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ウチの嫁が最強すぎて魔王すらワンパンなんだが  作者: 東条賢悟
第八章 異世界学園と召喚の真実
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第291話 謎のパトロン

「ひぃ、ふぅ、みぃ…………ぜ、全部で60枚ある」


プリムラの家に投げ込まれた袋の中身をシスルは数えた。60とは、金貨の枚数である。まず間違いなく農民が生涯で目にする機会の無い大金であった。


驚愕する彼と目が合うと、プリムラは弁解するように訛りながら叫ぶ。


「盗んだんじゃねぇからな!」


「当たり前だろ!こんな大金!貴族の屋敷にでも忍び込まなきゃ手に入らねぇよ!どうしたんだよコレ!」


「今朝……夜明け前に、窓から投げ込まれて……」


「はぁ!?」


何もかもが信じられないといった表情で、シスルは彼女の顔と家の窓を交互に見る。プリムラは、さらにテーブルに置いておいた一通の手紙を彼に見せた。


「そ、それで……この手紙が一緒に……」


受け取ったシスルは封を開け、すぐに彼女のために読み聞かせた。

プリムラはこの時、字が読めなかったのである。


『親愛なるプリムラへ』


まず冒頭には、そう書いてあった。


「えっ!おまえ宛!?」


シスルは読みながら愕然とした。この家に住んでいるのがプリムラであることを知った上で、大金は投げ込まれたのだ。


そして、手紙の内容は簡潔であり、以下のとおりであった。


『このお金を使い、アカデミーに来なさい。二人分の学費と当面の必要経費を渡す。一人では心細いだろう。誰か信頼できる友人を誘うとよい』


「なんだ、これは!?」


この指示に驚くシスルがさらによく見ると、手紙にはもう一枚の紙が同封されていた。アカデミーへの紹介状である。署名は無いが、様式から見て、実効性のありそうな代物だった。


「ど、どうする?シスル?」


「どうするもこうするも……よくわかんねぇけど、金だけもらってトンズラできれば最高だ。でも、プリムラの居場所がバレてるわけだから、そんなことしたら次に何されるか、わかったもんじゃねぇよな……」


「アカデミーに行った方がええの?」


「理由もわからず行ったところで、これが何かの罠ってことも考えられるぞ」


「え、罠!?罠って、何の?」


「いや、よくわかんねぇけど……でも、それも変か。一人暮らしのプリムラの家まで来たヤツが金と手紙だけ置いてったんだ。プリムラが目的なら、そのまま誘拐すればいいんだもんな。てことは、本当にアカデミーに来てほしい理由があるのか……」


「誰が、こげなことを……」


二人はしばらくの間、途方に暮れて沈黙した。


手紙と睨めっこするシスルは、椅子に座って考え込む。やがて、あることに思い至った彼は、ゆっくりとプリムラに尋ねた。


「……なぁ、プリムラ、おまえ、お父さんのこと知らないって言ってたよな?」


「え、うん」


「実は、おまえのお父さんが、とんでもなく偉い人だったりして、その人がおまえを見つけ出して、アカデミーに行くためのお金だけ置いてった。なーーんてことは無いかな?」


「ど、どうなんだべ……あたいのお母さん、お父さんのことは全然、話してくんなかったから」


「じゃあさ!行ってみようぜ!アカデミー!」


「えっ!!!」


「アカデミーには、この世界の全ての知識が集まってるんだ!そんな所で学べるなんて、願ってもできることじゃない!そこで勉強しながら、この人が誰なのかを探すんだよ!」


「ま、待って!あたい!そんな所に行く勇気ねぇ!自信もねぇ!」


「お父さんに会いたくないのか?」


「……わかんない」


「どうして?」


「シスルだって知ってるべ?村のおばちゃん達が井戸端でよく話してんの。あたいは、お母さんが無理やり作らされた子どもなんだって!小さい頃はよくわかんなかったけど、お母さんが死んで、あたいも大きくなってから、ようやく意味が理解できた!」


