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ウチの嫁が最強すぎて魔王すらワンパンなんだが  作者: 東条賢悟
第八章 異世界学園と召喚の真実
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第288話 弁護と証明

僕は、プリムラがエニシダ殺害の実行犯ではないことを『連邦騎士団』団長ディエラマをはじめとした、並み居る面々に説明した。


彼女の無罪は、僕が思いつく限り、3つの観点で立証することができる。


先程から、まな板に乗せられた鯉のように、オドオドする以外、何もできないプリムラの前に立ち、僕は一つ一つ順番に論証した。


「まず、彼女は凶器となる物を所持していません」


この主張にディエラマは見下したような顔で反論する。


「どこかに捨てたということも考えられるがね」


「ならば、それを見つけ出してください。でなければ、あなた方は勝手な妄想で人を殺人犯に仕立て上げる横暴な騎士団ということになりますよ」


「……………………」


僕からの反駁に騎士団長は黙り込んだ。

続いて、2つ目の観点を僕は語る。


「次に殺害方法の技量です」


頭蓋骨があるにも関わらず、顔の部分だけを斬り取るという行為は、並の人間の力量では困難である。しかも切断面は非常に綺麗であった。これを易々と実行するためには、相当な腕前が必要となる。彼女にそれだけの技術はない。


「あの鮮やかな切り口を作り上げるには、相当な鍛錬が必要だと思われますが、騎士の皆さんは、どう思われますか?」


この問いには、剣の達人である騎士たちは同意せざるを得なかった。

そして、3つ目の観点は、明らかな物的証拠である。


「そして、最大の証拠。それは血痕です。もう一度、現場に赴いた上で話した方が、わかりやすいでしょうね。皆さん、ご同行願えますか」


そう。プリムラには全く血が付着していないのだ。この事実を再確認するため、僕は殺害現場であるエニシダの研究室に一同を連れて行った。


大量の血液が飛び散った殺害現場で、犯人は必ず返り血を浴びているはずである。もしも彼女が犯人である場合、服を着替えるだけでなく、入浴する必要もあっただろう。


だが、この屋敷に住んでいるわけでもないプリムラに、それは不可能である。まして、彼女は屋敷の居間で使用人たちとおしゃべりしていることが確認されているのだ。


ゆえに彼女が犯人であるためには、大量の返り血を全て避けながら殺害に及ぶ以外にない。それはありえない話であろう。


僕は、研究室だけでなく、廊下にまで広がっている赤い足跡を指差しながら、ディエラマに問いかけた。


「見てください。先程、『連邦騎士団』のあなた方が、何も考えずに室内に足を踏み入れたため、血の付いた靴の跡でいっぱいです。普通はこうなるんです。ですが、遺体発見時、部屋の床には綺麗な流血の跡しかなかった。犯人は相当に慎重な性格をしています」


こう指摘されて、4名の『連邦騎士団』は、全員が改めて自分の靴を確認した。皆、靴の裏が真っ赤である。


つまり、殺害当時はもっと大量の返り血で、犯人は汚れたはずなのだ。その上で、血を踏まないように留意しながら逃走しているのである。


「床に落ちた血でさえ、こうなるわけです。ましてや犯行当時に犯人が浴びた返り血は、こんなものでは済みません。であれば、当然プリムラの服や顔は真っ赤に染まっているはずなのです」


「………………」


硬直したまま愕然としている彼らに、僕はトドメの言葉を投げかけた。


「ということで、改めて騎士団長殿にお聞きします。彼女が犯人だった場合、この部屋一面に飛び散った返り血をどうやって浴びずに大神官殿を殺害したのか。もしも、その理由があるのでしたら、ご説明いただきたい」


騎士団長ディエラマは顔面蒼白で絶句した。


自分たちの足元には血が付いているのに、犯人と考えているプリムラには一滴たりとも血が付着していない。彼女が犯人ではないことを、彼は自ら立証してしまったのだ。


「……なるほど。では、外部犯という線で我らも捜査を進めよう。お前たち、行くぞ」


汗だくの顔で考え込んでいた彼は、それだけを言って、部下と共に去って行った。僕たちにもプリムラにも、何も告げずに。


実を言えば、ここだけの話、僕の理論にはまだ反論の余地が残されていた。返り血を浴びずに殺害する方法としては、布などで身体を覆い、血を防ぐというやり方があるのだ。だが、そこまでの考えはディエラマにも浮かばなかった。


