その8 父の正体
「見てもらった方が早いな。ギノ、あれ持ってきてくれたか」
察したように、ラトスが顔を上げて双子の一人に目を遣った。「はい」と返事をして、ギノがすぐに何やら紙に包まれたものをテーブルに置いた。
「何ですか」
「セラディ・ソーサラーズに長いこと保管されている写真だ。えーと多分……三百五十年前、くらいか」
ラトスがそう言って、包まれていた紙を開くと、トレイほどの大きさがある額が出てきた。ガラスが入った立派な額で、中には一枚の写真が収められている。
「え、三百五十年前?この写真が?」
カイアが思わず、というように立ち上がってテーブルに身を乗り出した。カイアとルシアも、この写真を見るのは初めてらしい。二人とも興味深そうにまじまじと目を見開き、写真を眺めている。
何をそんなに驚いているのか、一目見れば明白だった。写真が、きれいすぎるのだ。アリアは、ややぼんやりとした目で、それを眺めた。どんなインクを使えば、そしてどんな紙を、どんな印刷機を使えば、こんなまるで目の前にいるかのような写真が作れるのだろう。美しい光沢、かすれてもぼやけてもいない光の中の一瞬を切り取ったかのような一枚。
「ほんとにそんなに昔の写真なんですか」
写真は何かの式典を写したもののようだった。黒っぽい堅苦しい服装の男女が五人、写真中央に並んで立ち、作り物めいた笑顔を浮かべている。彼らの足元には、何か読めない文字の書かれた看板が横置きされていた。
「地球で撮られた写真だ。おまえら、さすがに地球は分かるよな」
「それは分かりますけど、こんな高度な技術があるなんて知らなかったです。今のオズじゃ、絶対無理ですよね」
セイアがまじまじと写真を見つめながら呟いた。
地球は、オズと交流があった国だ。正確には地球は星なので、細かいたくさんの国に分かれていたらしい。だが、とにかくそれははるか昔の話で、すでに地球人類が滅んでから三百年以上の月日が流れている。
魔術師だけがワープを使って行き来をすることができたらしい、魔術師たちが長い期間交流を深めることによって様々な地球の文化がオズにも入り込んでいるらしい……アリアが分かるのはそれくらいだ。
確かに、地球で書かれたとされる本なども、オズにはたくさん存在する。アリアが今現在愛読しているミステリー小説も、地球のイギリスという国で書かれたものだ。そういったことは何となく知識では知っているのだが、いざ「これが地球で撮られた写真だ」と眼前に見せられると、どうにもピンとこない。この一枚の写真だけで、オズとの文明の差は歴然だ。
進んだ技術とはこういうものなのか。これはもしかすると、魔法なんかよりずっと、価値のあるものなんじゃないだろうか。
「この写真、中国ですか」
カイアが妙に自信ありげにラトスに聞いてきた。するとラトスがそれに答えるより早く、写真を凝視していたセイアが反応した。
「違うと思う。漢字が目立つけど、ここ……目立たないけどこの文字。これは、中国では使わない。多分、日本だと思う」
ラトスは「そうだ」と頷き、写真の中央を指差してアリアの方を向いた。
「真ん中にいる男、おまえにそっくりだろ」
アリアはその男性を凝視した。似ている、気はする。だが「そっくり」と言うほどかどうかは、自分ではよく分からない。
「この人が、俺の父親の……祖先、てことですか」
目の前の写真は動き出しそうなほどに鮮明だが、何しろ三百五十年前の代物だ。話の流れを考えても、これが正解のような気がした。写真の男は長めの黒い髪をゆるく結んでおり、微妙に耳が髪に隠れて、尖っているかどうかまでは確認できない。だがおそらく、彼は魔術師なのだろう。
地球の日本人がワープでオズへやってきて、この地へ留まり、子孫を残した。何かは分からないが、強大な力を持っていて、その力をアリアの父親が受け継いだ。だから、その子どもであるアリアも特別扱いされる。そんなところだろうか。
だが、ラトスはだるそうに首を横に振った。
「それなら分かりやすかった、とは思うがな。そうじゃない。―――――これは、スバル本人だ」
おまえの父親だ、と言われ、アリアはよく分からないままに写真の中の男性を見つめ、その後ラトスを見返した。
「どういうことですか。だって今、三百五十年前だって」
「そうだよ。その時代から生きていて、地球からオズへ渡ってきた。俺が最後に会ったのは、十五年くらい前だ。この写真と同じ姿だった」
淡々とそこまで話したラトスは、そこで一瞬黙り、テーブルを囲む一同の顔を見回した。そして彼は、どこか感情の抜け落ちたような表情のまま、言葉を続けた。
「分かるか、スバルはな。不老不死なんだよ。今も多分、どこかで生きてる」
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