事で答えた。


「よろこんで!」


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