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ウチの嫁が最強すぎて魔王すらワンパンなんだが  作者: 東条賢悟
第八章 異世界学園と召喚の真実
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第292話 夫婦の決断

プリムラは怯んだ。


大神官エニシダの研究室で、彼に鍵をかけられてしまったのだ。女性が男性と二人きりになるシーンにおいて、勝手に施錠されるという行為は、本能的に恐れを抱かせるものである。


(ま……まさか、実の娘に手ぇ付ける気か?いんや、まだこの人がお父さんだとは決まったわけじゃねぇけど!)


よもや2日目から、いきなりこのような事態になるとは思ってもいなかった。好色な人物とは聞いていたが、ここまで手が早いとは。


そう思いつつも、何かの間違いである可能性に期待を込め、彼女はエニシダによる特別授業を受けた。


彼の語る持論や研究成果は、いつもの講義よりも踏み込んだものであり、学習内容としてはとても面白いものではあった。


しかし、1日目と比べてもスキンシップが多い。


プリムラを褒めながらエニシダが何度も肩に手を置いてくる。やがて、その手がさらに動き、彼女の背中をなぞった。


ゾクッと震えたプリムラは、この瞬間、居ても立ってもいられなくなった。


「も、申し訳ありません!失礼します!」


急に立ち上がった彼女は、足早に扉まで行き、内側の鍵を開けて出て行ってしまった。男性に触れられることに生まれて初めて恐怖を覚えてしまった彼女は、そのまま屋敷を出て、逃げるように走って帰った。


帰宅してから彼女は激しく後悔した。


「何やってんだ!あたい!落ち着け!あんくれえのこと、最初から覚悟してたじゃねぇべか!これで嫌われちまったら、元も子もねぇ!」


そして、しばらく逡巡した後、彼女はもう一度決意を固め直すのであった。


「あの人が父親なのか探ることも含めて、あたいはあの人を利用する!せっかくアカデミーに来たのだから、もう人から見下されないように、みんなを見返してやるんだ!明日、もう一度、研究室に行って、ちゃんと謝ろう!」


そうして翌日、最後の授業となる14日の講義を受けたのだが、演壇の真ん前に座っているにも関わらず、講師のエニシダは一度もプリムラを見ないまま講義は終了した。


(ど、どうすんべ!目ぇ合わせてくんなかった!嫌われた!)


愕然としながら、その日の午後はアカデミー内を呆然と歩いた。


すると、ひょんなことから遠目にバジルたち貴族学生を見かけた。逃げるように隠れた彼女は、そこでもう一度、思い直した。


(やっぱり行かなきゃなんねぇ!先生には誠心誠意、謝るだ!)


こうして決意に燃え、再度エニシダの自宅兼研究室に足を運んだ時、僕と嫁さんが彼女を心配して追いかけてきたのだ。


「あたいは……あたいのことだけで、精一杯なんです!他人のことなんて、構っていられません!」


声を荒げて、僕たちにそう言い、彼女はエニシダの研究室に入って行った。


「先生!!!昨日はすみませんでした!」


「君の方から来てくれたか。では、昨日のことは不問としよう」


潔く謝罪すると、想像以上にエニシダは優しい顔つきで彼女を迎え入れた。


この日は、彼も扉の鍵を閉めることはせず、一日前よりもさらに懇切丁寧に指導してくれた。課題として出されたレポートをまとめて提出すると、それも殊の外、喜んでくれた。


既に日も暮れた時分、ランプが一つあるだけの薄暗い研究室で、彼はプリムラの背後に立って、その両肩に手を乗せた。


「この私に従っておれば、何も心配することはないぞ。私の研究を手伝えば、必ずや学術的な成果を出すことができる。そなたの才覚であれば、やがて貴族ですら、頭が上がらなくなるだろう」


「そ、それほど……なのですか?」


「ああ。安心するがよい。この私が保証しよう」


「先生には、か、感謝しかありません……」


「……だが、それもこれも、私という後ろ盾があってのものだ。わかるな?プリムラよ」


そうして、下卑た笑みを浮かべながら、エニシダはプリムラの小さく柔らかいお尻に手を伸ばした。触れられた瞬間、反射的にビクッとしたプリムラであるが、身を震わせ、顔を強張らせつつも、必死に我慢した。


(こ……ここで怯んだら終わりだ!あたいはもう!虐げられる人生には戻らねぇ!)