「いや、それはただの噂話だろ……」


「もしもな?もしもこれが本当にお父さんなんだとしたら、お母さんにひどいことしたその人を、あたいは絶対に許すことができねぇ!たとえ、その人の血で、あたいが生まれたんだとしても、あたいはその人を殺してやりてぇ!!」


「そっか……」


次第にまくし立てるように自身の積年の思いを打ち明けたプリムラを見て、シスルも言葉を失った。彼女が密かに募らせていた父親への尋常ならざる憎しみを知り、若干、失望の色も見せながら、彼女のアカデミー行きへの説得を諦めた。


ところが、次に彼女の口から出た言葉は、それとは全く正反対のものであった。


「決めた!!!あたい、アカデミーに行くだ!!」


「え!?」


「アカデミーに行って!お父さんを見つけ出して!お母さんがどんなに貧しくて大変な暮らしをしてきたかを教えてやりながら、ぶっ殺してやるだ!」


「うおぉ、そう来たか」


「シスルも来てくれるよな!あたい、そんな知らない土地に一人で行ける自身ねぇもん!」


急に闘志を燃え上がらせたプリムラから勢い込んでこのように問われれば、シスルとしては悪い気はしない。むしろ、その言葉を待っていたくらいである。


「……お、おほん。プリムラがそこまで言うんなら、仕方がないな。このおれが、ついてってやるよ」


「……本当は自分がめちゃくちゃ行きたかったくせに」


「うるさいな!ウチの親に頼んだって、学費が高すぎるって、聞く耳も持ってもらえないんだぞ!地主の家に生まれたって、そう言われるような場所なんだ!おまえ、今、自分がどんだけ贅沢な悩みを抱えてるか自覚しろよ!」


「ふふーーん。シスルは、あたいのお陰でアカデミーに行けるんだからな。これ以上、あたいに偉そうな口きかない方がいいだべさぁーー」


「う……」


こうして、二人は共にアカデミーに行くことになった。


シスルの両親もプリムラの事情は把握しているため、正直に謎のパトロンのことを説明すると、納得し、アカデミー行きを許可してくれた。


「実の父親がいるなら、是非とも顔を見せてやりなさい」


と、喜んで応援するほどであった。

まさか父親を殺したいと思っているとは口が裂けても言えなかった。



ところで、事ここに及んでなのだが、地主の息子として育ったシスルは問題ないとして、プリムラは字を知らなかった。


せえて読み書きできなければ話にならない。ということから、シスルの家に通って、習うことになった。すると、記憶力のよいプリムラは、半日も掛けずに文字をマスターしてしまったのである。


彼女の隠された才能がハッキリ認知されたのは、この時だった。


ただし、覚えることとそれを応用することとは別問題である。地主の家に保管されていた、わずかな本を借り、1冊を読み切るのに5日は掛かった。それでも、生まれて初めて字を習い覚えたばかりの少女の成長速度としては異例のものであろう。



そうして準備期間に1ヶ月も要することなく、プリムラとシスルは、アカデミーの街へと旅立った。道中、世間知らずのプリムラは何かとトラブルに巻き込まれそうになったが、シスルが常にそれをフォローした。


宿泊代を浮かせるため、宿も同室に泊まったりしたが、きょうだいのように育った二人は、年頃にも関わらず、全く何も起きなかった。



アカデミーに到着し、中央棟で紹介状を見せると、しばらく待たされた。そして、なんやかんやで手続きが終わり、年間で金貨20枚という学費を2人分支払い、彼らは学生となったのである。


紹介された住居は、学生寮という名のオンボロアパートであったが、農村出身の二人には何の問題も無かった。むしろ快適だと思ったくらいだ。



残ったお金は、これまでの旅費と今後の生活費、および文房具代等で消えていくことになる。


二人は、倹約しながら、学生としての日々を過ごしていった。また、訛りの強いプリムラは、必死にそれを克服し、気が高ぶった時以外は、標準的なイントネーションで話せるようになった。