去り行く彼らの背中を見送りながら、ヘンビットが嘲笑した。


「やれやれ……謝罪の言葉もナシか。では、共和国の騎士団がいなくなったところで、ボクたちも殺害現場を見せてもらおうじゃないか」


第二王子と王国騎士団は、まだ殺害現場と被害者の状況をつぶさに確認していない。そのため、『連邦騎士団』が去った後で、ようやく現場に足を踏み入れた。


一段落した僕は、彼らが入室するのを見守った。


ただし、その直後、ヘンビットの「うぎゃっ!」という情けない悲鳴が聞こえたが。


そして、ホッとした僕の連れたちは、一呼吸置いて歓声を上げた。桜澤撫子は褒め称え、嫁さんは喜びのあまり僕にくっついてきた。


「さっすが白金くん!」


「やっぱ蓮くんだね!えへへぇーー!」


「いや……それほどでもないと思うんだけど……」


僕は謙遜した。おそらく現代人で、わずかでも推理モノが好きな人が、実際に現場状況を目撃したならば、誰でも気づけることだったと僕は思う。桜澤撫子も、おそらくは既に見抜いていたはずだ。しかし、中世に近いこの世界では、このような当然の推理すら、まともにされないのだ。


ヘンビットにしても、ディエラマにしても、彼らは真実を見極めるために思考しているわけではなかった。自分たちの主義主張や思惑があった上で、それに見合うよう、論理展開しているに過ぎないのだ。


このような世界で、何かしらの事件に巻き込まれた場合、自らの無実を自ら証明する力が無い限り、自衛手段が無いことになる。現代社会のように弁護士に頼めばよいということはないのだ。


やはり中世のような時代背景では、人はあらゆる面で生き抜く術を身につけなければならない。モンスターだけでなく、人間を相手にしても。そのことを僕は今、改めて痛感した。


「ガネくん、あったまいいねェーー!あの人たちィ、あんまりムカつくこと言うもんだからァーー、場合によってはワタシがエネルギー吸ってェ、倒しちゃおうかと思ってたんだよォーー」


「……それやったら、本当に魔王だよね?」


山吹月見が感心しながら力任せの意見を述べるので、僕は苦笑いした。


さて、嫌疑を晴らすことができたプリムラは、先程からずっと僕たちに気まずそうな顔を向け、モジモジしている。


一日前、僕たち夫婦に対して声を荒げた彼女である。今さら何と言えばよいのか、言葉が見つからないのだろう。


「あ、あの……その……」


「プリムラちゃん、とにかく連れてかれなくて良かったわね!」


「は、はい……」


嫁さんが明るい声で呼び掛けると、プリムラは暗い表情のまま、わずかに口元を緩めた。感謝の言葉こそ無いものの、その意思は受け取ることができた。



とりあえず彼女の危機は脱することができて一安心である。

だが、実を言えば、腑に落ちない点がまだある。


僕が語ったとおり、殺人犯は大量の返り血を浴びたはずなのだ。そのような目立つ姿で逃げたとすれば、どうやって真っ昼間のアカデミーを移動したのか。仮に布を被っていたとしても、それが現場付近で見つからない以上、犯人が持ち去ったことになるが、やはり大きな荷物となり、人目に付くはずだ。