その決意で彼女は覚悟を決めていた。

絞り出すように、か細い声で、一言だけ返事をする。


「はい……先生……」


これを了承と受け取ったエニシダは、ニヤリと笑みを浮かべ、プリムラの首から胸にかけて腕を回すように抱擁した。


ところが、エニシダが背後から彼女の細身の身体をギュッと抱きしめ、そして、近づけられた口から出た彼の吐息が自分の耳に当たった瞬間、うら若き乙女の彼女は、本能的に反射的に動いてしまった。


ドガッ!!!


なんと力の強いプリムラは、エニシダの腕を勢いよく払いのけ、後ろに吹き飛ばしてしまったのだ。


その拍子にエニシダの腕がランプに当たり、机から転げ落ちた。幸いにも火は燃え移ることなく消えたが、室内の明かりが無くなり、真っ暗になる。


「す、す……すすす…………すみません!!!」


謝りながらも、自分のしでかしてしまったことに狼狽しているプリムラは、月明かりが差し込む研究室を走り出し、壁に頭をぶつけたりしつつ、扉を開けて出て行った。外は満月に近い14日の夜であり、意外と明るかった。


逃げ走る彼女は絶望していた。


(お、男の人にお尻を掴まれて、あんな力いっぱい抱かれちまった……。あたいはダメだ。もうお嫁にいけねぇ……)


実はプリムラは、性の知識に乏しいため、これだけの行為で純情を穢されたと思っていたのだ。母を早くに亡くし、年頃になってからは同性の友人がいないため、何も知らずに育ってしまったのである。


そうして、この後の彼女は、「自分にはもう失うものは何も無い」という思いが募り、自暴自棄の言動が垣間見えることになるのだった。




以上が、前日までのプリムラの行動である。ここまでを彼女が語り終えたところで、ウチの嫁さんが恐る恐る、念のための確認を取った。


「プ、プリムラちゃん……ちょっといい?触られたのってお尻だけ?あとは後ろから抱きつかれただけ?」


「はい。そうですだぁーー。あたい、もうお嫁に行けねぇですだよぉーー」


「あ……あははは。そ、そうなんだぁーー」


想定していたよりも重い話ではなかったため、安堵と苦笑が入り混じりながら、嫁さんは嘆息した。


しかし、当の本人は自分の現実を思い出してしまい、泣き崩れている。何も知らない少女が薄暗い一室で男から肉体関係を迫られ、立場的優位を利用されて無理やり抱きつかれたのだ。それは尋常ならざる恐怖であったに違いない。


とはいえ、やはり彼女には悪いが、離れて聞いている僕とダチュラとローズは、それぞれ性経験のある身の上から、胸を撫で下ろしていた。


「思ってたより深刻じゃなくて良かったけど……本人は泣いてるからな……大したことないよ、って言える感じじゃないよな……」


「なかなか純朴な子なのね……」


「あたしなんて、レンに母乳を飲まれたんだぞ?」


「それは自分が飲ませたんだろうが!」


と、プリムラに聞こえないように小声で軽口を叩く僕たちであるが、テーブルを囲んでいる別のメンバーの中には、彼女に同情して憤慨する美少女たちがいた。


「許せませんわ!エニシダ教授!死んで当然の報いです!」


「ええ!!乙女の純潔を穢すなど!」


ラクティフローラとシャクヤである。そういえば、この二人は、王家と貴族家に生まれた温室育ちであり、特に恋愛に関しては思い込みが激しく、夢見がちな超絶お嬢様であった。


「あぁ……箱入り令嬢は同じ感想なんだね……」


「オトコを知らないからね……」


僕とダチュラは、触らぬ神に祟りなし、という思いで、そちらにはツッコまないことにした。


また、嫁さんは、気がつけば大泣きしているプリムラを必死になだめている。


「えーーと……プリムラちゃん、慰めになるかわからないけど、私もね、電車の中で痴漢にあって、お尻触られたこともあるし、何て言うか、そこまで落ち込まなくても大丈夫よ。まぁ、ムカついたから、その犯人は手首掴んで駅員さんに突き出してやったけど」


これは僕も初耳なので驚いた。その痴漢のことは許せないが、平気で相手を捕まえてしまう嫁さんもさすがである。やはり彼女は、若い頃から正義漢と勇気のある女性だったようだ。


しかしながら、言葉の意味がわからないプリムラには、大した慰めになっていない様子だ。そこにシスルが彼女をフォローするため決意するように立ち上がり、自分の胸を叩いた。


