第287話 連邦騎士団
制服を着た騎士に問いかけられた僕は、普通に答えた。
「ええ。そうですよ」
大神官エニシダが殺害された件を聞き、彼らは駆けつけたに違いない。僕の回答で殺害現場がここであると知った4名の騎士はさっさと屋敷の玄関に向かった。
「これはこれは!『連邦騎士団』の皆様、ようこそお越しくださいました!」
彼らの来訪に気づいた執事が、慌てて出迎えた。
先程、僕に尋ねてきた騎士の代表格のような男が、鷹揚な態度で名乗った。
「我は『連邦騎士団』団長、ディエラマである。大神官エニシダ殿が遺体で発見されたと伺った。すぐに通せ」
「はっ!こちらでございます」
彼の名乗った肩書を聞くと、僕は驚いて、つい声を出してしまった。
「え、わざわざ騎士団長が?」
騎士団長ディエラマは、不審げに僕に振り返った。
彼が率いる『連邦騎士団』とは、共和制国家シュラーヴァスティーの首都コーサラに設置されている大統領府の直属の騎士団である。
国内全土の公爵家に仕える騎士たちの中から精鋭のみが選出され、招集された、共和国が誇る最強の防衛騎士団である。
それを束ねる騎士団長が自ら出向いて来るとは。しかも、この短時間でだ。この事実に思わず僕の口から疑問の声が出てしまったのだ。
「失礼だが、そなたは?」
ディエラマは、僕の顔を怪しそうに見ながら問いかけた。
こちらは何もやましいことがないので、堂々と答える。
「『プラチナ商会』の代表を務めております。蓮・白金と申します」
「プラチナ?…………なんと!貴殿があの!?」
「たまたま事件現場に遭遇してしまいまして、今、いろいろと調べていたところです」
「そうであったか……」
僕の名を聞いて、一瞬だけ目を丸くした騎士団長であるが、どうやら僕の名声は彼には効かないらしく、すぐにまた、いかつい顔に戻った。
「かの有名な商会の代表が、なぜこのような場所にいたのかは知らぬが、部外者は勝手な行動を慎んでもらえるかな」
「いえ。現場を荒らすようなことはしていませんので」
「ならば、後ろに控えているがよい。伝統ある我らが騎士団の前では、新参者の商会が売り出す宝珠など色褪せて見えよう」
「はぁ……」
彼は、僕が先に現場を調査していたことが不満らしい。プラチナ商会についても良い印象を持たれていない様子だ。いわゆる古き良き伝統を重んじ、流行には流されないタイプなのだろう。
「……ところで、そなたは、我がいち早くここに到着したことを不審に思っているようだが、何も不思議なことは無い。この度、我らがシュラーヴァスティーの『共和制500年祭』とアカデミーの『学園祭』が合同で開かれるのだが、それにも関わらず、街中では”殺人鬼魔族”の噂が絶えない。ゆえに警備を強化するため、視察に参っていたのだ」
煙たがりつつも、彼は僕の疑問にすんなり答えてくれた。つまり、ちょうどアカデミーに来ていたところに、殺人事件の情報が舞い込んだため、時間を置かずに駆けつけることができたというのだ。
そうしてこちらの疑念を晴らすと、3名の部下を連れた騎士団長ディエラマは、執事に案内されて2階に上がって行った。
僕と桜澤撫子も後からそれを追っていく。
嫁さんと山吹月見が現場である研究室の前に待機していたが、騎士たちが来たのを見て、彼女たちは後ろに下がった。
「こ、こちらでございます……」
執事が、凄惨たる事件現場を指し示した。
すると次の瞬間、なんと騎士団の全員は、何の迷いもなくズカズカと室内に入ってしまった。
まだ一部で乾ききっていない血液を踏みつけるため、事件現場が血の付いた足跡だらけになる。これに僕は呆れ返った。
「おいおい……マジかよ……」
「白金くん、これがこっちの世界の普通なのよ。推理小説だって存在しないんだから。まともな捜査なんて期待しちゃダメ」
「先に現場検証しておいて正解だったな……」
桜澤撫子が僕をなだめるように知らせてくれた。僕としても予想はしていたのだが、実際に現場が踏み荒らされるのを目の当たりにすると、まるで彼らが原始人のように感じられてしまうものだ。
