第4話 ◆酔いどれ騎士、二人。
夜、家に帰ると父が酒を飲んでいた。
誰か来客があるらしかった。
「――騎士団の団長様ですって。」
二人にウルリックの帰宅が気づかれる前に、
姉がそっと教えてくれた。
居間の方から、
男性の大きな泣き声が聞こえてくる。
どうやら、泣き上戸らしかった。
騎士団入団を断ったウルリックを引き留めに、
やってきたそうだ。
帰りを待つうちに、二人で酒を飲み出し。
――こうなったらしい。
「……迷惑をかけます。」
「ほんとよ。」
姉も母も、疲れた顔をしていた。
「気づかれる前に、部屋に入っちゃいなさい。」
母は眉間に皺を寄せながら、
手の甲をひらひらと動かす。
これ以上ややこしくなる前に、
ウルリックに隠れて欲しいようだった。
「アンタの選択、間違いじゃないと思うわ。」
母は、苦笑していた。
「……どうも。」
「ほんと、愛想のない息子だこと。」
母は父に呼ばれ、追加の酒瓶を運んで行った。
静かに階段を登った先に、ウルリックの部屋があった。
昨日壊された扉は、簡易的に修理してある。
だが、またすぐにでも壊れそうな様子だ。
音がしないようにそっと開き、中に入る。
鍵はまだ壊れていた。
「……早く家を探さないと。」
安心できない。
ウルリックは懐から、
折り畳んだ書類の束を取り出した。
『エーレンベルグ家侍従雇用契約書、及び雇用契約内容について』
机に座り、改めて契約書を広げる。
雇い主――
エーレンベルグ家当主。
エイモン・エーレンベルグ。
月々の基本給。
住居に関する補助。
勤務中の食事。
衣類に関する必要経費。
移動に関する必要経費。
業務上の負傷・疾病に関する治療費及び補償。
その他……職務内容に応じて特別手当。
「……すごいな。」
基本給だけでも、思っていた以上の額だった。
さすが、王弟家エーレンベルグ。
そこだけは父に感謝しよう。
「怪我の補償まであるのか。」
手厚すぎる。
……侍従だぞ?
しかも、衣類に関する必要経費の項目。
今日の採寸は、このためだったのだろう。
『君、辞められないでしょ?』
エドリックの言葉は少し引っかかったが。
確かに――これは辞められない。
安心、安全、安定。
契約書を見る限りでは、全て完璧だった。
しかも、特別手当もつくらしい。
これだけあれば。
妻と子と、
家族三人で生活することも安心だろう。
「…………。」
だが何故だろう。
面接当時のことを思い出し、
ウルリックは少しだけ不安になってきた。
『基本の給金は王弟家から出そう』
『その他は僕から』
……エドリック様が、特別手当を出すのか。
……なぜ?
「……あの人、性格悪そうだな。」
ウルリックは、呟いた。
何というか。
――じわじわと囲われている気がする。
「――ウルリック!!」
その時、階下から大きな声が聞こえた。
姉だった。
「逃げて!!」
必死な叫びだった。
逃げる?
呆気に取られた瞬間。
どんどんどん!!
バン!
――直したばかりの、扉が壊された。
「ウルリックぅぅぅー!!」
「待ってたのにぃぃぃ!!」
「騎士団に来い!まだ間に合うぅぅ!」
ウルリックの部屋に、
二人の酔っ払いが雪崩れ込んできた。
「あなた!いい加減にしてください!!」
「だってぇぇーー!ファルクの後継がぁぁーー!!」
団長どころか。
父までも、おいおい泣いている。
二人の騎士は母と姉に引っ張られるが、
体格に差がありすぎて全く歯が立たない。
大きい。
うるさい。
酒臭い。
ウルリックは、契約書へ視線を戻した。
安心。
安全。
安定の王弟家。
「…………。」
やっぱり、
騎士団を選ばなくて良かったと思う。