アカデミーは、制度的には、あらゆる国からあらゆる身分を受け入れる自由と平等の教育機関として創設されている。しかし、高額な学費が必要なことから、事実上、貴族家の男女ばかりが集い、平民はほとんどいなかった。いたとしても、それは裕福な商家の者であり、やはり二人にとっては目上の存在である。農村出身の学生など、彼ら以外、存在しなかった。


だが、そうした肩身の狭い思いはしつつも、もともと勉強したかったシスルと学ぶ楽しさを知ったプリムラは、夢中で勉学に励んだ。講義では、率先して最前列の席に座るのが彼らの習慣となった。


学費は1年分しか用意されていないため、彼らは偶然手に入れた貴重な学園生活を無駄にしないよう、寝る間も惜しんで勉強に集中した。当初の目的であるプリムラの父親捜しは、すっかり忘れ去られた。



こうして、あっという間に1年が経過した。


そろそろ次の学費を払わなければ、自動的に退学となる。そう懸念し、焦りが募った矢先である。


ある夜、プリムラの部屋に再び大金の入った袋が投げ入れられた。不用心な彼女は、窓の鍵を閉め忘れていたのだ。


慌てて彼女はシスルを自室に招いた。


「あたいを呼んだ人は……あたいがここに来ていることを知ってるんだ……」


「ますます謎すぎるな。この人……」


困惑しつつも、二人はありがたいと思った。

ただし、今度の袋には手紙は無い。


当面の学費の心配はこれで無くなったが、代わりに疑問は膨れ上がった。


そして、プリムラは新たな決意を固めた。


「あたい、このままじゃダメだと思う。ここに来て勉強の楽しさを知れたけど、これじゃ、いつまで経ってもお父さんを見つけることはできない」


「それはわかるけど、手がかりが一年前の手紙しか無いんだから、お手上げじゃないか」


「ううん。もう一つ、あたいは見つけたよ」


「なんだ?」


「エニシダ教授!」


「は!?」


「あの人って、セクハラ教授なんでしょ?お母さんが望まぬ形であたいを身籠ったんだとしたら、相手がその人ってことも十分に考えられると思うの。どこで知り合ったのかは知らないけど」


「まぁ……確かに一理あるな……」


「ということで、まずはあの人の講義、一緒に受けよ」


「それはいいけど、相手は大神官だぞ?授業内容だって”精霊科学”とか、魔法分野の話なんだ。おれたち、そっち方面は手を付けてこなかったじゃないか」


「何言ってるの。せっかくアカデミーに来てるんだから、新しい分野にも挑戦しなきゃ」


「はいはい……そうだな」


向学心と自身の目的達成に燃えるプリムラに押され、シスルも承諾した。


そうして彼らは、大神官エニシダの講義が開始される時を待ち、それを受講することにしたのである。


僕がアカデミーに通うようになった時期が、ちょうどこの頃と重なった。そして、偶然か必然か、僕たちは出会ったのだ。共にエニシダを追う者同士で。


プリムラが毎朝、いつも急いでいたのは、何としてもエニシダに近づくため、最前列の演壇の真ん前の席を誰にも譲りたくなかったからである。



ところが、シスルとプリムラは、全く予想外の事態に直面することとなった。


ウチの嫁さんに声を掛けられ、僕たち一行と親しくなったものの、それに嫉妬した貴族学生5人組に睨まれ、迫害を受けることになったのだ。


彼らは、改めて自分たちが身分的に底辺の存在である事実を思い知り、僕たちには絶対に近づかないと誓いあった。


しかし、そこから生まれる焦燥感は、シスルとプリムラで温度差があった。


この翌日、ついにプリムラは叫んだ。


「決めた!!!あたい、エニシダ教授の研究室に入る!そこで成果を出して、貴族の人たちを見返してぇ!」


「はぁ!?何言ってんだ、おまえ!!!」


「これ以上、我慢できねぇだ!あたいだけでなく、シスルまでイジメられて、もう黙っていらんねぇ!!」


「ま、待て待て!だからと言って、あの人は論外だ!早まるな!女と見れば見境なく手を出すセクハラ親父だって、専らの噂だろ!」


「だからだ!女のあたいなら、あの人は研究室に入れてくれる!あたいは、これ以上、貴族の人たちに脅える生活を送りたくねぇ!そして、ついでにあの人の正体も探って、あたいのお父さんだったら、殺してやるだ!」