「プリムラ!大丈夫だ!もしも本当に嫁の行き先が無かったら、最後はおれがもらってやる!おまえが行き遅れることはない!これは約束だ!」


これにキョトンとした目で見つめ返したプリムラであるが、今度は何か別な感情で悲しそうに泣き出した。


「…………う……うぅ…………あぁーーーーん!それはヤだぁーー!!」


「なにもガチ泣きすることないだろ!!!」


シスルは悔しそうに叫んだ。

このやり取りには、さすがに皆、クスクスと笑うしかなかった。


また、なんやかんやでシスルの言葉が嬉しかったのか、プリムラは次第に泣き止み、落ち着いていった。




気持ちがわずかに晴れたところで、ようやく話の続きをプリムラは再開してくれた。


彼女がエニシダを完全に拒絶し、研究室を飛び出した翌日。それが今日。試験日である15日なのだ。


エニシダに合わせる顔もなく、朝から憂鬱だったプリムラは、憧れのダチュラに声を掛けられたり、その後、ジャスミンとマーガレットにカラまれたりして、さらに情緒不安定になった。


そこで、意を決した彼女は、試験会場ではなく、講義室の裏に向かい、そこから試験会場に入るエニシダを待つことにした。ここで、直接謝罪しようとしたのだ。


「あ、あの!エニシダ先生!一昨日に続き、昨日までも!本当に申し訳ありませんでした!!」


深く頭を下げた彼女を見たエニシダは、近づくと冷たい視線を向けて口を開いた。


「君は、もう試験はよい。私の屋敷で待っていなさい」


それだけを告げられた。


これに彼女はショックを受けた。試験を受けるなと言われたようなものであり、その資格は無いと突き放されたのだと思った。


才能がある等と言ってその気にさせ、その実、ただ単に自分のカラダ目当てだったのか。そう考えた彼女は、悔しさで歯ぎしりし、目を真っ赤に腫らした。


(やっぱりあの人は、最低最悪な人だった!!!父親かどうかもわかんねぇけど、あたいがこの手で殺してやるだ!!!)


憤怒に燃えた彼女は、言われたとおり先にエニシダの屋敷に向かい、使用人に言って、待たせてもらった。殺害方法は未定だが、研究室で二人きりになったところで殺すつもりだったという。


そこから先は、彼女が騎士団の前で証言したのと同じである。


帰宅したエニシダに挨拶すると、「20分後に研究室に来るように」と言われ、実際に行ってみると、鍵がかかっており、鍵を借りて扉を開けたところ、エニシダの遺体を発見することになったのだ。


その時の悲鳴を聞いて僕たちが駆けつけ、今に至るというわけである。




こうして、これまでプリムラが辿って来た一部始終を僕たちは聞くことができた。そばに座っている嫁さんが真っ先に礼を言った。


「ありがとね。プリムラちゃん。言いにくいこともたくさんあったでしょうけど」


僕もプリムラに感謝しつつ、今までの話を総合してみた。


「貴重な証言、ありがとう。……ただ、今のでわかったのは、エニシダがセクハラ親父だって噂が真実ということのみだな。彼を殺した実行犯は依然、不明のままだ」


言いながらも、僕は、エニシダの生前の行動に妙な違和感を覚えていた。何かを見落としている。そんな予感がした。


しかし、今の僕には、それだけを悩んでいる時間はないようで、嫁さんが口にした次の疑問にも、考えを巡らせることになった。


「プリムラちゃんのお父さんって何者だろうね?」


「それに関しては……よくわからないな。少なくともエニシダが父親ってことはありえないと思う。アカデミーでの彼女の所在が把握されてるんだ。向こうだってプリムラが近づいて来れば、気づかないはずはない。さすがに実の娘に手を出すヤツではないと……信じたいかな」


「そだね……」


「ただし、その謎のパトロンがプリムラの父親だ、って部分も、今のところシスルの推測に過ぎない。それに留意した上で、調査する必要がありそうだね」


僕が推論を述べるのをシスルは不思議そうに見ていた。そして、さも意外そうな顔で尋ねてきた。


「あの……プリムラのパトロンを……捜してくれるのか?」


「ああ。乗り掛かった舟だ。友達なんだから協力はさせてもらうよ。それに、僕たちがアカデミーに来た目的も、実は人捜しなんだ。対象が一人くらい増えたって、どうってことはない」


「レン……」


「レンさん……」


シスルとプリムラは、僕が何の迷いもなく答えたことに感激していた。


実を言えば、僕個人としては殺人事件の犯人を見つけるよりも、プリムラの学生生活を支える謎の”あしながおじさん”を捜す方が面白そうだと感じている。出会った頃からそうであったが、何かと鉄板ネタを運んできてくれる子である。このプリムラという子は。