今も上空からストリクスにこの屋敷を監視してもらっているが、ここから逃走した者も、逆に襲撃してくる者も報告されていない。


ということは、僕たちがここに到着する前に犯人は逃走済みということになるが、やはり血で汚れた姿を誰にも目撃されずに逃げきるのは不可能に思える。


しかし、別の考え方もできる。

相手が魔族であれば、何らかの能力を使用した可能性もあるのだ。


そうだ。能力だ。


この世界には魔法があり、魔族は一人一人が固有魔法を持っている。人間の中にも特異なスキルを身につけた者がいる。


全てを常識の範疇で捉えていては、かえって真実から遠ざかってしまうかもしれない。


「やれやれ……ファンタジー世界での推理って、かなり限界があるね……」


熟考しながら僕が呟いた独り言に、桜澤撫子が笑いながら反応した。


「こればっかりは、最終的には、深く考えても仕方ないって結論になるのよ」


「だよね。能力者相手には推理が意味を持たないってことは、桜澤さんが証明しちゃってるもんな」


「あはは。ごめん」


王都マガダにおける事件では、桜澤撫子の能力と計略に翻弄されることとなった。それを揶揄しての言葉に彼女も苦笑している。



この後、僕たちは、傷心のプリムラを元気づけるため、彼女を連れて、外に出ることにした。


屋敷の庭先に立つと、ちょうどそこに仲間の一人が到着した。


「レン!ニャんだか、面白いことになったみたいミャウね!」


「面白いとか言うなよ……。人、一人死んでるんだから……」


フェーリスが屋根の上を跳び越えながら、やって来たのだ。あまり目立つ行動は避けてほしいものだが。


僕がツッコむ横で、嫁さんが彼女に今までの所在を聞く。


「ていうか、フェーリスちゃん、どこ行ってたの?」


「今日もイケメン猫ちゃんに会えたから、一緒に遊んでたミャウ!試験なんて受けたくなかったミャウ!」


それはそうだろう。と思いつつ、僕は彼女の能力に期待して尋ねた。


「フェーリス、このアカデミー内で、血まみれの人物はいるか?」


「そう思って、さっきから街中の猫ちゃんの目を借りてるミャウ。でも、怪しいのはいないミャウ。ウチのお願いを聞いてもらえないから、隅々まで観察したわけじゃないけどミャウ」


「いや、それだけでも貴重な情報だ。ありがとう。やはり今回の犯人は普通のヤツじゃないな……」


そうしてフェーリスからも情報を得ることで、得体の知れない犯人像だけが浮き彫りになった。



さらに、ここで僕が呼んでおいた仲間たちが合流した。


「お兄様!」


「ラクティ、みんな、無事だったか」


敵が魔族であった場合を想定し、万が一を考えて、嫁さんのいるこちらに向かってもらったのだ。ラクティフローラ、シャクヤ、ダチュラ、カエノフィディア、ルプス、そして牡丹である。


「ママーー!」


「牡丹、一緒にお昼食べられなくて、ごめんね」


我が娘は、真っ先に嫁さんに飛びつき、抱っこされた。

王女はアカデミーの様子を僕に伝えてくれる。


「エニシダ教授が殺害された件が、いっきにアカデミー内に広がりまして、午後の授業は全て臨時休講となりましたわ」


「この街の情報伝達は早いな……」


彼女の報告を聞き、僕はこの街の噂の広がりに感嘆する。すると、僕たちの背後にいる魔王二人にシャクヤとラクティフローラが順番に気づいた。


「まぁ!ブーゲンビリア様!」


「あ、お姫様二人ィ!おひさァーー!」


「ナデシコさんまで!」


「ども」


帝国におけるドラコ村の一件で、桜澤撫子と山吹月見の顔はよく知っている王女たちである。思わぬ再会に驚いていた。


また、さらにラクティフローラにとっては、身内も近くに来ている。第二王子が玄関先に姿を見せると彼女は変な声を出した。


「えっ!ヘンビット兄様?」


「おお、ラクティ!このアカデミーでお前に会えるとはね!ピアニーちゃんも一緒か!」


王都で出会って以来の急な再会に、異母妹のラクティフローラも、公の場で彼をフッてしまったシャクヤも、苦笑いしながら挨拶していた。


「それで、お兄様、殺されたエニシダ教授は、どちらに?」


若干、賑やかになった玄関先から、屋敷の中に皆を案内すると、僕に向けてラクティフローラが尋ねた。それを実の兄であるヘンビットが自分に問われたのだと勘違いし、進んで回答した。