「なるほど。これはひどい……」
遺体の状態を確認した騎士団長ディエラマは、さすがに奇怪すぎる殺害状況を見て、苦い顔をしている。他の騎士たちも不快な表情をしながら、彼に相談していた。
「団長、報告にあった魔族の手口と同じですね」
「世間を騒がせている者と同一犯ということでしょうか」
「うむ。だが、断定するのは早計だぞ。屋敷の者たちに聞き込みをしよう」
一応は彼らなりに捜査はするようで、ディエラマは冷静に分析しつつ、部屋から出てきた。そして、執事に関係者を集めるよう命ずる。
すると、ここで玄関の方から、慌ただしい声が響いて来た。他にも来客があったようだ。
そして、その一団は屋敷内に通され、階段を登り、ガチャガチャと拍車の音を立てながら、こちらに近づいて来た。
「おっと!共和国の騎士団に先を越されてしまったか!」
なんと先頭にいるのは、ラージャグリハ王国の第二王子であった。
これには僕も驚いた。
「ヘンビット殿下!」
「おお!シロガネ卿!なぜキミがこんな所に?」
「たまたま事件当時に居合わせまして……」
「奇遇だな!ボクは、顔の無い遺体が見つかったという報せを受けて、こうして王国騎士団を連れて、やって来たのだよ!それで、”殺人鬼魔族”は見たのかね?」
「いえ。目撃者はいません。鍵のかかった部屋の中に、あの死体があるのを女子学生が発見したんです。僕たちは、その悲鳴を聞いて、駆けつけました」
ヘンビットは、ローズとの求婚勝負のため、”殺人鬼魔族”を追うと宣言していたが、どうやらタイミングよく、この事件の情報を聞きつけ、早々に来訪したようだ。
また、僕の横には、彼との顔見知りがもう一人いる。彼女は気さくに彼に挨拶した。
「こんにちは。ヘンビットくん」
「ん?ナデシコ!?どうしてキミまで!?」
「えーーと……いろいろあってね」
「そういえば、キミたちは昔馴染みとか言ってたな……。なんだ、シロガネ卿、奥方一筋なのかと思っていたら、ローズマリー嬢にアプローチしたり、ナデシコと仲良くしたり、果てはウチの妹とも懇意だそうじゃないか。貴殿もなかなか隅に置けないな」
「いやいや、それは誤解というか……百合ちゃんも怖い目しないで」
何やら、あらぬ誤解を受けているようで、ヘンビットには、僕が相当な女好きであるように見えているらしい。これに反応して、今まで控えめにしていた嫁さんが、嫉妬心を燃やして僕を睨みはじめた。
ところで、第二王子が語ったとおり、彼が後ろに従えているのは、ラージャグリハ王国の『王国騎士団』の精鋭たちだ。ヘンビットは私服だが、騎士団の彼らは戦闘時に備えて鎧を装着している。
その一人は、第一部隊長ソートゥースである。これまで、あまり会話したシーンをお見せすることはなかったが、僕は彼とも知り合いである。
「なるほど。第一部隊の部隊長さんがお出ましですか」
「”聖賢者”殿、魔王討伐の際には、我が部下たちを治療していただき、大変に助かりました。改めて、御礼を申し上げます」
以前は敵対した僕と王国騎士団であるが、魔王デルフィニウムとの決戦後、重傷者たちを治療してあげたことを機に、僕たちは和解している。律儀な第一部隊長は、今もその返礼をもって挨拶としてくれた。
また、その後ろには、第三部隊長コリウスがいた。かつて、僕を”勇者”と決めつけ、嫁さんと一緒に初めて王都に案内してくれた、頭の固い部隊長だ。
「コリウスさん、あなたまで」
「レン殿、ユリカ殿、お久しぶりでございますな。息災のようで何よりです」
彼とも和解は成立しているのだが、むしろ彼自身は昔の恨みなど、すっかり忘れた様子で、フレンドリーに接してくる。以前にも感じたことであるが、とても調子のよい男だ。こちらとしては、ちょっと苦笑いしてしまった。
以上の2名の部隊長の他、彼らの後ろに控えているのは、それぞれの腹心の部下である4名の騎士である。そのうちの2名は、コリウス配下の騎士であり、やはりかつて僕と嫁さんを王都まで護衛してくれた騎士であった。