「ただね、プリムラ、一つだけ小言を言わせてほしい」


「何ですか?」


「仮にお父さんを見つけられたとして、”殺す”なんて発想はやめてくれ。恨みたい気持ちは理解するけど、それは人として、やっちゃダメだよ。エニシダも、君が殺さなくて本当に良かった」


「あ……はい。すみません。あたいも……人が殺されるってことの恐ろしさを考えていませんでした」


プリムラは、エニシダの遺体を目撃したことで、その残酷さを痛感していた。頭も冷えたこともあり、僕の言を素直に聞き入れてくれた。



そして、最後に残る疑問を僕は尋ねた。


「……で、事件当時のことまでは聞いた。その後、二人がローズ……ローズマリー嬢と一緒に戻って来たのは、どういうことなんだ?」


「「それは……」」


シスルもプリムラも、少し口ごもりながら、その経緯を聞かせてくれた。バジルをはじめとする貴族学生5人組に再びカラまれ、危うく剣で斬られそうだったところをローズに救われたのだ。


僕も嫁さんも、あの卑劣な貴族家出身学生たちに再度、憤りを覚えた。


「ここでまた彼らが出てくるのか……」


「蓮くん、私……いろんなことが許せない!気づいてあげられなかった自分も許せないけど、やっぱり二人にひどいことしたバジルくんたちを絶対に許すことができないよ!」


「百合ちゃん、僕も同じだよ。というか……みんなも同じだよな?」


応接室にいる仲間たちに呼びかけると、代表してラクティフローラとシャクヤが同意した。


「もちろんですわ!」


「許されざることでございます!断じて!」


しかし、実はそれと同時に僕たちは悩まざるを得ない。僕たちの立ち位置の微妙さは、次に嫁さんの口から語られることになった。


「でもね……それと一緒にモヤモヤもするの。きっとバジルくんたちと仲良くなる前だったら、私、あの人たちをぶっとばして終わらせてたと思う。でも、今まで私たち、あの人たちとも毎日楽しく食事しちゃったりしてきたんだよ。何て言うか……どういう顔して怒ればいいのか、ちょっとわからない」


「確かにそうだね……僕たちは、彼らとも友達になってしまった。なんか……今になって、”君たちは敵だ”とか、面と向かって言いにくいよな……」


僕と嫁さんは互いに中身は35歳。こういう時、どうしても大人としての対応を意識してしまう部分がある。これでバジルたちに、ただ頭ごなしに怒るだけでは大人げないような気がしたのだ。


そうして夫婦で頭を抱えた時である。


ここで突如、堪えきれずに爆笑しだす人物がいた。


「フッ……フフフフ……フフッ……アハハハハッ!!!」


「え……」


「……ローズ?」


これには僕たち夫婦だけでなく、応接室に集っている全員が驚いた。


公爵令嬢ローズマリーこと”女剣侠”ローズが、普段の彼女らしく、豪快に笑ったのだ。


今は、エニシダの屋敷の使用人たちが誰もいないからよいものの、それでもシスルとプリムラにとっては、上品で慎ましい公爵令嬢のはずである。ここで正体を晒すようなマネをしてよいのだろうか。


しかし、そんなこちらの懸念などお構いなく、ローズは僕と嫁さんを、呆れるような感嘆するような言葉で賛美した。


「何と言うか!君たち夫婦は、本当に人が好いな!!初めて会った時もそうだった!君たちは、あのどうしようもない盗賊どもの命を助け、改心させ、手懐けてしまった!また同じようにするつもりか!」