「こっちだよ。あのままでは浮かばれないから、彼の寝室のベッドの上に運んでおいた。憐れな遺体にはシーツを掛けておいたよ」


エニシダの寝室も2階にあり、そこに移動したと言うのだ。この時、僕はやはり現代的な観点から、桜澤撫子に疑問を投げかけた。


「あの遺体は、これからどうなるのかな?」


「たぶん普通に葬儀に出されて埋葬されると思うわ」


「だよね。司法解剖なんてあるはずないよね……」


「白金くんが宝珠システムで記録してるんでしょ?なら問題ないんじゃない?」


「うん。まぁね」


そうして、僕たちが通されたエニシダの寝室は、それなりに整頓された部屋であった。使用人が普段からしっかりと掃除しているらしい。そのベッドの上に変わり果てた姿のエニシダが仰向けに寝かされ、シーツを掛けられている。


また、ここに来て現実の厳しさを感じたが、シーツの上をコバエが盛んに飛んでいる。死骸から発する異臭に釣られて集まっているのだ。ラクティフローラとシャクヤがそこに静かに近づいていく。


「ご遺体を拝見してもよろしいでしょうか?」


王女が執事に尋ねた。だが、これには僕が反対した。


「え……二人とも見ない方がいいよ?」


「わたくしたちだけ蚊帳の外に置かないでくださいませ。これでも王国一の才女と言われているのですよ?」


「そういう問題で言ってるんじゃないんだけど……」


どうやら完全に興味本位で見たがっているようである。殺人事件の遺体というものをどうしても見たいラクティフローラは、シャクヤと並び立って、僕の制止も聞かずにシーツをめくった。


「「きゃあぁーーーーっ!!!!」」


その途端、あまりのグロ死体に二人の美少女は跳び上がらんばかりに驚愕し、泣きそうな顔で僕に抱きついてきた。


「だから言ったのに……」


「んもう……今回ばっかりは私も許してあげる……ホントに怖いもんね……」


両サイドから僕に抱きついている彼女たちを、嫁さんは牡丹を抱っこしたまま、呆れながら見ている。先程、魔王二人に抱きつかれた時もそうだったが、さすがにこのケースだけは嫉妬深い嫁さんも同情しているらしい。


