第2話 姉ちゃんは宇宙人
それから数時間。
目が覚めると妙にスッキリとしていて、かわりにペットの二匹が瀕死の重傷だった。
母ちゃんは急いで動物病院に向かい、二匹は命に別状はないものの様子見で入院することになった。
そして残された僕と姉ちゃんは、向かい合っていた。
金髪碧眼、アンティークドールのような完成された美少女がそこにいた。
エルフとか、人工生命体とか、なんかそっち系の異常なまでの美しさなのだ。
どうみたって黒髪でへいへいぼんぼんの僕の血筋ではない。
断じて違う。
しかし誰もそれを疑問に思わない。
母ちゃんなんて「ふふふ、遺伝子がいいのね」なんて言っているからたちが悪い。
姉ちゃんは母ちゃんの自慢らしく、ことあるごとに言いふらし、たまーに芸能事務所に勝手に写真を送ったりしているらしい。
そんな美少女の姉ちゃんだったが、それにも限度がある。
鼻水を垂れ流し、目は腫れぼったく充血してるし、セミロングの髪の毛はクシャクシャだ。
「姉ちゃん、ようか」
「だから違うんですってば。タマルくんの意地悪ぅ」
つんつんと、姉ちゃんは俺の脇腹を突き始めた。
「私は妖怪じゃなくて、宇宙人です。貴方に会うためにここ地球に来た、超天才科学者の宇宙人で、その、あの……貴方のお嫁さんなんです」
数時間前までは恋人と言っていたのに、気づけばお嫁さんにランクアップしていた。
なんだろう。
放置ゲームと一緒で時間経過で報酬が増えるのだろうか。
姉ちゃん→恋人→お嫁サンバ⋯⋯なら次は元旦那とか?
まぁ姉ちゃんが報酬として見合うかどうかは議論の余地がある。
「お嫁さんの話は置いといてだよ、姉ちゃんって、宇宙人だったんだ」
「あら、意外ですね。信じてくれるとは思っていませんでした」
「え、だって姉ちゃんおかしいし」
「おかしいって……ぽっ」
何故か姉ちゃんは顔を赤くした。
ホント訳がわからない。
そしてそれから姉ちゃんの話を根気強く聞くと、どうやらこういうことらしい。
姉ちゃんは宇宙人で、恋人が死んでしまい、その転生体をおって地球に来た。
そしてそれが僕、天地タマルだったのだが、僕はなにも覚えていなかった。
「だから子供の頃から私の魅力を刷りこんでデロデロに……じゃなくてですね、お姉ちゃんプレイもし……じゃなくて、タマルが大人になるまで見守ろうって思って、家族のふりをし始めたんです。協力者としてポチ丸とタマ吉を本人たちの了承の元、改造を施したりもしました」
「あぁ、だから喋れるのか。それじゃあの踊りは?」
「あれは二匹の能力ですね。対象者の心身を設定した状態に近づけるものでして。風邪を治すことも出来るわけです」
「洗脳も?」
「私を大好きだった頃のタマル君の心にもどすだけですよ」
姉ちゃんは満面の笑みを浮かべた。
中身を知らなければ、きっと十人中八人が恋に落ち、残り二人は邪悪さを感じ取って何が何でも討伐したくなるような、魅力的な笑みだった。
その微笑みを前にして、僕の鼓動は早まった。
まるでモンスターをハントする狩人のように、鼓動と反比例して心は凪いだ。
そこには怒りも、悲しみも、何もない。
ただ目の前のモンスターをハントしなければならない。その一心が、病み上がりの僕を突き動かしていた。
その瞬間――僕の体に変化が起きた。
身長は伸び、肩幅がひろがり、筋肉が満ちる。そして体の奥底から、今まで感じたこともないような力が湧き上がってきた。
ほとばしるスパーク、体を覆う白いマナ、異空間から現れたグローブ。
きっとこれが僕の前世の力なのだろう。そしてこれが僕が前世から受け継いだ意思に違いない。
そう確信出来た。
「た、タマル君!も、戻ったんですね!あぁ、あぁ、あぁやっぱりかっこ……」
「ダッセイ!!!」
掛け声と共に、突き出た拳から放たれた白いマナが、巨大な球体となって姉ちゃんを吹き飛ばした。
それは白い軌跡を描きながら壁を突き抜け、外へ――宇宙へと駆けていく。
邪悪は滅びた。
そして僕は、穴の空いた壁を眺めつつ、パタリと倒れた。
∞
「ただいまー、タマル君、お姉ちゃんですよー」
それから二時間後、姉ちゃんが家に帰ってきた。
風邪が再発して寝込んでる僕の脇で、ツヤツヤの頬をさすりながら「えへへ、昔みたいにじゃれてくれて、私すっごく嬉しかったです」とのたまった。
どうやら僕の常識と、姉ちゃんの常識は違うらしい。
宇宙まで吹き飛ばす関係は、恋人ではない。絶対。
そうして僕は姉ちゃんの正体を知り、姉ちゃんが危ない人間だと深く理解して、そのまま眠りについた。
これが全て夢でありますように。
そんな儚い願いをいだきながら。
まぁ、夢じゃなかったんだけど。
姉ちゃんには妄想癖があります。