いずれもレベル30台後半であり、次期部隊長候補と行っても過言ではない精鋭たちである。
そして、コリウスは僕たち夫婦への挨拶が済むと、研究室から出てきた、もう片方の精鋭たちに目を止めた。
「……と、そして、そちらにいらっしゃるのは、『連邦騎士団』団長ディエラマ殿ではありませんか。ご無沙汰ですなぁ」
「やれやれ……コリウス殿、そしてソートゥース殿、こんな場所で再会するとは。ロドデンドロン騎士団長殿は、お元気ですか?」
「ええ。今も意気軒高に指揮を執っておりますよ」
「それは何より」
ディエラマも彼の挨拶に応じた。王国と共和国は友好国であるため、それぞれの代表騎士団は、これまでも何度か顔を合わせる機会があったのだ。
旧交を確かめ合ったコリウスは、直ちに自分たちの上司の名を告げた。
「ご紹介致します。こちらにおわすのは、我がラージャグリハ王国の第二王子、ヘンビット殿下にございます」
後ろに立っているのが王族であると知ったディエラマは、驚いた様子で姿勢を正し、胸に手を当てた。
「これはまた……第二王子殿下でございましたか。このような殺伐たる現場にて、失礼つかまつります。初めまして。我は『連邦騎士団』団長ディエラマと申します」
こうした時、ヘンビットはいつもそうであるが、王族として悠然と応対する。
「噂は聞いていますよ。騎士団長ディエラマ殿。ところで、ボクたちはアカデミーに出没する”殺人鬼魔族”を討伐するつもりでいます。捜査に参加させてもらえますか?」
「それはそれは……わざわざ王国騎士団の部隊長殿までも、お呼びになられて……無駄足にならなければよいですな。では、これから家の者たちに聞き込みをするところですので、ご一緒されますか?」
「もちろん」
若干、棘のある言葉を含めたディエラマであるが、ヘンビットはそれを華麗に聞き流した。こういう点、この第二王子は面白い特質を持っている。自分に都合の悪い言葉は、良くも悪くも耳から通り過ぎるのだ。
甘やかされた王室と権謀術数が渦巻く社交界を生きてきた彼が編み出した処世術なのかもしれない。呑気なヤツだな、とも思うが、幸せな男だな、とも思った。
「あの、ヘンビット殿下、僕たちもいいですか?」
二つの騎士団が移動を開始したので、僕は第二王子に声を掛けた。すると、彼は僕に振り返って、楽しそうに快諾する。
「はっはっは!当たり前じゃないか!キミはボクの大切な友人であり、我が王国が誇る”聖賢者”なのだから!その知恵、拝借させてもらうよ!」
「ありがとうございます」
「ありがと!ヘンビットくん!」
僕だけでなく、桜澤撫子も礼を言った。ヘンビットは、僕と彼女を両サイドに引き連れて廊下を歩くのだが、殊の外、上機嫌であった。
「ああ!それにしても、何たる運命の引き合わせか!”殺人鬼魔族”を追うため、我がラージャグリハの王国騎士団を招集し、いよいよ捜索開始の号令をかけた途端、いきなりコレだ!このボクに悪しき魔族を討てと天が思し召しということではないかね!そう!このボクに!」
「「は、はぁ……」」
僕と桜澤撫子は、それを苦笑しながら見つめるだけである。どうにも、この第二王子は、次男坊らしい気質のお調子者で、自己顕示欲の固まりでもある。有能な兄を持つため、常に比較されて育ってきた彼は、何かにつけて自分の手柄を他人にアピールしたがる傾向があった。
「大丈夫かな、ヘンビットくん……。死亡フラグ立てまくっちゃってるけど……」
「意外とああいう方が生き残るもんだよ。最後まで」
心配して小声で囁く桜澤撫子に、僕は笑いながら異論を唱えてみた。
ともあれ、僕たちは再び応接室に通された。そこで、ディエラマ率いる『連邦騎士団』とヘンビットが従える『王国騎士団』、そして僕たち一行を捜査官として、集合させた屋敷の使用人一同とプリムラに事情聴取を行った。
ちなみにエニシダの屋敷の使用人は、ほとんどが男性であり、侍女は年配の女性が2名いるだけである。後で聞いたところによると、若い侍女は皆、エニシダのセクハラに嫌気が差して逃げ出してしまったのだとか。
