その15 弱い自分を
「え、強い?それはどういう意味で?」
意外そうに聞き返され、仕方なくのろのろと口を開いた。
「……俺は、弱くて薄情だなって。すみません、こんなこと言うつもりじゃなかったんですけど。でもさっきからずっと、そんなことばかり考えちゃって」
シンシアが戸惑った顔をしているのも分かる。急に何の話をしているのかと思うだろう。そして、悩んだところで答えの出ない話なのも、頭の中では分かっている。
分かっては、いるのだけれど。
「ラトス様が、俺の母親のことをずーっと思っているのが、はっきり分かってしまって……なんていうか、すごく居心地が悪いんです。俺が生まれる前に別れてるのに。それに、シンシア様だって」
シンシアは戸惑うように「いやごめん、確かに何でも聞くって言ったけど。ひょっとして恋愛相談?」と首を傾げつつ、
「私は確かにファイアに死なれてからずっと一人だけどね、そもそもそんなにモテないし。だいたい、私は恋愛って向いてないんだよ。それにファイア以上の男はどこ探したっていないだろ」
確信を持って言い切られ、思わず少しだけ笑ってしまった。確かにファイアと同じレベルの男性というのは、なかなか見つからないかもしれない。ファイアは、生前は『世紀の美青年』と呼ばれるほど、完璧な容姿を備えていた。そして、すごく優しかった。魔術師としてはあまり強くはなかったが、そんなことはどうでもいいくらいに。
「……でも俺は、前の彼氏に死なれてから、まだ半年も経ってないんですよ」
笑いはすぐに消え、呟くようにそう言うと、シンシアは軽く目を見開いた。そして、やっと話が分かったというように深く大きなため息をついた。
「それで、薄情だって?バカだなぁ。何も、私やラトスと比べなくたっていいだろ。時間をかけて引きずりゃいいってもんじゃない」
呆れたようにそう言った後で、シンシアは空を仰いだ。アリアがその横顔を見ていると、ふっと表情を崩して、彼女はこちらを向いた。
「セイアと付き合ったこと、後悔してるの?」
思いがけないことを言われ、慌てて首を横に振る。
「そうじゃないんですけど。でも、セイは俺と付き合って本当に良かったのかな、とは思います。正直、何だか今、すごく気持ちがぐちゃぐちゃで」
セイアが一緒に来てくれて、本当に良かったと思っている。でもその反面、セイアを自分の側の事情に巻き込んでしまったという思いもある。セイアの星が光ったことで、取り残されたようにも感じてしまう。更に言えば、ライア―――死んでしまった彼氏―――に対する後ろめたさのような気持ちも、時折顔を出す。
気持ちの整理がつかない。周りを窺うように横を見たり、後ろを振り返ったり。ここまで来てしまった以上、もう戻れない。もっとまっすぐに、自分の進む道へと目を向けるべきなのに。
「……私も別に、強くはないよ」
横から静かな声が聞こえ、アリアは知らず知らずに俯いていた顔を上げた。シンシアはアリアと視線を合わせると、分かるか分からないかくらいの微かな笑顔を浮かべた。それは、アリアが初めて見る、どこかもの悲しさを感じる表情だった。
「今から話すことは、特にラトスには黙っていて欲しい。二人だけの秘密。守れる?」
戸惑いつつ「はい」と答えると、シンシアは覚悟を決めたように小さく息を吐き出し、軽く伸びをしてから話し始めた。
「アリア、手首切ったんだってね。前の彼氏が死んだ後で」
突然に切り込まれ、一瞬言葉を失った。アリアは固く拳を握り締め、ややあってから小さく頷いた。
「……はい。シルヴァから、聞きましたか」
「うん。ごめんね、急にこんな話。でも私は、そっかぁ……って思ったんだ。全然、意外じゃなかった。私も、ファイアが死んだあと、一度だけ……死のうと思ったことがあるから」
「え」
今度こそ完全に言葉が出なかった。