「無茶苦茶だよ!!支離滅裂だ!!!」


「これしか方法がねぇだよ!!!!」


プリムラの決意は固かった。というより、切羽詰まっていた。


イジメを受ける人間が、明日の学校生活に希望を見出せるだろうか。いや、できるはずがない。


アカデミーに来てから1年以上。父親への手がかりを何も得られないまま、貴族家の学生たちから虐げられる状況になってしまい、彼女は今後の学生生活に絶望感を抱いていたのだ。


そこで、再起を図るために、今、考えうる最も手っ取り早い方法を実行しようと言うのである。


しかし、シスルは、半ば自暴自棄になっているプリムラを心から心配し、苛立ちながらも止めようと試みる。


「いや……だからって、おまえ……」


「現状を打破するためなら、お父さんに近づくためなら、今のあたいは、何だってやってやる!!」


「ちょっと待てよ、プリムラ!!そこまで身を削る必要があるのかよ!!!」


「シスルには関係ねぇ!これは、あたいとお父さんの問題なんだから!!!」


この突っぱねるような言い方にシスルも立腹してしまった。

ついカッとなって彼も叫んだ。


「ああ、そうかよ!!!だったら好きにしろ!!」


「するだよ!!!!」


こうして喧嘩別れした二人は、その後、しばらく口をきかなくなった。




「え……それが、二人が喧嘩した理由だったの?」


ここまでの話をシスルから聞いて、若干、唖然としながら尋ねるのは、ウチの嫁さんである。彼らがアカデミーに来た理由と経緯は予想外のものであったが、喧嘩の理由は、なんとなく呆れる部分があったのだ。


ていうか僕も思う。ハッキリ言って痴話喧嘩ではないか。


「うん……だからその……この件に関しては、心配かけて本当に申し訳ない」


「「あははは……」」


シスルが謝罪すると、僕たち一同は苦笑いした。特に僕と嫁さんは、互いの目を見合って、何とも言えない気持ちになる。以前にも、彼らと似たような理由で夫婦喧嘩したことがあるためだ。