彼女の本性を知っている面々は良いが、シスルとプリムラは目を点にしている。きっと彼らの目には、気品に満ちた公爵令嬢が豹変したように映っているに違いない。


「セクハラ聖職者のエニシダもクソだが、貴族家の学生ってのも本当にクソだな!!」


さらにローズは、今まで我慢してきた鬱憤を吐き出すように悪態をついた。これには、さすがに弟子のダチュラも慌てて落ち着けようとする。


「ローズさん?いいんですか?彼らが見てる前で?」


「構わないさ!今、ここにいるのはレンとユリカとその友人だけだ。君たちの友人なら、あたしにとっても友人ってことでいいだろ?」


既に開き直っているローズは堂々としたものである。僕たち夫婦は、黙って彼女からの念押しに頷いた。


すると、ローズは農民学生二人のもとまで闊歩し、その前に悠然と立って、笑顔で告げた。


「シスルとプリムラって言ったよな。改めて自己紹介するよ。あたしの本名はローズマリー。正真正銘、公爵家の娘。だが、本来のあたしは家出したハンターだ」


「「えっ!?」」


「ゴールドプレートハンター、人呼んで、”女剣侠”のローズ。それがあたしの本当の生きる姿なんだ」


「「えぇぇぇーーーーっ!!!!!」」


椅子に座っていた二人は、驚愕のあまり立ち上がり、もはや何とリアクションしてよいのか、わからない様子で、ただ呆然とローズを見た。


そして、ローズは嬉しそうに振り返りつつ、僕たち夫婦に男勝りな意見をぶつける。


「レン、ユリカ、あたしはこの二人が気に入った。まるで君たち夫婦とダチュラに出会った時のようだ。そんな彼らに屈辱を与えた連中に、このあたしがガツンと言ってやりたいと思うんだが、構わないか?」


だがしかし、これに僕は嫌な予感がして尋ね返した。


「ちょ、ちょっと待って。そのガツンってのは物理じゃないよな?」


「ああん?口でわからなかったら手も出るかもな?」


「待て待て。それは待って」


「あたしはな、今、ずっと実家に閉じ込められてて、ストレスマックスなんだよ。あんな理不尽なことを聞かされて、黙っていられる気分じゃないんだ」


ローズは、まるで喧嘩に乗り込むような顔で言い切った。


なんだコレは。一度は丸くなった元ヤンキーが、実家に連れ戻されて、またヤンキーに返り咲いた感じか。


彼女の不動の決意に僕が言葉を失った時、ここで嫁さんが血相を変えて、真剣に彼女を止めた。


「ローズさん!気持ちは嬉しいんだけど、本当に待って!それだと、なんか根本的な解決にならない気がする!今、ローズさんが出てったら、それは、あの人たちがやってることと一緒な感じがするの!」


この嫁さんの訴えをむしろ僕の方が不思議に思った。


「百合ちゃん?」


「蓮くん、二人で家族会議しよ!私、なんとなく考えてることがあるんだけど、頭の中がまとまらないの!」


「わかった。みんな、ごめん。ちょっと二人きりで話をさせてくれ。ローズも頼む。もう少し時間をくれ」


急に家族会議を振られた僕であるが、こういう時の嫁さんの直感には、不思議な信頼感がある。僕は一同に断りを入れつつ、ローズにも確認を取ったが、彼女も微笑して受け入れた。


「……仕方ないな。あたしは君たち二人の意見を最大限に尊重するよ」


そうして、僕と嫁さんは場所を変え、身分社会がモロに反映されたアカデミーでの失敗と今後の方針をよく相談し、分析し、二人の意見としてまとめることにした。



ちなみに僕たち夫婦が応接室を出た後、しばらく黙って見守っていた桜澤撫子は、山吹月見の横で深々とため息をついていた。


「はぁ……」


「どしたのォーー?なで子ォ?」


「ああやって、何かあるたびに夫婦で相談して決めてきたのかなって思うと……なんか、やるせなくて……」


「へェーー、それって敗北感?」


「ち、違うわよ!そんなんじゃ!そんなんじゃないわ!」


などと彼女は強がっていたようである。



さて、嫁さんのモヤモヤを聞き出し、僕がそれを一つ一つ言語化することで、彼女の考えていることは導き出された。それは、僕にとっても、溜飲の下がる答えであった。これで方針は決まった。


戻った僕たち夫婦は、シスルとプリムラにもその思いを話し、納得してもらった上で共に行動することにした。


ちょうど屋敷の外の群衆は、何も起こらないことに飽きてきたため、日が傾いてきたこともあり、散会している。


僕たち一行はエニシダの屋敷をお暇した。



既に僕はストリクスとフェーリスの力を借りて、バジルたちの現在位置を特定している。


「牡丹、これからパパとママは、バジルたちと大事な話をしてくるんだ。いい子で、先に帰って待っててくれるか?」


「うん!がんばって」


我が娘は、殺人事件も含めて、深刻な出来事が続いていることを理解してくれている。彼女はこれまで様々な経験をしてきているので、とても察しの良い子どもに成長していた。


シスルとプリムラだけを残し、娘を預けて仲間たちを先に帰らせた後、僕は嫁さんと決意を確認しあった。


「さぁ、百合ちゃん、ケジメをつけに行くぞ」


「りょ!」


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