その6 神魔候補たち
その時ふいに扉が開き、もう一人部屋に入ってきた。
「すみません、遅くなりました!」
その姿を見て、アリアとセイアは「あれ?」と同時に声を上げ、同時に窓際に目を遣った。そこには、先ほどゼノ・ディオンと名乗った銀白色の髪の少年が佇んでいた。視線を動かして入口を見ると、今しがた部屋に入ってきたばかりの少年と目が合う。……同じ顔をしている。髪の色も同じ、紅い瞳も、背丈も同じ。ついでに制服も同じ。
戸惑っている二人に向けて、部屋に入ってきた少年はにこりと笑った。
「初めまして、セイア様、アリア様。ギノ・ディオンです。そっちのゼノとは、一卵性双生児なので、最初のうちは区別がつきにくいかもしれませんが」
「あ……双子かぁ。今まであんまり周りにいなかったから、びっくりした」
アリアは正直な感想を述べた。セイアも隣で頷いている。
「あ、でも、分かりにくいっていう人が多いから、特徴付けてるんですよ!髪長めで縛ってる方が俺、ゼノです!短いのがギノ兄です」
「そう、そんで付け加えるならうるさいのがゼノで落ち着いてるのがギノ」
「いや待ってラトス様、ひどくないですかその比較!」
きゃんきゃんと吠えるゼノは相手にせず、ラトスは紅茶を配り終えた栗色の髪の少女に向けて軽く片手を向けた。
「後はおまえさんだけだ、ソフィア。自己紹介してやってくれ」
少女は驚いたようにひゅっと背筋を伸ばし、二人の方を見て目を瞬かせた。
「あっ、はい!初めまして、ソフィア・レアルといいます!よろしくお願いします!」
アリアもセイアも「よろしく」と返しはしたものの、このメンバーが一堂に会している理由が今ひとつ分からないままだった。分かるのは、ラトス以外の少年少女は二人と同年齢くらいだろう、ということくらいだ。強いて言うなら、アリアが一番年下かもしれない。
「なんか、二人ともピンときてないみたいだけど。ラトス様、ちゃんと説明したんですか」
カイアが面白くもなさそうに指摘した。それに対し、ラトスは肩をすくめて答えた。
「一応、うちに入会するってことは話したぞ。それ以外の説明はこれからだな」
「え、どういうことですか。セラディ・ソーサラーズに入会して、専属の学校に入学するんですよね。それ以外に何かあるんですか?」
アリアの隣で、セイアが驚いたように声を上げた。確かに、ラトスからはそこまでしか聞いていない。
「まぁ、基本はそうだが、おまえらはただの学生じゃなくて、肩書付きで入学してもらう。アリアは翠魔候補、セイアは青魔候補という肩書でな」
「えっ‼」
驚いたが、何か問いただそうとするアリアに先んじて、更にもう一人部屋に入室してきた。また初対面か、と一瞬アリアは身構えたが、今度はよく知っている人だった。
「悪いラトス、遅くなった。お、来てるな二人とも」
シンシアだ。ところどころに三つ編みを施した金褐色の長い髪と、メロン二つ分ほどありそうな豊かな胸を揺らしながら部屋に入った彼女は、アリアとセイアの頭をぽんぽんと軽く叩いて二人の後ろを通り過ぎ、入口から一番遠い席に座った。
「で、どこまで話が進んだの、私がいない間に?」
「……まだ話し始めたばっかりだよ。おまえらは神魔候補だ、って伝えたところだ」
「それ、言わないまま連れてきたのか……誘拐だろ、それじゃ」
シンシアは呆れたようにラトスに言葉を投げた後、心配そうにアリアとセイアの方を見た。アリアはよく分からないままに、シンシアを見つめ返した。
セラディ・ソーサラーズは四人の「神魔」と呼ばれる魔術師を擁している。魔法を使う際に発する光の色で、その名前は決められる。翠魔、青魔、黄魔、紅魔、それぞれ一人ずつ。神魔は組織の中で大きな力を持ち、その就任にあたっては大規模な儀式が執り行われる。特別待遇の役職であり、場合によると魔術師だけでなく、一般人にもその名が知れ渡る。
「どういうこと、ですか。俺とセイアが、神魔?」
「まぁ、まだ候補だけど。ちなみに二人だけじゃなく、こっちのカイアは黄魔候補、ルシアは紅魔候補。私たちは退いて、つまりは世代交代だな」
突然の話にアリアはただ戸惑い、隣りに座るセイアに目を転じた。当然セイアもうろたえていると思ったが、彼はアリアよりも冷静だった。
「確かに、翠魔と黄魔については、亡くなった後ずっと不在のままでしたから、次の代を立てるのは分かります。でも、青魔と紅魔もですか。ラトス様とシンシア様がいるのに?」
「神魔の交代は、セラディ・ソーサラーズにとっては一大イベントだ。若い二人が就任するなら、いっそ四大神魔を全とっかえした方がいい。おっさんとおばはんの二人がへばりついてるより、な。そういう判断だ」
「ちょっとラトス、今私のことおばはんって言った?」
間髪を入れずにシンシアが突っ込んだが、ラトスは華麗にそれをスルーした。