この使用人一同から各々の話を順に聞き、事件前後の行動とそれを証明できる人物を洗い出した。
その結果、プリムラがエニシダの研究室に向かった時間以外は、全員に明確なアリバイがあることがわかった。
余談だが、この世界には”アリバイ”、あるいは、それを意味する”現場不在証明”という単語はまだ存在しない。しかし、そうした概念は理解しているようで、冷静に頭を回転させられる人物であれば、慣例的にこうした調査を行っているようであった。
今回の事件の犯行可能時刻は、エニシダ本人の帰宅後から遺体発見までの25分程であることは疑いない。
ゆえに、屋敷内の人物に容疑者がいないのであれば、残るは、外部から侵入した者以外、ありえないことになる。
ひと通りの聞き込みが終わったところで、僕は、さらに騎士団到着前に独自に調べ上げたことを報告した。
犯行当時、現場の扉は閉まっていたことと窓が開いていたことである。これらの事実は血痕の形から、ほぼ断定できると解説した。また、それゆえに外部の犯行である可能性が濃厚であると説明しつつ、窓の外には足跡が見つからなかったことも告げた。
「さすがはシロガネ卿!そんな所にまで目を光らせるとは!やはり”聖賢者”の称号は伊達ではないな!だとすれば、犯人は間違いなく”殺人鬼魔族”だ!ボクは早速、騎士団を伴ってアカデミー内を捜索することにするよ!」
関係者への聞き込みと僕の話を総合し、ヘンビットは早々に結論を下した。そして、立ち上がって宣言し、今にも出立しようとする。
ところが、ここで『連邦騎士団』団長ディエラマが、顎に手を当てて黙考していた状態から、納得したように腰を上げた。その口からは予期せぬ言葉が飛び出した。
「ふむ……なるほどなるほど。では、プリムラとやらよ、そなたは重要参考人として、身柄を拘束させてもらおう」
「「え!?」」
これに僕たち一行は驚きの声を上げた。
名指しされたプリムラは、さも信じられないと言いたげな表情で、愕然としながら震えるように問い返した。
「こ、拘束って……あ、あたいは、どうなるんですか?」
「首都コーサラに連行し、留置場に入れる。後日、裁判を行うので、それまで、おとなしくしているように」
「そっ!そんな!!!」
プリムラは恐怖の声を上げつつ固まった。
ちょっと意味がわからない。と僕は率直に呆れ返った。
重要参考人として連れて行くというのに、なぜ裁判をすることになるのか。それでは、ほぼ犯人扱いではないか。
「騎士団長殿、お待ちください。彼女はただの第一発見者です。なぜ捕らえる必要があるのですか」
我慢ならない僕は、起立して訴えた。
しかし、ディエラマの顔は冷ややかである。
「我は冷静に分析しているに過ぎない。彼女が犯人である可能性を捨てきっていないだけだ」
「よくお考えください。あの殺しの手口は、魔族である可能性が濃厚です。彼女の仕業ではありません」
「レン殿、貴殿もよく考えてみたまえ。巷で噂の”殺人鬼魔族”と同様の手口で人を殺害し、魔族に罪をなすりつけようという輩がいても不思議ではなかろう。むしろ私は、その可能性の方こそ大きいと踏んでいる」
「………………」
予想外の見事な推理に、僕は思わず言葉を失った。実は、そのケースも僕は考慮していたのだが、まさか騎士団長までもが同じ推論を述べるとは思ってもいなかったのだ。
僕が一瞬、沈黙したところで、やはり我慢できなくなった女性が腰を上げた。桜澤撫子である。
「あの、それでも、犯人が窓から侵入した可能性が高いことは、白金くんが調べてくれたとおりですよね?どうして、わざわざ第一発見者の学生を連行する必要があるんですか?」
突如として会話に参加した彼女をディエラマは訝しげに見つめた。そして、若干、見下したような目で尋ね返す。
「……そなたは?」
「こちらの、ある研究室で助手をしています。撫子と言います」
「助手か……。しかも女が口を出してくるとは……」
「それ、今、関係あります?」
