その5 談話室へ
「え……あ、初めまして。でも、なんで『様』付け?」
戸惑いながらセイアが挨拶すると、少年はきょとんと首を傾げた。
「あれ、ラトス様から聞いてませんか?あ、ちなみに俺はゼノ・ディオンといいます。以後お見知りおきを」
ゼノがそこまで言うと、ラトスが咳ばらいをしながら間に入ってきた。
「とりあえず、話は談話室に着いてからな。ギノとソフィアは?」
「二人とも談話室に向かってます。カイア様とルシア様にもお声がけしました。ソフィアなんか、朝から落ち着かなくて、ずっとウロウロして」
「おまえもあんまり人のこと言えないだろう。……あぁゼノ、話が終わった後でいいから、いろいろ案内してやってくれないか。俺はここが終わったら、イグーラ様のところへ報告に行かないと」
「分かりました。相変わらず忙しいですねぇ、ラトス様」
ゼノは親しそうにラトスと話しながらも、二人へ向けて「どうぞこちらへ」と片手で建物の入口を示した。アリアとセイアは、何となく顔を見合わせつつ、建物の中へ足を踏み入れた。
建物の中もきっちりとした石造りかと思いきや、ちょっと意外なほどふんだんに木が使われていた。特に四階にある談話室は、窓の造りや壁紙のデザインも凝っていて、暖かみのある雰囲気になっている。
室内は思ったほど広くはなく、中央に大きめのテーブルが一つ、窓際に小さめのテーブルが二つ。大きめのテーブルは十人ほどが着座できるようになっていて、一同が部屋に入った時には、すでに二人が席に着いていた。
二人ともブルーグレイの制服を着用していて、一人は淡い金の髪に深い碧の瞳、細いフレームの眼鏡をかけた美少年。もう一人はヘーゼルの髪を無造作に背に垂らし、髪と同じ色の瞳をした美少女。
扉を開けたとたん、見目麗しい二人に揃ってこちらを見られ、アリアもセイアもややたじろいだ。だが、少なくとも少年の方は初対面ではないことに、二人ともすぐ気付いた。
「……カイア、久しぶり」
アリアの様子を伺いつつ、セイアが声を掛けた。このカイア・トリスという少年は、二人にとって良い印象のある人物ではない。それでも無視をせず、ちゃんと穏やかに声を掛けるところが、セイアの育ちの良さを物語っていると言えるだろう。アリアは仏頂面で横を向いた。セイアが挨拶をしてくれたのだから、アリアまで声を掛けてやる義理はない。
「ま、久しぶりってほどでもないけどな。お揃いで、どうも」
カイアはやや斜に構えたような挨拶を返してきた。彼の言葉が終わらないうちに、隣りのヘーゼルの髪の美少女が不意に立ち上がり、こちらへ近付いて右手を差し出してきた。
「私とは初めまして、よね。こんにちは、セイア・バトル、アリア・コーダ。私はルシア・ミラー、以後よろしく」
「よ、よろしく……」
ルシアが立ち上がったので女子の制服の全容が見えたが、ボウタイブラウスやジャンパースカートの縁飾りなど、控えめながらも華やかな印象だ。彼女によく似あっている。
有無を言わせぬ感じで握手を求められたので、とりあえずアリアがそれに応じた。ルシアは、造作は非常に整っているのだが、やや冷たいというか、あまり表情がないタイプ。アリアの後ですぐにセイアとも握手を交わしたが、機械的な感じで何を考えているのかよく分からない。
「よしじゃあ、席に着いてくれ。正式な入会前だが、今日はまあ、顔合わせってことで」
セイアとアリアが並んで席に着くと、カラカラと音を立ててティーワゴンを押しながら、どこからともなく小柄な栗色の髪の少女が現れた。彼女は制服ではなく、シンプルな黒いワンピースにフリル多めの白いエプロンという、いわゆるメイド服らしきものを着用していた。似合っていて、とても可愛い。
彼女はワゴンからそれぞれの席にカップとソーサーを配り、カップに紅茶を注いでいく。アリアはもちろんこういった場面でのマナーなど分からないが、外側だけでなく内側にも華やかなバラの小花が散らされた上品な白いカップといい、そこに注がれた薫り高い紅茶といい、何か自分が高い身分にでもなってもてなされているような錯覚に陥る。
「ありがと」
紅茶を注いでくれた少女に小さくお礼を言うと、彼女はアリアの方を見て首を傾げ、にこっと可愛いらしく微笑んでみせた。愛嬌のある丸顔で、笑うとえくぼができる。ふわりと柔らかそうな栗色の髪は、アリアの西国の友人である、サラを思い出させた。