そして、これ以降の話は、プリムラ本人からでなければ聞くことはできない。それを理解している嫁さんは、僕が目配せすると、進んでプリムラに頼んでくれた。


「プリムラちゃん……その後、エニシダ教授のとこに行って、研究生になったんでしょ?それからのこと、話せる?」


すると、これまで椅子に座って俯いたままだった彼女は、しっかりと顔を上げて、僕たちに言った。


「あたい……話します。むしろ皆さんに聞いてほしいです。……聞いてください」


シスルの語った過去を真剣に聞き入れる僕たちの態度に、彼女は安心感を抱き、全てを語る決心をしたのである。




プリムラは、シスルと喧嘩した翌日からのことを述懐した。


喧嘩中とはいえ、この日は、まだ講義を受けるのはシスルと一緒であった。お互い、他に親しい人間がいない者同士である。完全に離れることはなかったのだ。


前日に徹夜で準備を整えておいたプリムラは、講義終了後、早速、自分の計画を行動に移した。講義室を出て行った大神官エニシダを一人で追いかけたのである。


「エニシダ先生!!!」


「……なんだね?」


相手が女子学生であれば、無下には扱わないエニシダである。一応は立ち止まり、話だけは聞くことにした。


「これ!今までの講義から考察した、あたいのレポートです!是非、ご一読ください!!」


「ほう……?」


レポートを受け取ったエニシダは、その内容よりも、字体の美しさに関心を寄せた。そして、レポートに目を通すと見せかけて、プリムラの顔とスタイルをマジマジと見つめた。


彼女は、素朴で質素な身なりをしているが、見る人が見れば、宝石の原石のように磨けば光る素質を秘めている。それを見抜いたエニシダは、表情も変えずに答えた。


「では、預かろう」


「ありがとうございます!!」


そして、その翌日。


講義終了後、エニシダが去り際に一言、演壇の前に座っているプリムラに小声で告げたのだ。


「明日は休講の日だ。私の研究室に来なさい」


「は……はい!」


自分の実力が認められたのだと思ったプリムラは、横にいるシスルに向けて、ニッと笑った。それを見た彼は、相当に気分を悪くした。


この日がエニシダの講義7日目であり、翌日の休講日が11月12日である。


つまり、今より3日前、休日のエニシダの屋敷をプリムラは一人で訪れたのだ。


彼女の来訪予定を聞いている使用人は、すぐに彼女を招き入れた。研究室に通されると、そこにいたエニシダは、その老獪な目を細めて言った。


「君のレポートは、なかなかであった。私が授業で語ったことを一言一句、覚えているとは。このような学生には初めて出会った。それほどまでに私の講義を気に入ってくれたのかね?」


「え……ええ!そのとおりです!あたい、先生の研究室に入りたくて!」


プリムラは純粋に自分の能力が認められたことが嬉しかった。この時は、本心で研究生になることを熱望した。


実のところ、彼女のレポートの内容は、理論や考察としては稚拙なものであった。しかし、論述されている言葉の一つ一つが、エニシダの講義内容を丸暗記したように正確に綴られていた。これがエニシダの目に留まったのだ。


「では、君は今日から私の研究室の一員だ。今は他に誰もいないから、君だけのために特別講義をしてあげてもよい」


「あ!ありがとうございます!!!」


この日、エニシダの研究室に入ることが正式に決定したプリムラは、その後、日が暮れる寸前まで、彼の研究の手伝いをしながら、特別講義を受けたりもした。


エニシダが彼女に何かを教え、また褒める時、常に彼は彼女の肩に手を掛けた。プリムラとしても、初日のうちは、多少のスキンシップは生徒として愛されている証拠だと考えていた。


「はぁ!?今、何て言った!本当にエニシダの研究室に入ったのか!!」


帰宅後、寮で出会ったシスルに彼女が報告すると、彼は激怒した。しかし、プリムラもまた逆ギレして言い返した。


「そうよ!やっぱりあたいには才能があるんだって!あの人は認めてくれたわ!」


「なに嬉しそうに言ってんだよ!父親だったら殺すとか言ってたくせに!」


「今は、あの人が恩人よ!あたい、エニシダ研究室で、必ず立派な成果を出してみせるわ!」


「ふざけんなよ!これ以上、あのセクハラ親父のトコに行くってんなら、おれたちの縁もここまでだ!これだけ心配してやってんのに!おれを何だと思ってんだ!」


「大きなお世話よ!!!あたいにはあたいのやり方があるんだから!放っておいてよ!」


こうして二人の仲違いは、完全な決裂へと変わってしまい、この翌日から、二人は行動を共にしなくなった。講義も並んで受けることはなくなった。


その日、ちょうどラクティフローラとシャクヤが、エニシダの講義終了後に彼に挨拶して逃げられ、直後にそれを追いかけて行くプリムラを発見したのである。


プリムラは、意気揚々とエニシダの研究室に赴いた。


自分の力が認められ、農民でありながらも聖職者から褒められることに充実感を覚えていた。


ところが、エニシダの思惑は、彼女の考えるとおりではなかった。


彼の研究室にプリムラが入った途端、エニシダは内側から鍵をかけたのだ。


「…………え」


「プリムラよ。君は本当にいい子だ」


驚く彼女にエニシダが向けた目には、下卑たものがあった。


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