「ふん!ならば、そなたの頭でも理解できるように教えてくれよう。レン殿が自ら報告してくれたではないか。窓の下に足跡は見つからなかったと。つまり、外部犯ではない可能性も高いのだ。現場の扉に鍵がかかっていたというのも、そのプリムラとやらのデタラメであると考えられる。大方、農村から出てきた田舎者が、女の逆恨みで大神官殿を殺害したのであろう」
「はぁ!?」
途中までは冷静沈着な分析を行っているかに思われた騎士団長であるが、その言葉は次第に偏見に満ちたものに変わっていった。これに桜澤撫子は激しく憤り、嫌悪感を露わにする。
すると、さらにここで、怒り心頭の嫁さんも黙ったまま立ち上がった。それを不思議そうな目で見るのは桜澤撫子の方だった。
「……百合華ちゃん?」
「撫子、私も腹が立ってんだけど、いい言葉が見つからないの。がんばって」
「あ……ありがと」
こうして『連邦騎士団』団長への反感を抱く者たちが続々とその意思を示したのであるが、当のディエラマは全く怯みもせず、むしろ聞き分けのない子どもに優しく言い聞かせるように、上から目線で持論を述べた。
「そもそも我は、首都コーサラに近く、世界中の知識が集まるアカデミーという都市にわざわざ魔族が出現する、などという絵空事を鵜呑みにするような男ではない。これは人の犯行だ。魔族の噂を利用して、犯人が都合よく殺害方法を模倣したに違いないのだ」
彼は、最初からアカデミーという都会に魔族が出没するという話そのものを疑っていたのだ。
これに僕は反論しようと思ったが、それよりも早く、現実の戦いを知っている王国騎士団から発言する者がいた。第一部隊長ソートゥースである。
「ふっ……どうやら共和国の騎士団は、平和ボケしているようですな。魔族の残忍さと狡猾さをご存じないと思われる」
「なんですと?」
彼から冷笑するように指摘されたディエラマは、不機嫌そうに睨んだ。すると、第一部隊長に同意して、冷ややかな笑みを浮かべるのはヘンビットである。
「そうだね。ソートゥース部隊長の言うとおり。そうして油断していたところを我が王都は、魔族の手によって魔獣に襲撃されるという悲劇に見舞われた。もう同じ轍を踏んではならない。この件は魔族の仕業だ。ディエラマ騎士団長殿、悪いことは言わない。あらぬ嫌疑で国民を罰するのは、上に立つ者として、恥ずべきことだとボクは思うよ?」
なかなかいいことを言ってくれるな、とは思うが、正直、僕としては、どの面下げてお前が言うんだ?とツッコみたい部分もある。僕は彼から無実の罪で斬首の刑を言い渡されたことがあるのだから。
だがしかし、これで自己の見解を覆すようなディエラマではなかった。彼は堂々と第二王子に言い返す。
「いいえ。これは人の仕業です。我の勘がそう言っています」
「ほう。騎士の勘とは、どの程度、当たるのかな?」
「我に関して言えば、百発百中です」
刑事の勘じゃあるまいし、と思いつつ僕は苦笑して見守った。だが、このままでは埒が明かない上にプリムラが逮捕されてしまう。仕方なく僕は、いつの間にか王国と共和国の騎士団による対立に発展してしまった推理対決に割って入ることにした。
「すみません。ちょっと口を挟ませていただきますよ」
「シロガネ卿……」
「レン殿」
ヘンビットとディエラマが共にこちらに視線を移したところで、僕は彼らの意見をまとめた。
「双方の言い分は、現状では、どちらも正しいように思われます。犯人が魔族である可能性もあれば、人間の模倣犯である可能性も否定できません」
「えっ!ちょっと蓮くん!それじゃあ……」
僕の言葉に慌てて嫁さんが反応した。おそらくプリムラを庇うセリフではなかったため、焦ったのだ。しかし、すぐに僕は次のように断言した。
「ただし、プリムラは犯人ではありません」
これに騎士団長ディエラマは、喧嘩を売るような目つきになり、重々しい声で僕に問い返す。
「……なんだと?」
そんな彼に、僕は微笑して悠々と近づいて言った。
「これから、彼女が犯人ではないということを3つの観点で証明してみせましょう」




