第1話 姉ちゃん(偽)現る。
気づけば、僕には姉ちゃんが出来ていた。
両親が作ったわけでもなければ、養子に迎え入れたわけでもない。
ある日突然、湧いて出たのだ。
そのことを、家族の誰も不思議がらなかった。
まるで僕が生まれる前からいたように、自然と姉ちゃんは家族の中に溶け込んでいた。
写真から動画に至るまで、物的証拠すら揃っている。
おかしいといくら僕が主張しても、「反抗期が来たのね!」と母は喜び、「そうかそうか」と単身赴任の父は取り合ってすらくれない。
結果、僕はたった一人、その正体不明の姉ちゃんと対峙するしかなかったのだが……
「えへへへ……タマル君、将来はお姉ちゃんと結婚しようね」
……姉は極度の変態だった。
まだ小学五年生になったばかりの僕のベットに入り込み、毎晩僕の脇で息を荒くするし。
僕が女友達と遊んでいるだけで、まるでハムスターみたく友達を威嚇をしてくる。
まぁ全然怖くはない。背も僕と変わらないし、小動物みたいだし。
それでも正体不明な人物ということに変わりはない。
なのだが……どうもここ最近、僕の警戒心は少しずつ薄れてきていた。
そしてその日、僕はその原因を、偶然発見した。
いや、してしまったんだ。
∞
その日、僕は風邪を引いて学校を休んだ。
姉ちゃんは「タマル君のお世話は私がします!」と勢い良く立候補したが、母は「だめよー」と間延びした声で姉ちゃんを高校へ送り出した。
母はおっとりした口調ではあるものの、やたらと頑固でそうそう意見を曲げることがない。
それを知っていた姉ちゃんも「……せめて早退させてください」と土下座した。
結果、午前中は母が、午後は母が外出、姉ちゃんが僕の面倒を見ることになった。
当事者にも関わらず僕の意見は一切通ることはない。
僕の家は女性が強い家なのだ。
もちろん頂点は母ちゃんで、一番下は父ちゃんである。ちなみにペットのポチ丸(犬)とタマ吉(猫)は父ちゃんよりも上だったりする。
まぁそうしたわけで、僕はベッドで寝ていたわけだ。
軽い口調ではあるものの、正直なところ、かなりの重症だった。
熱は39度を超えていたし、天井はぐるんぐるん回っていたし、ポチ丸とタマ吉は踊って見えた。
もう一度言う。
☆D☆A☆N☆ス☆してた。
「???」
薄く目を開けると、二匹が布団の上で奇妙な踊りを踊っていたわけである。
ソーラン節と阿波踊りとタップダンスを合わせたような、そんな不思議な踊りだった。
それを寝込んでいる僕の布団の上でするのだから、当然のように起きた。
どうやら彼らは僕が目を覚ましたことに気づいていないらしく、踊りをしながらも《《会話を続けていた》》。
「タマ吉さん、これほんとに効果はあるのですか?」
「まぁルッカの姉ちゃんが作った発明品を使ってるんやから、効果あるんちゃう?体が治るついでに洗脳されるみたいやけど」
「ならいいのですが」
「心配なんか?」
「私達の子供みたいなものですしね。このタマル君は」
どうやら僕はペットの子供枠だったらしい。
喋っているのもたいがいだが、それ以上に僕はこの事実に衝撃を受けていた。
餌をあげているのも、散歩をしているのも、全部僕だ。
いや、確かに兆候はあった。
タマ吉はやたらと僕の服を掴んで寝床につれてこうとするし、ポチ丸はしょっちゅうグルーミングをしてくれる。
正直、父さんより僕のことを気遣ってくれているような気さえする。
しかし、だ。
僕は二匹が子犬と子猫だった頃から世話をしてきたのだ。
気持ちとしては兄貴!みたいに思っていた。
考えても観てほしい。
近所にかわいい妹っぽい子がいて、裏で「タマルは全然駄目なんだよねー、私がいないと」というのだ。
……悪くないかも。
いやそうじゃない。そうじゃないんだ。
その子が裏で「私がママなの。ふふふ」というのだ。
……わるくない。
ちょっと異次元への扉を開きかけた僕だったが、ともかく納得がいかなかった。
だから少しだけ体調が良くなるタイミングを見計らい、ガバっっと跳ね起きた。
「僕はお兄ちゃんだぞ!長男だからこんな病気にだって耐えられるんだ!僕はおに……」
そこで力つき、僕は二匹を巻き込んでうつ伏せに倒れ込んだ。
朦朧とする意識。
暗くなる視界の端で――僕は見た。
「タマル君……しんじゃ嫌ですぅぅぅぅぅ」
鼻水を垂らしながら壁から上半身を生やす姉ちゃんの姿を。
「ね、ねえちゃんって……ようかい……だっ」
「違いますぅぅぅぅうっぅぅぅ、私はたまるの恋人さんなんですぅぅぅうぅぅ!」
勢いだけです。すいません。