そして、合流してからずっと僕の後ろについて来た忠犬が、ここで尋ねてきた。


「バウアウ、ガルル?(レンさん、オレはどうすれば?)」


「ルプス、すまないが、あの遺体のニオイを嗅いでくれ」


「ガウア!(了解です!)」


このやり取りを見た桜澤撫子が、納得したように手を叩いた。


「そっか!ルプスくんの能力なら、エニシダ教授の過去24時間を追跡できる!それを使って、正確な足取りを掴むのね!」


「ところが、今のルプスは残念ながら、その能力を完全に使えないんだ。この学園にいるうちに能力が鈍ってしまったらしくて」


「えっ!?」


「でも、彼の鼻は利く。これから彼と一緒に屋敷内を回って、遺体のニオイが他にも付着していないか、確認したい」


「なるほど。まだ遺体の身元を疑っているわけね」


ということで、僕はさらに念のための調査として、エニシダの執事に頼み、屋敷内をくまなく探索させてもらった。ルプスを連れて、逐一、ニオイの有無を確認するのである。


さらに、効果範囲の狭まっている宝珠システムのレーダー解析も駆使し、半径10メートル以内の生命反応も細かく見て回った。


その結果、誰かが屋敷内に隠れ潜んでいるという事実も無いことがわかった。


そして、ルプスはこう証言してくれた。

長いので狼言葉は略させてもらおう。


「死んでからの異臭もあり、正確なニオイは追えませんが、寝室をはじめ、この屋敷中から彼のニオイがします。普段から、ここに住んでいたことは間違いありません」


これに桜澤撫子が結論付ける。


「……だとすれば、あの遺体は、エニシダ教授ってことで、ほぼ断定できそうね」


「そうだね」


僕も相槌を打った。



さて、これにて僕が調べておきたかった事柄は全て確認できた。


満足して玄関から外に出ると、驚く光景を目の当たりにした。


事件を聞きつけた野次馬が、屋敷の周囲に殺到していたのだ。学生だけでなく、アカデミー関係者や街の住人が、一斉に押し寄せ、ごった返している。


屋敷の庭には、憔悴しているプリムラを心配して、ダチュラとカエノフィディアが付いていてくれたのだが、さすがに衆目を集める事態に戸惑いの色を隠せない様子であった。


「レン……なんだか大変なことになったよ」


男装中のダチュラが困惑しながら僕に相談してきた。

僕もこの状況は予期していなかったため、仕方なく引き返すことにした。


「もう一度、屋敷に入らせてもらって、人が引くのを待とう」


ところが、その時だった。


「プリムラ!!!」


人混みを掻き分けるようにして突破し、シスルが姿を見せたのだ。


「シスル……」


彼の顔を見た途端、これまで黙り込んだままだったプリムラは目を大きく見開き、涙を浮かべた。そして、彼の胸に飛びついた。


「う……うぅっ……うわあぁーーーーん!ああぁーーーーん!!!」


「どうしたんだ?何があったんだ?エニシダ教授が殺されたって話なんだが、おまえは何か知ってるのか?」


シスルは細かい事情を知らない。ただ、エニシダ殺人事件の噂を聞き、ここに通い詰めているプリムラを心配して走って来たのだ。


僕は、彼なら話を聞けると思い、声を掛けた。


「やぁ、シスル」


「え……レン?」


ここに僕がいることを初めて知ったシスルは、一瞬、目を丸くした。しかし、次第にその目つきは厳しいものに変わっていき、迷惑そうな声で尋ねてきた。


「…………どうして皆さんが……ここにいるんですか?」


「偶然、彼女が遺体を発見した時に居合わせたんだ」


「そうですか。それはどうも。では、おれはこいつが心配なんで、連れて帰りますね」


「えっ!ちょっ!待てよ!」


彼は、プリムラを連れて、さっさと人混みの中に入っていってしまった。群衆の関心は遺体の状況にあるようで、彼らのことは無視された。


あまりにも、ぶっきらぼうなシスルの態度に、僕は落胆した。


しかし、今のプリムラを放っておくことはできない。彼女は自暴自棄になっているように思えるのだ。


僕は、庭先で虫と戯れている猫耳魔族に頼んだ。


「なぁ、フェーリス、すまないが、彼らを尾行してくれ。何かあったら心配だ」


「あんな失礼なヤツら、ほっとけばいいミャウよ?」


「そんなこと言うな。彼らは僕の友達なんだ」


「しょうがないミャウね!」


あまり乗り気でなかったフェーリスであるが、重い腰を上げると、途端に素早い身のこなしで群衆の間をすり抜けて行き、目立たない位置から跳躍して、軽々と建物の上に飛び乗った。


現在、屋敷周辺の怪しい動きを監視させているストリクスを除けば、彼女以上に身軽な仲間はいない。


多少の不安はあるが、僕はプリムラとシスルのことをフェーリスに任せることにした。




一方、エニシダの屋敷から逃げ去って来たシスルは、手を引いているプリムラに盛んに問いかけていた。


「プリムラ……何がどうなってるんだよ?エニシダが死んだとか……おまえは何も関係ないよな?」


「………………」


「どうして何も答えてくれないんだ?そりゃ、この前はちょっと喧嘩しちゃったけど、それとこれとは話が別だろ?」


「………………」


「おい!何とか言えよ!」


「………………」


何を言っても、下を向いたまま、だんまりのプリムラに、シスルも次第に苛立ちを見せる。


気がつけば、あれほど騒がしかった人通りが途絶え、いつの間にか、誰もいない通りに彼らは来ていた。街の住民がエニシダの屋敷に見物に行っているので、逆にその周辺は閑散としているのだ。


ついには足も止めてしまったプリムラに、シスルは苦々しい顔をして立ち止まった。だが、あまりにも情緒不安定に見える彼女を不憫に思い、もう一度、優しく声を掛ける。


「プリムラ……本当に何があったんだ?やっぱりエニシダに何かされたのか?」


すると、彼女は再び目に涙を浮かべ、震える声で答え始めた。


「シスル……あ、あたいね……あたいはね……」


ところが、その時だった。



「なぁ、そこのお二人さん。まーーた、やらかしたみたいだな」



彼らの後方から聞こえた声にゾクッと身震いし、シスルとプリムラは恐る恐るその方角を見た。


「「え…………」」


そこに立っていたのは、バジルをはじめとした5人の貴族学生だった。

皆、憐れむような目で二人を見つめ、ニヤニヤしていた。


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